story・・小さな物語              那覇新一

小説・散文・詩などです。
那覇新一として故東淵修師主宰、近藤摩耶氏発行の「銀河詩手帖」に投稿することもあります。

鬼無里の姫外伝(其の弐) 信濃の鬼武 

2020年05月25日 09時25分48秒 | 小説

男は山野を駆け抜ける。

花の季節は過ぎ、新録で満たされる山々の中だ。

 

ここは信濃国、時は康保年間(九百六十四年からの四年間)、平安時代の中ごろ、村上天皇の御代である。

国司の兵など彼には怖くはなかったし、広大な山野を駆けるのも我が庭を行くかのごとしであるが、駆けていく彼の背には大きな荷物があった。

 

背後から追っていた兵たちもやがて諦めたようだ。

男は尾根の上からはるか下界を眺め、奪ってきた食料の中から一掴みの焼米を齧り竹筒の水を飲む。

さすがの男も少し疲れたようだが、まだ彼には仕事があった。

背に背負った大量の食糧を仲間の元へ届けねばならない。

 

顔中が髭に覆われ、恐ろしい目を周囲に向ける。

身体はさして大きくはないが、全身が筋肉質で、まとった襤褸は彼の上半身の半分ほどを覆うに過ぎず、彫り込まれた腹筋が彼の筋肉質を表している。

 

谷あいの、猟師でも迷うような藪の中に彼ら仲間の小屋が築かれていた。

男は小屋の前で周囲を見渡し鳥の鳴きまねをする。

 

小屋からまだ少年のあどけなさが残る別の男が出てきた。

「大将、ご苦労でござりました」

「おう、これでしばしは食えるわ」

山の中ゆえ、鳥獣の肉はなんとなかる。

だが、穀物や野菜がないし、酒もここでは手に入らない。

手に入らぬものは山を下りた下界で奪ってくるしかない。それが彼らの流儀でもある。

そのうち、下界に出ていったものや、山中で獣を追っていたものが帰ってきた。

「今宵はまずまずの収穫だの」

髭の男は少し嬉しそうに笑った。

 

適当なものを鍋に放り込んで夕餉とする。

奪ってきた酒は欠かせない。

「鬼武どの・・」

髭の男に別の男が改まった表情で声をかけてきた。

「なんだ」

鬼武と呼ばれた髭の男は、別の男を見据える。

「もう幾年、かような山中で盗賊として生きているのであろうかと」

「致し方あるまい」

鬼武は不機嫌そうに返事をする。

「せめて、この辺りの谷あいにだけでもわれらの王国を築かねば」

「表立ってそんなことをしてみろ、すぐに都から大軍を送られて捻じ伏せられるであろうよ」

「だが、我らは決して盗賊になりたくて成ったわけではあらぬゆえ」

「分かっている。われも新王様への誓いを忘れたわけではない」

鬼武は発言した男を睨み据え、男はやや怯んだ。

「鬼武どのを疑っているのではないが・・・」

折角の、久しぶりに食べるものがたんとある夕餉が気不味いものになりかけたその時、先ほどの少年がふっと別のことを口に出した。

 

