実戦教師塾・琴寄政人の〈場所〉

震災と原発で大揺れの日本、私たちにとって不動の場所とは何か

気兼ねない暮らし 実戦教師塾通信六百二十七号

2018-11-23 11:32:15 | 福島からの報告
 気兼ねない暮らし
     ~初めての出荷(しゅっか)前に~


 1 実りの秋
 楢葉の渡部さん家、離れの庭です。ミカンがたわわになってます。

秋も深まったというのに、一体何度目なのでしょう、畑には新しい牧草が芽を吹いてました。
 来月、出荷があります。渡部牧場で生まれた牛として初めての出荷です。二頭、子牛たちが出番を待ってます。

こちらは見事に巻き上がった牧草。渡部さんの畑でとれたもの。

これで一カ月分だそうで、これに木の実や豆などを加え、牛さんたちの旺盛な食欲にこたえるのです。

餌を食べる牛さんたちの向こうには、豊作の柿が見えます。

 2 避難当時
 母屋の庭には新しくビニールハウス。
「自分家用のトマトを作るんだよ」
米はあきらめたよ、渡部さんは言う。
 そして母屋もいよいよ完成まであとわずかとなった。向こうから歩いて来るのが渡部さん。

手前の立派な縁台で夏のビールなのかと思ったら、そうでもないみたい。内装も大体が終わり、あとは畳や家具が置かれるばかり。

 数年前の写真を見ながら少し振り返りたい。まず、仲村トオルがここに来た時、渡部さん夫婦と一緒に撮った改築前の牛舎の写真。

荒れ放題に見えるが、それでも餓死した牛の亡骸(なきがら)、嵐や雨が置いていった大量のゴミや獣たちが荒らした跡も、みんな片づけたあとだ。
 ここが警戒区域だった時、渡部さんは牛たちに餌をやるため、通い続けた。それでも追いつかないで死んでいく牛たちを見かねて、綱を解いた。そんなことを静かに語った時もあった。
「農林水産省がやったのは、家畜の殺処分だけだ」
「環境省が除染を担当したから、住居だけに偏(かたよ)った」
「農林水産省がやれば、山林の除染だってあり得たんだ」

 ため息をつくのは、いつでも私の方だ。そして、また言ってしまう。
「どうしてそんなに良く知ってるの?」
渡部さんに言うのも変なのだが、そのくらい被災者の皆さんでも知らない。流れてくるものがデマなのか真実なのか、当時はもっと錯綜(さくそう)としていた。
「だってよ、逃げるもん同士でデマは飛ばさねえよ」
「東電の社員が早くに避難した。そこからも情報は入った」
「茨城の東海原発の外部モニターが異常な数値を示したのもそうだ」
「知識や経験のある人も一緒に逃げた」
「そんな人たちの言うことに、耳を傾けたんだ」

 3 「気兼ねなくていいよ」
 これも以前掲載した母屋のお風呂。

タイル張りのお風呂は、この右側から薪(まき)をいれて追い焚(た)きをする。入っている本人でも外からでも出来る。レトロなお風呂を私は気に入ってた。
「この窓を開けて『星が見えるよ~』って呼んだねぇ」
奥さんが言う。今度のお風呂はホーローとステンレスの浴室。灯油で沸(わ)かす。規制された薪はもう燃やせなくなったから?と私は、野暮(やぼ)な質問だと思いつつ尋ねる。
「いやあ、面倒だからよ。いちいち薪燃やしてお湯の調節なんて」
渡部さんは地面にしゃがんでタバコに火をつけ、しみじみと言うのだ。
「こうやって誰にも気兼ねしねえで。いいもんだよ」
笑って深々と煙を吐くのだった。
 ずっと前、荒らされた母屋に案内された時、
「クツのまんま上がって」
渡部さんは私に淡々と言った。土砂やゴミであふれた牛舎の前でも、渡部さんがつらい顔を見せたことがない。その渡部さんがしみじみ、
「誰にも気兼ねないし。いいもんだ」
と言うのだ。こうして今ここにいる、帰って来れたという幸せ、そんな姿なのだろう。それがどういうことなのか、私にはまだまだ分かっていない。

「今年の大根は出来がよくなくて」
おばあちゃんが笑いながら二股の形を手で作った。
立派な大根をもらいました。

 そうして私は思う。分かったような顔だけはするまい。

いわき駅前の欅(けやき)。紅葉が見事で、見上げて撮った夜です。



 ☆後記☆
ゴーン会長、解任ですね。ルノーと日産との確執(かくしつ)という観方が正しいのではないでしょうか。義憤(ぎふん)?……笑ってしまいます。
 ☆☆
大谷君帰って来ましたね。ニュースで何度も、イチローと会った時の場面をやってました。噂にはなってましたが、イチローからのアドバイスはあったんですねえ。こういうニュースで、年が締めくくられるといいのですが。

先月紹介した、友部サービスエリアのコキア。こちらもいい感じです。

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