おっさんじゃないぜ!

気が付くと周りはしょぼいおっさんだらけ・・・オレもそうか?いや、ちゃうぜ!・・・きっと・・・

原作おはなしーその5「瞬間」

2016年10月05日 17時14分10秒 | ジバクレイ達の世界

時の堰(ときのせき)第5章「瞬間」

「パパ!何で死んじゃったの!酷いよ私とママを残して!」

うららの父は呆然と立ち尽くしていたが、「うらら。」と小さく呟く様に娘の名を呼ぶと続けて「ごめんな。」とささやいた。

監物はうららとその父を凝視していたが、やがてサヨに「うらら殿の父か?」と聞き、ただ頷くサヨを見ると、ちょっと不機嫌になってその場に腰を下ろした。

「私は親友のサヨちゃんとレン君が突然事故で死んじゃったから絶望してて、呆然としたまま帰ってきたら今度はパパが自殺していて、ママも絶望してて、一緒に死にたいと言われて、私も死にたくなっちゃったのよ。」

うららは大粒の涙を流しながら顔を赤らめて話している。うららの父はそんな娘の様子を伺いながらただ「ごめん。」と短く繰り返していた。

レンはただ黙って様子を伺ってたが、うららの父にそっと近づき声を掛けた。

「うららちゃんのお父さん。オレとサヨが事故に合って死んじゃったのもうららちゃんを死なせた因果の一つかもしれないけど、普通に考えれば、うちに帰ったらお父さんが自殺してたら、うららちゃんもお母さんも相当なショックを受けると思うよ。」

サヨも動揺しながらレンに視線を送り、頷いている。

「先に死んじゃったオレが言うのはオカシイのかも知れないけど、オレの大切なうららちゃんを絶望させないで。死なせないで。」

うららも大きな目に一杯の涙を溜めてレンを見つめる。レンはじっと見つめるうららの父に向って語り続けた。

「ここにいる監物殿や大石殿、金子殿、士郎殿、サヨも吉良さんも白井さんもキヨミさんも中畑君も、みんなにとってうららちゃんは大事な大切な人なんだよ。うららちゃんは監物殿の姫君の千代姫の生まれ変わりだから、みんなうららちゃんを助けたくて集まっているんだ。」

レンの語りにただ黙って頷いていた監物だったが、突然立ち上がり、うららの父に向って行き、語った。

「ワシはうらら殿の転生前の千代姫の父の監物じゃ。だで、お主もワシもうらら殿の父なのじゃ。お主はうらら殿の目の前で死にざまを見せたようじゃが、ワシも千代の目の前で腹を割っさいて自刃して果てた。千代もうらら殿同様さぞ悲しんだが、それは戦国の世、追手から千代を逃がす為に企てた策じゃ。お主はうらら殿に何の策をもって自害されたのじゃ。」

監物の強面の顔がうららの父を睨む。

「うらら殿の父よ。うぬはうらら殿の行く先を考えての自害だったかの。」

困惑する父を見てうららは監物に言った。

「父上。このうららの父も戦国の世同様に社会に追い詰められ苦しかったんです。もうどうしようもなくなって、自害を選んでしまったのです。この一見平和な世も戦国の世と同じく生きていくのも大変なのです。」

うららは監物を大きな瞳で見つめている。

「ほんに、千代はうらら殿はいい子じゃ。どんなにこころ苦しゅうても父を庇い助ける。うらら殿は父を理解しようとしている。父殿はどう思う。」

うららの父は娘に「ごめん。本当に取り返しのつかない事をしてしまった。」とただ謝っていた。

「うらら殿の父よ。こんなに可愛く美しくなお、賢い娘を死なせて良いものか。お主もうらら殿を助けぬか。うらら殿はワシの娘の転生だで、絶対に助けるのじゃ。そのためには千代姫の末裔であるサヨ殿とレン殿を助け、何が何でも事故の起こる前の時に二人を戻さねばならないのじゃ。」