「聞いた噂ですが、この下の水無瀬の村に、それはそれは美しい女人がおられるそうです」

「ほお・・」

鬼武はじめ、他の男たちはその話題に興味を示した。

「それも、都から鬼だと言われて流されてきたそうで、将軍の側室だったとか」

「どの将軍の側室だったのだ」

「鎮守府将軍、源経基らしいです」

「気にいらぬの・・」

鬼武は呟く。

「女は将軍から追い出されたのですから、将軍を恨んではいるのかもしれなせぬが」

「まあな、われは気に入らぬ名前が出たからそう言っただけだ」

「その女に、都の平惟茂が相当入れ込んでいるようです」

鬼武はさらに眼光を鋭くした。

「さらに気に食わぬ名前よな、平惟茂と言えば、憎きわれらの仇敵、平貞盛の養子ではないか」

「でも、女は惟茂にはさして気がないようで、源経基との間の子を大事に育てているとか」

「ほお、連れているのは息子だけか」

「母親も一緒にいるらしいですが」

「しかし、いくら経基の側室だったからと言っても惟茂が思いを巡らせるほどの女なのか」

「はい、その女はあらゆる学問に長じていて、医術の心得もあり、琴の名手、しかも非常に優れた人格者で悪党どもまでその女を敬うそうです」

「おい、その噂は何処からのものだ」

別の男が少年に問う。

「お万さんからですよ」

「なんだ、お万か、やつの情報は時にあてにならぬことがあるでの」

お万とは、彼らと同類の山野を駆ける野盗ではあるが、彼らと違って何か理想を持っているわけではなく、ただ生きていくために野盗に身を落としている女集団の首領で、まだ若く二十歳にもならない。

野盗にしては美しい顔立ちをしているが、恐ろしきことはまさに鬼のようで、一晩に三十里を走り、巨岩を持ち上げ放り投げる怪力無双は彼らとて歯が立たない。

また、お万のもとに集まった女たちいずれも大の男でも歯が立たぬ怪力の持ち主だった。

 

だが、案外磊落なところもあり、時々気まぐれにこの小屋にもやってきて、若いものをからかったりする。

「お万は、水無瀬の美女に会ったことはあるのか」

「何度か会ったらしいですよ、水無瀬は不思議なところで、お万さんになら何も言わずとも食料をくれるそうで、村長と親しいらしいですから」

「ま、お万は水無瀬の守護神のような存在だからな」

「村を守ることで村からの提供も受けていると」

「そうだ、奴はああ見えて、なかなか、世渡りが上手だからな」

 

「だが・・・」

鬼武は立ち上がった。

「久しく、女も抱いてはおらぬ・・・」

そう呟く。

「女なら、押し入った先でやっちまえばよいでしょう」

端のほうにいた男が口をはさむ。

鬼武は血相を変えた。

「おい、われらが貰うのは食い物と酒だけだ、そこにいる女には手を出してはならないと言ってあるはずだが」

男は慌てた。

「いや、まぁ、極論ですが、どうしてもというのなら」

鬼武は男を睨みつけた。

「おまえは、まさかそういうことをしているんじゃないだろうな」

「いえいえ、めっそうもない」

鬼武が激怒すると何をされるかわからない、喋った男は恐怖に汗をかく。

 

 

鬼武の脳裏に将門と行動を共にしていた(と言っても彼は警護の一兵士でしかなかった)時の記憶が呼び起された。

それは天慶三年(九百四十年)の春、常陸、石井(いわい)でのことだった。

将門は何処かに潜んでいる平貞盛らを探せよと命じていた。

十日間に及ぶ大捜索でも探す相手は見つからなかったが、平貞盛と、そして将門の乱の原因ともなった争いで死んだ源扶(みなもとのたすく)の妻を探し出すことができた。

だが、将門配下の兵たちはその二人に凌辱の限りをつくし、素っ裸で将門の前に連れてきたのだ。

縄をつけられ将門の前に引き出された女二人は、顔も白い肌のあちらこちらも腫れ上がり血をにじませ、恐怖で震えていた。

将門は部下のしたことへの怒りを必死で抑えながら「済まぬことをした、あなたたちには関係のないことだ」と、その二人に衣服を着せて逃がしてやった。

 

二人を彼らの営所から送り出したのは鬼武だった。

「申し訳ないことをした、いくら戦であるからと言っても女人に非道なことをしてもよいなどと言うことはあり得ぬ」

送り出してやりながら彼も詫びた。

二人の女は軽く頭を下げて、あとは、小走りに駆けていった。

 

 

「それにしても、久々に胸が騒ぐ」

鬼武は呟いた。

水無瀬にいるという女に会いたい。

「その女の名はなんという」

「紅葉(もみじ)と名乗っているそうです」

よし、すぐにでもその紅葉とやらに会ってみよう。そして出来れば己の女としよう。

そう決めた鬼武だった。

 

数日後、鬼武は人目につかぬように水無瀬に入る。

 

