K.H 24

好きな事を綴ります

長編小説 分かれ身 ⑩

2021-12-01 07:13:00 | 小説
第什話 進歩
 
「卒業おめでとう、六年間はあっという間に過ぎたね」
 
 愛優嶺の店を店休にして、六子らの小学校卒業を祝う会食が始まった。獏之氶は勿論、美佐江や七助とその家族が集まり盛り上がっていた。一人を除いては。
 
「小二郎さん、どうしたんですか、食欲がないのですか」
 獏之氶は来年度から高校三年生になる美佐江の次男である小二郎を大人扱いするようになり、〝さん〟付けで呼ぶようになっていた。
「小二郎、獏さんが心配してくれてるのよ、自分でいいなさいよ」
 美佐江は小二郎へ強い口調にならないよう、悪いことをしたようにならないよう、柔らかい口調で声をかけた。
「獏さん、ごめんなさい、昨日の試合の個人戦で準決の前の試合で負けて、団体も二回戦で負けてしまって、選抜大会出られなくて」
 小二郎は、今年度の夏のインターハイに剣道で準優勝し、選抜大会の地域予選で、全国大会の切符を勝ち取ると優勝候補に上がっていた逸材になっていたのだ。
「だから、そのショックがなかなか拭えなくて、自分でもどうしたんだろうって思ってるところなんです」
 小二郎の言葉を聞いた六子達は一斉に小二郎へ視線を向けた。
「お兄ちゃん、何か特別なことあった、負ける前か後に」
「いや、特にないと思うけど、あっ、ライバルの一雄《かずお》君の妹の一渼《かずみ》ちゃんから、お互い全力を出して決勝戦まで勝ち上がってって、初めてお守りもらったかな」
 慈由无は小二郎の異変に気づいたが、普段通りの雰囲気で声をかけた。
「慈由无、みんな、見えてきただろ、釈亜真」
「分かった、お兄ちゃん、そのお守り貸して」
 剣侍狼がお守りを見るよう促すと、そのお守りに全員の視線が集まり、小二郎は不思議そうな顔で釈亜真に渡した。
 釈亜真は右手でそれを受け取った。
「お兄ちゃんも見える、お守りから影が浮き出てきたでしょ」
「本当だ、何、これ」
 小二郎は開いた口が塞がらなかった。
「見ててね、私の紫の光で包んであげるから」
 釈亜真は、右手の掌に乗せてたお守りの上に左手の掌を向けた。両手で球体を持っている仕草になり、左右の掌から紫色の光が出てきて、球体になると影は一瞬で消えた。
「凄いよ釈亜真、まるで魔法だ」
 影が消え去る手前から小二郎は叫んだ。
「うん、お兄ちゃんはもう大丈夫だ」
 消え去った直後に拳逸楼はそういった。
「えっ、何があったの見えなかったけど」
「私も」
 愛優嶺と美佐江は影と光は見えなかったようだ。同じく七助もそうだったようで、眉間に皺を寄せて首を竦めていた。
「私は見えましたよ」
「僕も薄っすら見えた気がする」
 獏之氶と一太は見えたようだ。
「拳逸楼、僕はもう大丈夫ってどゆこと」
 その場にいる誰が見えて、誰が見えなかったかということは無視して小二郎は拳逸楼の言葉に反応した。
「お兄ちゃん、落ち着いて聞いてね、今いっている影は、人の心の弱さが作り出すものなの、言い換えれば、心の闇ってことかな、例えば、学校のテストの点数が悪いと、先生とかお母さん達には、次頑張るなんていうけど、自分のなかでは、その科目が嫌いでしょうがないってことがあると思うんだけど、そんな思いが何かのきっかけでね、影になって、取り憑かれた人は災いを被ることが多いのよ」
 釈亜真は得意げに早口になった。
「なるほどね、言霊と似てるな」
 小二郎は釈亜真の話を聞くと冷静になれた。
「小二郎兄ちゃん、言霊ってなに」
 剣侍狼は勿論、他の六子達も初めて耳にする言葉で、六人は興味深い表情になった。
「言霊ってのは、〝だま〟が幽霊の霊の字をそう読むんだけど、例えば、試合の時に先生が、〝お前が強い〟なんていわれ続けると、勝てなかった人に勝てたとか、〝相手は実力を上げてきたから負けるかも〟なんていわれると、今まで勝ってた相手に負けちゃうとか、その言葉通りにことごがとが運んだりするんだ。そんな時に言霊だったなって使うんだよ」
 今度は小二郎が得意気に話した。
「そんな言葉があるんだ、言霊ねぇ」
 迦美亜は関心していた。
「似てるけど、影にはもっと力があるよね」
 慈由无はみんなに確認した。
「うん」
 五人はシンクロした。
「何だよお前たち、スッゲェ声合うじゃん」
 一太は思わず口走ったが、誰も気に留めなかった。
 
