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泣き虫カンガルー

2008年07月18日 00時48分35秒 | Weblog
カンガルーはお母さんの袋の中で幸せそうに笑っています。
でも、ほんの少しでも袋の外に出ると、もう大変!
笑顔は、あっという間に泣き顔に変わり、
袋の中に戻れるまで泣き止みません。
カンガルーが小さかった頃は、お母さんも大目に見ていましたが、
体も大きくなり、そろそろ袋の外に出る時期が迫っていました。

「ほらほら、お友達と一緒に遊んでらっしゃい。」
お母さんは、優しく声をかけます。
「今日は、遊ばない。」
『今日は』って、昨日も、一昨日も、「今日は遊ばない」でした。

「天気が良いから、今日はお外でご飯を食べましょう。」
お母さんは、優しく声をかけます。
「眩しいから、袋の中でいい。」
絶対に出ようとはしません。

「ねえ、坊や。 体も大きくなってきたでしょう。
 袋が破けてしまうわよ。」
カンガルーは、目にいっぱい涙を溜めて言います。
「じゃあ、僕、もう何も食べない。
 これ以上、大きくならない。」
カンガルーは大きな声で泣き出しました。

真夜中。
お母さんはカンガルーの寝顔を見ながら考えます。
「どうしたら、坊やは袋の外に出てくれるのかしら?」
お母さんは、大きなため息をつきました。
「どうしたの?」
袋の中から声が聞こえます。
カンガルーは目をこすりながら、お母さんの顔を見上げます。
「お母さん。あの光っているのは、なあに?」
カンガルーは、空を指差して言いました。
「あれは、お星様よ。綺麗でしょう。」
「うん。僕、あれが欲しいよ。」
カンガルーは、にっこり微笑みました。
「あれはね、遠いお空にあるから、とても届かないわ。」
カンガルーの目に涙が溜まっていきます。
「欲しい!欲しい!」
カンガルーは叫びながら、泣き始めました。
お母さんは、一生懸命あやし続けました。

しばらくして、カンガルーは泣き疲れて、そのまま眠ってしまいました。
お母さんは、カンガルーの寝顔と星を見比べながら、
ある事を思いつきました。

風のない静かな夜。
お母さんは丘に登りました。
眠りにつくカンガルーに優しく語りかけました。
「坊や。見てごらん。」
丘の下に広がる原っぱに、たくさんの光が輝いています。
「お星様がみんな落ちてきたの?」
カンガルーは不思議そうに聞きます。
「あれは、キャンドルよ。
 あれなら、持ってくることが出来るわよ。」
お母さんは、にっこり微笑んで続けます。
「でも、とっても熱いから、袋の中には入れられないの。」
カンガルーは、お母さんの顔とたくさんのキャンドルを交互に見ています。
そして、周りを確認しました。
もう一度、お母さんの顔を見つめます。
お母さんは、コクリと頷きました。
カンガルーは、そっと袋の外に出ました。
ゆっくり、ゆっくり光の中に進むと、嬉しそうに笑って手を振りました。
お母さんも嬉しそうに見つめています。

カンガルーは、1つのキャンドルを手にとって、戻ってきました。
「これ、お母さんにプレゼント。
 本物のお星様じゃなくて、ごめんね。」
この間、星が欲しいとカンガルーが大泣きしていたのは、
大好きなお母さんにプレゼントしたかったからだったのです。
「ありがとう。」
お母さんがキャンドルを受け取ろうとした時、
ふんわりと心地よい風が吹き、辺りは急に暗くなりました。
カンガルーが持ってきたキャンドルも、原っぱのキャンドルも、
全部消えてしまいました。
真っ暗になった丘の上に、本物の星たちが輝いています。
「キレイだね。」
カンガルーが言いました。
お母さんは、真っ直ぐにカンガルーを見つめて言います。
「坊やが持ってきてくれたキャンドルの光が一番綺麗よ。
 お母さん、本当に嬉しかったわ。
 ねえ、坊や。
 袋の中にいたら、このキャンドルは持ってこられなかったわ。
 あの星と同じ。遠くで見ているだけよ。
 
 世界には、もっともっと綺麗な物がたくさんあるの。
 それは、袋の中にいたら、絶対に見つけることが出来ないものよ。
 
 坊や。
 綺麗なものを見つけて、またお母さんに教えてくれないかな。」

カンガルーは、いっぱい考えました。
外に出たら、もう袋の中には戻れない気がしました。
「時々、袋の中に戻ってもいい?」
カンガルーは泣き出しそうです。
お母さんは、しっかりとカンガルーを抱きしめました。
「これからは、いつでも抱きしめてあげるわ。」
カンガルーは、「うん」と小さく頷きました。
お母さんの腕の中は、袋の中よりずっと温かかったのです。

その夜、カンガルーは初めて袋の外で眠りました。
袋の中と同じくらい安心できるお母さんの腕の中で。
「ずっとあなたを愛しているわ。」
お母さんは、カンガルーの頭をそっと撫でました。




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