不思議に気持ちが明るく騒ぐ。

こういう気持ちになったのは平将門様と初めて会った時以来だと思う。

あれは、承平八年(九百三十八年)平将門が信濃の小県(ちいさがた)へ平貞盛を追ってきた時だ。

「武士の頭領が来る、われらの時代を作るお人が来る」

土地の人の間で噂になった。

自分も武士の末裔と信じていた鬼武は、将門の気概を伝え聞き、是非にもその仲間に加えていただきたいと、自ら願い出たのだ。

その時以来の気持ちということだ。

 

水無瀬の村の中ほどに「内裏屋敷」と称する小ぶりな館があり、そこに紅葉はいるという。

大層な名前を付けられたその屋敷には警護の人までいて、土塀は高く簡単に侵入などできそうになかった。

無理やり押し入ってもいけないことはなさそうだったが、この村を縄張りにしているお万との軋轢は避けたい。
そこで彼は堂々と正面から申し入れることにした。

「頼む、ここにおられる紅葉どのという女性にお会いしたく、まかり越した」

警備の村人に断られるか、そうなれば場合によっては実力行使もやむを得まいと覚悟も決めてはいたが、意外にもすんなりと建物の奥へ取り次いでくれた。

 

やがて現れた女性の美しさに鬼武は息を呑んだ。

「何方さまでしょう、吾に何の御用でございましょうか」

気品のある凛とした声だ。

「われは、鬼武と申す武士の端くれにて」

何十年もしたことのない名乗りをする。

「鬼武どの、さて、この辺りでよく御名を伺う盗賊の首領ではございませぬか」

その会話に横にいた村のものがさっと太刀を持とうとする。

「構えなくてもさして大事にはなりません」

紅葉は村のものを諭す。

「略奪に来られたくらいなら、きちんと名乗りはなさいませぬ。そうでありましょう、鬼武どの」

鬼武は一瞬にして紅葉の中に取り込まれてしまった気がした。

「は、われはまさに、盗賊と言われております。が、ただ盗賊稼業をしているわけではありませぬ、此度はあなた様にぜひ一度お会いしたく山を下りてまいった次第」

紅葉は彼の様子をじっと正面から見据え、「奥へ」と促す。

 

「それにしても、すごいお鬚ですね」

部屋に通された鬼武を紅葉はいきなり揶揄う。

「は、山中での生活ゆえ、身だしなみも出来ませぬ」

「せめて、欲しいと思っている女を尋ねてこられるのでしたら、もそっと身だしなみを整えられた方が良いかと」

そう言ったかと思うと紅葉は笑い出した。

鬼武は言葉も出ず、あっけらかんと笑う紅葉を見るしかない。

「あなたは鬼武どの、そして吾はここに流罪された鬼女」

「は・・」

神妙に返事をする鬼武がおかしいのか、またくすりと笑う。

いつしか鬼武は、紅葉の臣下のような気分になっている己に気が付く。

「いかがでしょう、この紅葉をあなたの女にできますか?」

紅葉はさらにそんなことまで言う。

・・これは、普通の女性ではない、とんでもない大物かもしれない・・

鬼武は冷や汗をかきながらそう心中で呟く。

「あなたが、ここに来られることは分かっていました。お万さんから伺っていたのもありますが、吾を自分のものにしようとこれまでも多くの殿方がいろんな手を使って近づいてこられました」

「さようでござりますか」

「でも、もう、男はこりごり、吾は誰の女にもなりませぬ」

紅葉はそういうと、少しきつい目をした。

「もし、吾をここから奪おうと、少しでもそのような気持ちを見せられたら」

一瞬の沈黙の後「どうなりますか・・・」と、やっとのことで鬼武は言葉を絞り出す。

「もはやこの館は屈強な男たちに囲まれておりますゆえ、いくら鬼武どのでも生きて出ることは叶いませぬ」

そう言えば、先ほどから鳥も鳴かぬ妙な静けさを感じている鬼武である。

「ただ、お万さんからあなただけは他の盗賊とは少し違うようだと聞いておりますゆえ、此度は村の方に通してもらった次第です」

そして紅葉は姿勢を正した。

「あなたは、なぜに盗賊をされているのですか」

しばらくの沈黙の後、鬼武は覚悟を決めたかのように語りだした。

 