「それはそうと、一雄さんと一渼さんてどんな人、もしかしたら、この二人が重症かもしれない」
 一瞬、静まりかえったが、釈亜真は小二郎にいった。
「えっ、どうしたらいいの」
「一雄さんと一渼さんの家教えて欲しいんだけど、それと、お兄ちゃんは明日、時間ある」
「明日は部活休みだから時間作れるよ、僕も一緒に一雄君の家にいけばいいのか」
「うん、一緒に行こうね」
 小二郎が戸惑うと、慈由无は小二郎の協力を促した。
 
 翌日、小二郎は六子達を先導し、一雄と一渼の自宅へ向かった。
「あらぁ、家自体が影に包まれてるね」
「小二郎兄ちゃん、私達ね勝手に身体が動いちゃうと思うの、そんな時は私達のことはほっといてね」
 釈亜真が呆然とその家を眺めていると、慈由无は小二郎に助言した。
「分かった、影を消すのはいつ始まるか分からないってことな、みんな宜しく頼む」
 小二郎はいわれた通りにするしかないと思い、問題の解決を六子達へ託した。

「何だかいつもと違うようだね」
「俺もそう思った」
 拳逸楼と剣侍狼はこれまでにない違和感を覚え、他の四人も同じ感じを得たように頷いた。
 
「こんにちは、一雄さんと一渼さんいらっしゃいますか」
 慈由无は呼び鈴を押し、インターフォン越しに尋ねた。
 すると、インターフォンからの返答はなく、玄関から二人が出てきた。
「君達、だれ」
 一雄がボソッといった。一渼は半笑いの表情だった。
「影を探しに来ました」
『二人はそれぞれ違う影だよ』
 釈亜真が二人にそういうと、迦美亜は、他の五人だけに話しかけた。
『そうだな、一雄さんには不安な影が纏わりついてる』
『一渼さんは悲しい影だね』
 一雄の影を迦美亜が察知し、一渼の影は巫那が察知した。
『二手に別れた方がいい』
 拳逸楼は五人に強めな声でいった。
 
 拳逸楼と釈亜真、迦美亜の三人、慈由无と巫那、剣侍狼の三人、それぞれがチームとなり、二手に別れた。
 あっという間だった。
 拳逸楼のチームは一雄に紫色の光を放った。慈由无のチームは一渼に白い光を放った。
 直ぐに影は消えて一雄と一渼は正気に戻った。
「お、お、俺、何かしでかしたかな、君達は小二郎君の弟に妹」
「私も覚えてない、何があったの」
 一雄と一渼は困惑していた。
「小二郎兄ちゃんが外にいるから一緒に行きませんか」
 慈由无は二人を誘った。
 
「よう、一雄君、一渼ちゃん、いやね、お互い決勝戦までいけなかったからさ、でも、また頑張ろうっていいたくてさ、照れ臭くなって、この子達に二人がいるか訪ねてもらったんだ、驚かせたかな」
 小二郎はお守りの影のことや家を影が渦巻いてたことは口にしなかった。それを察して六人は、一雄達の家に目線を向けて、小二郎に笑顔を見せた。
「そうだな、気が緩んじまってたかな、でも、小二郎君の顔を見たら、そんな感覚が消えたみたいだ、これからも頑張ろう」
「私が作ったお守り、役にたたなかったみたいで」
 一雄は正気を取り戻したようだが、一渼は申し訳なさそうな表情だった。
「一渼ちゃん、そんなことないさ、今回の負けを糧に、練習、頑張るよ、だから、これは大事に持たせてもらうよ、ありがとう」
 小二郎は優しい声で一渼が話したことを否定し、逆にお礼をいった。
 
 六子達は、独りで影を消す術を身につけ、二手に別れて能力を発揮することができるようになっていた。。
 しかしながら、お守りから滲み出た影と一雄、一渼から浮かび出てきた影の種類が違ったことの理由は分からないでいた。
 
『みんな、今回の三種類の影はどこかに大元がありそうでならないの』
 迦美亜が話しかけてきた。
『俺もそう思うよ』
『私もそう思うわ』
 五人の声はシンクロした。
『一雄さんの学校か、試合をした武道場とかじゃないかな、武道には勝ち負けが付き物だから、恨み、妬みとか多いと思うんだ、だから、影が作られやすいんじゃないかな』
 剣侍狼が具体的にいってきた。
『何だか怖いね』
『うん、でも、逃げちゃだめよね』
『大丈夫さ、みんなで力を合わせれば』
 巫那と釈亜真は怖がったが拳逸楼は二人を励まし、影の大元を探そうと決意した。
 
 一方の小二郎と一雄達は、何もなかったかのように談笑し、友情を深めていた。
 
 そんな姿を見れた六子達は、自分らの使命を全うしていくことに喜びを感じ、同時に身が引き締まる思いを抱いた。
 
 続


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