監物はうららの父に向って問いかけた。

「して、あの化けものを作ったのはお主か。」

うららの父は「はい。」と答え、「いまいちはっきりしないのですが、ここで作ったものです。工場の警護ロボットです。」と続けた。

「あの、南蛮の場所はなんなんじゃ。」と監物が聞くと、右腕につけているアップルウォッチみたいな装置を見て「同じ時に止まっている外道界を移動する装置です。」と答えた。

うららの父は思い立ったかのように「そうだ。この世界には時がないのです。」と言い、「過去も未来もここには存在していたのです。」と言った。

「パパは過去と未来の移動のしかたを知っているの?」うららがそう父に聞くと、「いや、過去のものと未来のものが混在しているだけで行き来はできなかったんだ。」と答えた。
「しかし、天子は行き来しているようだね。」

うららの父はそういうと、かなりメカニカルな腕時計のような装置を皆に見せた。

「これは、ボクが逆巻きのネジと呼んでいる装置で数時間から数分時間を巻き戻せる装置です。これは星空を眺めると年代の違う情景が混在していますがこれを応用して僅かに時を遡ることのできる装置です。」

と説明し、黙って聞いている監物たちに向けて続けた。

「これもここで造って試しましたが、そもそもここでは時がないので時を戻せません。ですが、例えばここから天界(天道)に行くと輪廻転生のサイクルの中に入り、時が進みはじめます。その瞬間にこれを使えばここで止まっている時間から少し戻す事が出来ると思います。」

「ほう、ではここの世界がどの時で止まっているのか解れば戻れるか判断できるのじゃな。」

監物はそういうと、「ここが何時で止まっているのか解る方法はないのかのう。」と続けた。

「どうやら、この世界と同じ時で止まっている外道界は先ほどのホワイトホール宮殿のようですので、あの場所に戻って、王を解放して輪廻に戻せばその瞬間が解るかも知れません。」

うららの父がそう答えると「斬首されてしまうわ。」と監物が答えた。

「いや、城代。今度は一同で向かえば攻略できるかもしれませんぞ。」

照基がそう答えると「王は呪われているので、その姿を打ち倒せば外道界から解放され、六道のどこかへ行き、輪廻に戻れるでしょう。その瞬間、呪われた王とその宮殿が消えて止まったままのロンドンに戻るでしょうからロンドンで時をみればいま、何時なのかが解るとおもいます。」とうららの父が答えた。

「いや、でもあの奇術が・・・」

監物はなにやら心配があるらしい。

「ワシが囮で彫像やら鉄の鎧やらと戦っていると、火の玉を投げて来る奇術を使う者が現れて、刀では太刀打ちできなかったんじゃ。で、捕まってしまったわけじゃ。あの奇術を何とかせぬと王を倒せぬじゃろ。」

