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薬指の標本

2006-12-27 21:56:43 | 映画2006
 「君の靴のサイズは・・・わかってる」

 幻想的、官能的な雰囲気に包まれる元大浴場のラボ。靴のサイズを聞くまでもなく新しい靴のプレゼントをする博士だった。もしかすると、潔い数字だったのかもしれないが、自らすすんで靴をイリス(オルガ・キュリレンコ)に履かせるシーンを見ていると、これは小川洋子原作の「博士太郎(履かせたろう)の愛した化学式」だったのかもしれない。

 序盤から薬指を切ってしまうというショッキング映像によってスクリーンに引き込まれ、ホテルでは昼夜交互の奇妙な相部屋となったという設定によって心奪われる。現実的なホテルや港と森の中にある幻想的なラボとが絶妙なバランスを保ち、語ったこともない相部屋の青年は主人公イリスの残した衣装の残り香を楽しむかのように物思いにふける。しかし、イリスは以前勤めていた工場で左手の薬指の先を切り落とすという事故に見舞われていたのだ。指輪をはめる薬指がその現実的な男女の恋を拒絶しているかのように、彼女は次第に現実離れした世界に自分の居場所を確保してしまったかのようでした。

 標本室という奇妙な職場。そこには人々が自分から遠ざけたいものを預け保管してもらいたいとやってくる。「思い出の音楽を預かってもらいたい」などと注文されたら、普通はテープやCDに録音するのかと想像しますが、ここでは住人の老女にピアノを弾かせ、その音を標本瓶に入れておくのです。やがて一人の若い女性が訪ねてきて「頬の火傷を標本してほしい」と注文を出す・・・

 イリスは虚弱体質じゃないんだろうけど、手に持ったモノをよく落とします。ただでさえこのようにバランス感覚が悪いのに、プレゼントされた靴によって心身ともにバランスを崩しはじめる。にじみ出る欲望のはけ口を見つけたかのように、博士に体を委ねるほどの精神状態に徐々に陥る様子がうかがえます。そして、謎の古びた集合写真や、どこまでが彼女の妄想かわからないような一人の少年の姿がちらついてくる。幽霊?幻影?現実とは微妙に違う感覚と現実の世界の橋渡し的存在だった靴磨きの黒人男性も印象に残ります。

★★★★・

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11 コメント

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まさかあの原作が日本のものなんて・・・ (kisen)
2006-12-27 22:42:00
kossyさん、こんばんは。
私も、なんだか不思議な雰囲気に引き込まれました。

小川洋子さんのことは、あんまり知らなかったのですが、偶然にもこの映画を見た月に買った女性雑誌に寄稿していて、その巡り合わせに驚きました。

さて、冒頭はショッキングな映像で始まりますが、あとは幻想的で、また、主演の女性もいい雰囲気を出していると思いました。同じ部屋を知らない男性と、昼と夜でシェアするっていうのはどうなんでしょうね?
かなり危うい雰囲気が漂ってましたね。


でも、標本博士にプレゼントされた靴、かなり素敵でしたね。私も欲しいと思いました。
あの、すべてを見透かしているような黒人さんは、なんなのでしょうね?でも、魅力的でした。

「このままだと靴に囚われてしまうよ」「いいの。自由になんかなりたくないの」・・・これは素敵なせりふです。
ちょっと言ってみたいかも。


でも、やけどの標本」なって、どうやって作るのかな。
あの部屋や予備の部屋もいっぱいになったらどうするのかな。
こんばんは♪ (ミチ)
2006-12-27 22:44:17
そろそろベストテンを決める時期ですね~。
迷いに迷っています(汗)
この作品はいかにもフランス映画~という雰囲気でしたよね。
この原作を日本で作るととても陳腐なものになったような気がします。
冒頭のキノコが試験管の中を浮遊するシーン、規則正しく並んだ清涼飲料水の一本だけが赤く染まるシーンから惹きつけられました。
ワッサー (とらねこ)
2006-12-27 23:15:53
>博士太郎(履かせたろう)の愛した化学式
ウマイ、ウマすぎる・・・ダジャレの域でなく、もうとんちですさすが!さすが!
(最近デタレメ映画館がないのですか~?)

そうですよね、あのアフリカ系フランス人の靴磨き、この人も大活躍で頭に残りましたよね~♪
靴磨きが大活躍した映画というと、『ニック・オブ・タイム』を思い出してしまうのですが、あのアフリカ系アメリカ人の「Shoe shine,shoe shine~♪」という靴磨きさんの明るさとは大違いでしたね☆
ついでながら本の方もTBさせてくださいまし~。
潔い数字 (charlotte)
2006-12-27 23:48:55
ぼんそわ☆
とらねこさんに同じく・・・笑いましたー。
そうですね、それにサイズは潔い数字ですよね!あはは
父性への憧れが炸裂しちゃったのかしら。
普通なら怪しいあんな所、逃げます。
異性とのシェア部屋なんて、やめます。
ねっちょりじっとり湿気がとってもエロスを感じさせて、ムラムラ、いえ、クラクラしました。爆
kossyさんの標本化してほしいものは何でしょうか??
恒例のベストテンです。 (ヌートリアE)
2006-12-28 23:53:26
今年は200本を越えてしまいました。
暇人だとお笑いくださいませ。
恒例のベストテンを選出しました。
日本映画が入りきりませんでした。こんなことはほんと珍しいです。

