わたしに会うまでの1600キロ/ジャン=マルク・バレ監督
原作の自叙伝があるらしい。要するに基本的内容は(ウソをついているのでなければ)実話に沿っていると考えられる。とてつもなく長い距離を歩いている話だが、時々主人公が回想しているシーンが混ざる。歩いている理由ともなっているが、その内容がいわゆるセックス・ドラッグに溺れた怠惰な日々で、私小説告白文学めいている。歩いている場所も大自然の中ということで、いわゆる人里離れたところなので、若い女性が一人で歩くにはそれなりに危険が多いということになる。何しろ野生動物以外は、性的に飢えている男たちしかいない。また、彼女の視点ではそのような恐怖があったということだろう。
長い距離を重い荷物を背負って踏破するという冒険をするには、そうする人にそれなりに動機があるだろう。冒険家はそれ自体が目的かもしれないが、いわゆる彼女はその方面のまったくの素人らしい。一応準備はしてきているが、テントの立て方は知らなかったし、コンロの燃料も間違えて持ってきて使えない。余分な荷物も多く、そのために重い荷を背負っていたわけで、自分自身を苦しめている。大自然の中、自分一人で何とかしなければならない状況で、最初は甘い考え方をしていた人間が、徐々に鍛えられていくわけだ。それは、過去のダメだった自分からの再生の物語だということになるのだろう。
セックスやドラッグの中毒というのは僕にはよく分からないのだが、そういうものから抜け出したいという気持ちが、やはり中毒者にはあるのだろう。それは女性的なものなのかどうかまでは分からないが、何かそれらの快楽に溺れることが、悪いことであるという前提があるように思う。ドラッグはともかく、そういう女性は最初から少数派という気もしないではない。そういう意味ではそれなりに特殊なケースで、元が事実でなければ、やはり嘘っぽい話かもしれない。その奔放さも赤裸々だから評価されたのだろうけど、要するに魅力的な若い女性だから陥った世界とも読み取ることができる。見る方にとってはゴシップめいていて、そういうところはなんとなく気に入らないと感じたところかもしれない(なんとなくモテる自慢というか。そうでない女はどうなる?)。まあ、そんなことを考えずに、凄いもんだね、と感心しながら観るべき映画かもしれないけれど…。