自分は新王様(平将門)の残党であり、新王様のそばで警護していたのだが、関八州を平定しおえ、常陸の石井(いわい)の営所にて新王様から「しばし、みな故郷に帰れ、そして家のことなどをなし終えてからまた集まってくれ」と言われ、故郷の信濃に帰った。

ところがすぐに平貞盛、藤原秀郷の軍に攻められ、石井は焼き討ちされ、まもなく新王様が殺された。

それ以来、自分は信濃の地で残党狩に警戒しながら、いずれ新王様の意志を継ぐために時を待っているのだと。

 

この女は何歳なのだろう・・・鬼武は語りながら不思議に思う。

自分は今、五十歳を出たところで、人生の多くを舐めてきた自信はある。

だが、この紅葉という女はうんと年下のはずなのに、自分からこれまで滅多に他人には語らなかった過去をすぐに聞き出してしまった。

「吾も、都で源経基さまに鬼にされ、殺されかけた・・」

紅葉は鬼武の話を聞いてふっと呟く。

「都合の悪いものは消してしまうのが一番、それが京人の感覚なのでしょう」

鬼武は少し語調を強くした。

「源経基と言えば、最初に新王様を悪逆人に仕立てた男、最初は経基の言い分が間違いであるとして経基が処罰されたのですが、やがて、子細な領土や相続の争いから新王様が巻き込まれて乱になると、都で権勢を復活させた大悪人でございます」

「その話も伺っています。でも伺っておきながら、史実を知っておきながら吾は京の貴人の生活に憧れてそこに入り込んでしまった。まさか、自分が同じ目にあうとも知らず」

「さようでございましたか」

「女というのは哀れなものよ、煌びやかな世界の足元がどんなに汚れていてもそれは見えないし見ようともせず、自分が巻き込まれて初めて激しく後悔するが、時すでに遅し」

ふっと紅葉を見ると俯いている。

泣いているようだ。

 

「そろそろお暇を」

鬼武はそう言って立ち上がろうとした。

この女性は自分の「女」になどできない、そう降参して退け時を感じたのだ。

「鬼武どの、少しお待ちください」

すがるように紅葉が言う。

「は・・・」

「吾はあと幾年かで鬼女として討伐されましょう」

「まさか、もう流刑後もかなりになるのに」

「平惟茂(たいらのこれもち)どのが、都で何か変化のあった時が危ないと言ってくださいました」

「平惟茂ですか、憎き平貞盛の養子」

「ですが、かの人は京の人には珍しく実直な人です。これは忠告として受け止めております」

「しかし、先ごろ信濃守に任ぜられた御仁ですぞ、もし、紅葉様を討伐されるならまさにその惟茂が来ることになるでしょう」

「分かっております。村には迷惑をかけたくないのです」

腑に落ちない顔をしている鬼武に紅葉は驚くことを言った。

 

「先ごろより帝が重い病で寝込んでおられるとか、宮中の改革に熱心であった帝がお隠れになりあそばせれば、それまで抑えられていた都の、ただのお飾りでそこにおられる貴人たちが、わっと出てくることでしょう」

「そのようなことまでご存じなのですか」

「都のことは手に取るようにわかるのです。どうかともに戦ってくれませぬか」

 

そう言われても鬼武には信じられないことではある。

「女性一人に討伐隊などあり得るのでしょうか」

「都の兵たちは吾が必ず徒党を組んでいるとしてやってきます。吾が一人であると知ったなら、無理やりに水無瀬村の人たちを徒党であるとみなして攻撃するでしょう」

「そのようなことがありますか・・」

「吾はそうなると思っております。惟茂どのは吾を鬼とは思っておられないでしょうが、都では吾は村や里を荒らしまわる鬼だと噂されているとのこと。吾が世話になっている水無瀬を、都の兵たちの攻撃から守らねばならぬのです」