外国映画
1.太陽 外国人が見つめて初めて手に入れた天皇という名の微妙な神秘
2.弓 愛と生そして男と女けれど老い、、輪廻の世界
3.僕の大事なコレクション 人間が本気で好きになる
4.ブローバックマウンテン 映画の基本そのものがこの映画にある
5.硫黄島からの手紙 外国人から教わる大東亜戦争とは、、
6.UNITED93 現代映画の行方、その方向性まで感じてしまう秀作
7.トンマッコルへようこそ 戦争も略奪も何もない世界、ユートピア、、現代でこそ
8.カポーティー 悪という人間の裏表、人間とは何か
9.薬指の標本 この映画ぞっこんです。あまりに素晴らしいので、ベスト1でもいいぐらい。
10.サラバンド わが敬愛するベルイマン数十年ぶりの秀作、驚くなかれデジタル撮影!
次点 メルキアデスエストラーダの3度の埋葬

日本映画
1.かもめ食堂 不思議な、だけどリアリズム映画
2.カミュなんて知らない 柳町復活、しかも新しい映画だ
3.初恋 歳月を経ても常に戻るはわが青春のとき
4.ゆれる 心の揺らめき、殺意、肉親の愛、憎悪、、映画を通した人間の面白さ
5.寝ずの番 関西弁の美しさ、日本文化に酔う
6.虹の女神 好きだなあこの映画、現代人が忘れている美しいものは大切にしたい。
7.時をかける少女 いっときの青春、不確かな青春、いつまでも青春、、
8.暗いところで待ち合わせ 音のない世界の済み切ったピュアな世界の素晴らしさ
9.キャッチボール屋 切り取られた人生の一瞬のスケッチ、こんな静かな優しさは久しぶり
10.紀子の食卓 悪夢のような面白さ
 次点 フラガール 人を信じるその強さ美しさ

今年は珍しく日本映画が入りきれませんでした。それだけ秀作が多かったということでしょう。良い傾向です。
外国映画は韓国映画がちょっと息切れでしょうか、、。
それでは。
標本 (kossy)
2006-12-29 01:28:13
>kisen様
小川洋子さんといえば、俺と同年代。なんだか才能の差を見せつけられたような気もして、ちょっと悔しかったりします(汗)
幻想的な世界と現実の世界。その現実の世界でさえルームシェアという不思議な設定ですもんね。この危うい関係なんて、キム・ギドクの世界のようです・・・

あの靴は履きたくなりましたか~俺は靴のことはよくわからなくて、どれほどのものだかさっぱりです。その靴のせいで囲われたくなったのでしょうけど、靴を磨いてもらおうとはすぐには思わなかったんですよね。

「やけどの標本」・・・・想像するだけで恐ろしいです・・・

>ミチ様
日本で作ると誰が適役なんでしょうね~博士を誰にするか、やっぱり田口トモロヲかなぁ(笑)あんまりかっこいい男だとダメですよね・・・
しかし、日本人が映画化できないなんて、やっぱりアート系は苦手なのでしょうか。ホラー映画になっても困るし・・・

>とらねこ様
ありがとうございます。
映画を観ているときからダジャレを考えていました(汗)
デタラメ映画館の記事は精神的な余裕がないので、映画を一本観るごとに・・・最近このパターンが定着してしまってますね・・・
黒人男性はほんとに残りますよね。1年経ったときに覚えているのは博士よりも彼のほうだったりして。そういや「ニック・オブ・タイム」も靴磨きのおじさんがメインでしたもんね。映画ではなかなか活躍できない職業なのに。

>charlotte様
もしかして小川洋子さんって靴に関するエピソードが好きなのか、それともこれがマクガフィンなのか。やっぱり潔いチョイスなのでしょう・・・
ルームシェアは面白い設定でしたよね。重要なテーマとなりそうなのに、重要でなかったり、原作と違うとはいえ、上手い作りでした。ちょっと物足りなかったけど。
俺の標本化・・・○○
ベストテン (kossy)
2006-12-29 01:33:39
>ヌートリアE様
いつもありがとうございます!
外国映画では「僕の大事なコレクション」「サラバンド」が未見であります。1月にはこちらでベルイマン特集があるので楽しみにしています。

邦画も観てない作品が多いです。もう一軒くらいミニシアター館があってもいいのにな~などと、都会の方がうらやましく思えてしまいます。
今年の見納め (green_spice7)
2006-12-30 15:58:46
今年の見納めに濃厚ないい作品を見れました。

出番は少ないけど靴磨きさんが素敵でした。人間じゃないような、全てをわかっているような存在みたいで。

友人曰く、標本技師も人間じゃなくて寮にとりついている何かじゃないか、だそうで(集合写真から考えると年をとってないように見えるから)。
うーむ、そういう怪奇譚風に見えなくもない。。。
靴磨き (kossy)
2006-12-30 16:56:10
>green_spice7様
石川県ではこの映画が今年の見納めだった人が多いはず。どこか幻想的で、浮遊感を漂わせる終わり方によって、忙しない年末もやすらいでしまいそうな・・・

靴磨きさんはいい存在でしたね~
彼がいないと物語がぜんぜん締まらなくなるようなキーパーソンでした。

標本技師も幽霊なのかな・・・などと考えてもみてたんですけど、そうなってくると日本の怪談そのものですよね。監督さんはどういう捉え方してたのか気になってきました。
こんにちは~★ (とんちゃん)
2007-07-29 17:16:48
ヾ(≧▽≦)ノギャハハ☆
>「博士太郎(履かせたろう)の愛した化学式」

こんな事がサラリと浮かぶなんて、流石kossyさんは天才だ!!!

>現実とは微妙に違う感覚と現実の世界の橋渡し的存在だった靴磨きの黒人男性
うん!これも上手い!
って私は人様のレビュー評論家か!(笑)
あの子供とか写真とかは 作品をよりミステリアスに仕上げるための小細工なんでしょうね?
そういえば、港町に戻ると現実に戻り、森へ行くと
不思議な事ばかり・・・。
あの後、どうなるのか非常に気になっています^^

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