「奇術!」一同は監物の話を聞き驚きの声を上げた。

「それは忍術のようなものか。城代。」

照基はそう監物に尋ねると「解らぬ。刀で切れぬし、防げないのじゃ。兎も角(ともかく)、熱くての、戦えんのじゃ。」と言った。

「ならばその奇術が始まったら水で消したらどうなんじゃろ。」

家重がそう言うと「どうやって水を持っていくんじゃい。」と監物がつっこむ。

「では一同、水を被ってから行かれたら少しの間はその奇術を防げるのではないかの。」

照基は真面目な顔で答える。

「うらら殿の父殿。この工場内に水はあるかの。」

監物がそううららの父に聞くと、「では手伝って頂ければ簡単な水鉄砲を作って持っていきましょう。」と答えた。

「ほう、水鉄砲とな。それはいい考えじゃ。」

監物がそう答えるとうららの父は太めのパイプを切って手押し式の水鉄砲を20本作った。サヨもレンもうららも兵たちも皆手伝って。

まず、水鉄砲隊を編成した。今回はサヨと白井さん、キヨミ、吉良さん、中畑君、うららの父が水鉄砲隊に組み入れられた。水鉄砲隊は監物を筆頭に士郎が警護に付いた。

王追撃部隊としてうららを筆頭にレン、照基、家重が付き兵は10名ほどのコンパクトな部隊にした。

「いざゆかん!」監物の掛け声に一同が「おー!」と雄叫びをあげると、うららの父がスイッチを入れた。

眩い光があたりを包み込む。みな、一瞬目がくらみ、サヨが気が付くと見覚えのあるホールにいた。

遠くに王の玉座が見え、首のない王が立ち上がると、王の不気味な声がホールに響いた。

「愚かな者たちよ。みな捕らえて斬首してしまえ!」

ホールの鎧たちが動き出し、彫像が動き出し、監物たちを襲った。

うららと照基たちの王追撃隊はそのまま走って王に向かった。

王は自分の首を抱えると、玉座の裏に消えていく。レンは持てる槍を王目がけて力いっぱい投げた。

槍はホールの空気を引き裂き、王を目がけて放たれていった。

石の壁を突き刺し砕く轟音が響き、王の首の左頬をかすめて切り裂いた。

王の首は振り返ると怒り、全身から負のオーラが沸き立っている。

「おのれ、このチャールズを辱めようとするか!」

怒り狂った王は「いでよ従者たちよ。この者たちを焼き殺してしまえ!」と狂気に満ちた叫びに似た嫌な声で叫び、魔導士を召喚した。

うらら達の前に魔導士が現れ、火炎玉を作って投げて来る。

すかさず水鉄砲部隊が台頭し、魔導士の炎に水を掛ける。魔導士の炎は消え、うららは飛ぶように魔導士を討ち果たしていく。

レン、照基、家重と兵10名は、うららを先頭に長細い槍のように魔導士たちと鎧たち、彫像たちを攻略していく。その後方ではサヨや監物が襲い来る鎧や彫像たちと戦っている。

「いける!」うららはそう感じていた。

王は怒り狂って炎を部隊に向かって放っている。うらら達の後に続くサヨ達水鉄砲部隊は炎があがるとすかさず放水して鎮火させる。

うららは王にたどり着くと一太刀浴びせた。刀は王の体を切ったが、あまり手ごたえはなかった。

「無礼なものたちよ!」

王はそう絶叫すると王の体を切り裂いたうららの刀をわしづかみにしてた。

「きゃ!」

うららは刀を掴まれるとそのまま王に引き寄せられ、王の血まみれな体につかまってしまった。

「おまえは斬首じゃ。」

王は人とは思えない不気味な表情でそう絶叫すると剣をもった手を振り上げ身動きの取れないうららの首元に振り下ろした。

鈍い突き刺さるいやな音が聞こえた。

「ぎやー!」

王の絶叫がホールに響いた。

レンが王の左わきに腰を低く槍をもって構えていた。

槍は王の首の額を突き刺し、脇腹へ貫通して体ごと突き刺している。

「そうだよね。頭が本体だよね。」

レンがそういうと王は蒸発したかのように消え失せた。

魔導士たちも蒸発し、轟音と共に宮殿も崩れ始めた。

「おお!なんじゃい!轟音と共に崩れている宮殿が蒸発していくぞ。」

監物の大声が聞こえ、サヨ達は写真で見た事のあるロンドンの夜のトラファルガー広場にいた。

「どこじゃい!ここは!」

監物達はあたふたと周囲をみまわしている。

トラファルガー広場には沢山の観光客がいて、日本人も多くいるようだった。

ただ、普通と違うのは、まるでそのまま凍ったように何も動いていないのだった。全てが止まっている。

「サヨ、うららちゃん、みんな時計を探して!」

レンがそういうとみんな時計を探して駆け出した。

「今、2016年6月5日午後22時30分だよ!」

時計をみつけたサヨの声、白井さんの声、中畑君の声が次々聞こえた。

うららは「時差は9時間だから、日本では翌日朝7時30分。サヨちゃんとレン君が事故に合ったその時だ。」といった。

どうやらこの外道界はサヨとレンが事故に合ったその時で止まっているらしい。

監物達はこの事を知り大いに喜んだ。やはり、因果はサヨとレンの事故の瞬間にあった。


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