念願のお弁当を食べ終わり、映画館に向かった。
昨日まで、この作品にしようか、それとも『英国王のスピーチ』にしようか迷っていた。だが、失礼ながらアカデミー賞候補作の方はロングランになるだろうからという計算を働かせたのと、主演された石田ゆり子さんに惹かれ、『死にゆく妻との旅路』を選んだ。
多額の借金を抱え金策に走る、三浦友和さん演じる男性には、一回り年の離れた妻がいる。彼女は夫を愛し、離れたくないと思っている。ようやく戻ってきた夫と共に、職探しの旅が始まり、そしてその旅の途中、癌を患った妻の容体が悪化し、そして、妻の命の灯が消えるとともにその旅が終わる。
実話をもとにした作品ということで、結末もわかっていた。だが、そんなことは気にならず、映画に惹き込まれた。借金を抱えて逃げ回る人を「だらしがない」と言い捨ててしまいがちだが、それぞれの事情がある。そして、心やさしい人が理不尽な借金を背負うことも少なくない。次第に病魔に蝕まれていく妻に寄りそう夫の姿に、その心のやさしさを感じた。だからこそ、妻は離れたくないと思ったのだろう。
映画を見ていて、愛は長さより深さだと思ったが、ラストで妻を失った悲しみに打ちひしがれる夫の姿に、簡単に答えを出せないと思い直した。愛する人もいない僕には必要に迫られないことではあるが…
三浦さん、石田さんは、夫婦の微妙な心の動きを過剰にではなく自然に演じられていた。そして、そのさりげない動きや表情に僕の涙腺は反応した。映画館に集まった多くの人たちも、程度の差はあるだろうが心を揺さぶられたのだろう。
さて、僕は物語に惹き込まれつつ、石田ゆり子さんの透明感に魅了されていた。全日空のキャンペーンガールとして肌を小麦色に輝かせていた頃と変わらない魅力と、大人になるにつれて増した輝きを併せ持っている。
映画を観終え劇場を出ると、すれ違う人々の視線気にしてしまい、空を見上げた。この青空の向こうに、僕の全てを捧げたいと思う人はいるのだろうか。