もしかしたら、その原因は自分や自分の部下にあるのかもしれぬ・・
鬼武はそう思った。

村や里を荒らしまわっているのは紅葉ではなく自分たちなのだ。

いや、そのことも紅葉にはすでにお見通しなのかもしれない。だからこそ、自分と会ったのだ。

鬼武のなかで自分たちと、紅葉を鬼だという噂とが繋がった。

 

「わかりました。されど、勝てますか?あの新王様でも卑怯な手を使われお負けになられてしまった都の連中に」

「勝てるかどうかはわかりませぬが、吾には少し兵法の心得もあります。それにあなたさまも新王様のご遺志を継ぐ機会が必要でしょう」

それを言われると鬼武としてはどうしようもない。

確かなことではある。

 

都のものに一泡吹かせ、あわよくばこの山の中にでも都の権力の行きつかない理想郷を作れるのかもしれない。

だが・・それは難しかろう、難しくても良い、この女性を護るという使命ができるのは良いことだ。

一瞬のうちに鬼武は考えた。

そして「畏まりました。この鬼武、命を懸けて姫をお護りいたします」と答えていた。

 

その頃を見計らったように長老風の男が部屋に入ってきた。

「紅葉どの、お話はいかがであるかな」

紅葉は少し頬を赤らめ、その男にこたえる。

「村長どの、こちらの鬼武どのが共に戦ってくれることになり申しました」

「それは良かった。それでは警護のものを去らせることにしよう」

村長がそう言い、口笛を鳴らした途端、館の周囲から何十人もの屈強そうな男が出てきて走り去るのが見えた。

それどころか、彼らが話をしていた部屋の縁の下からも数人の男が出てきて去っていくが、その者たちはどう見ても野盗か野武士にしか見えぬ男たちだった。

先ほど紅葉が鬼武に言った「もはやこの館は屈強な男たちに囲まれておりますゆえ、いくら鬼武どのでも生きて出ることは叶いませぬ」という言葉が嘘ではなかったということだ。

「恐れ入った、この手配は村長どのか」

思わず鬼武が訊く。

村長はかぶりを振って、紅葉を指さす。

「策はすべて吾がなしたことよ」

紅葉はそう言って軽く笑った。

「先ほどの男たちは、われと同じような世界のものと見たが」

「すべて、吾を我が物にしようと近寄ってきた方々です。お話をして吾の配下になっていただいております」

鬼武は背筋が凍るのを感じた。

今の彼には怖いものなどないはずである。

だが、この小さな館は、彼ですら想像もできない連中により守られていた。

「では、われが紅葉どのとともに戦うことを決めず、さっさと帰ればどうなったのか」

鬼武が問う。

「ただ帰るだけなら何も致しはしませぬが、吾に歯向こうてきた時にはということです」

紅葉は笑って答える。

 

村長はまた口笛を吹いた。

さっと、目にも止まらぬ速さで、お万が彼らの目の前、庭先にいた。

村長が語り掛ける

「お万、話は繫がったぞ」

「あら、鬼武どのともあろう大悪党も、姫様には敵わずでございますか」

「そうだ、ころりと決まったようだ」

「それは宜しきことかと」

「ついては、お万にも鬼武どのと一緒に、紅葉を護ってやってほしいのだが」

「されど、吾には、鬼武どののような高尚な目的もありませぬゆえ」

「いやいや、お万は怪力ばかりではなく人の情に厚い、いくら紅葉が気が強くても、周りがむさ苦しい男ばかりであればさぞや鬱陶しいであろう。お万が必要なのだ。紅葉の良き相談相手になってやってくれ」

「これまで、誰かの役に立ったこともなく、ただ、人に嫌われるようなことしかしませんでしたが、そんな吾で宜しければ」

お万が頭を下げた。

 

まもなく鬼武は荒倉山に向かっていった。

村長からの謝礼を仲間に分け、砦を作り、そこに紅葉を呼んだ。

紅葉は、息子や母は村に置き、戦に巻き込まれぬように言い含め、お万とその仲間に連れられ、山の奥に入っていった。

山はまもなく夏の季節を迎えようとしていた。


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