世界にひとつのプレイブック/デヴィット・O・ラッセル監督
妻の浮気のために精神病になってしまった男が、病院を退院した後に、やはり夫の死で精神を病んでいる女と知り合い、一緒にダンスコンテストに出場することになる。ちょっと略しすぎだが、そういう展開の中、精神を病んでいることもあり、いろいろと突飛な問題を引き起こしながら、何とか困難をやり過ごし、ダンスコンテストに頑張るという感じであるのは間違いではない。病気なので苦しんでいるのは分かるが、この病気のために家族もともに苦しむ姿も同時に描いている。基本的にコメディなので深刻になり過ぎない演出が良いと思うが、日本人の目から見ると、精神を病んでいない家族なども、なかなか軌道を逸したところがあったりして変である。ある意味では前向きであるし自由なのだということで、それはいかにもアメリカ的な感じもするわけだが、近所迷惑はしょっちゅうだし、警察も頻繁にやってくる。精神病だから入院して閉じ込めるべきだというのは確かに時代の趨勢からすると反するのは分かるのだが、これくらいの人だとやはりもう少し躊躇があってもいいのではないかという疑問はわく。さらに家族の勝手かもしれないが、ギャンブルの世界に誘い込もうとしたり荒療治すぎる行動が多いように思う。これでは治るべきものも治りづらいのではあるまいか。
まあ、本当には知らないが、これがコメディになるということが、やはりアメリカの底力のようなものなのかもしれない。痛いところはちゃんと笑い飛ばせて、しかしそれでも苦悩はそれなりに細かく描いたりしている。精神病の薬をいろいろ理由をつけて拒んだり、夫が亡くなったショックで何人もの男と関係を持ってしまう赤裸々な告白や、付け回したりする異常行動なども、なるほど病気ならではのリアルさがある。困るには困るが社会的な啓蒙には一役買う演出なのかもしれない。
最後のダンス大会になると、さすがにこれは本格的な大会だったのだと改めて驚くのだが、しかしこの演出もなかなか素晴らしいのだった。本当にダンスがむちゃくちゃ上級者になったはずはないが、ちゃんと踊れているように見える。そうして映画としての展開もいいと思う。いろいろ言ってきたが、やはりよくできたコメディなのだ。病気になった人の励みになるお話なのかはよく分からないが、病気になる前の人が観ても、それなりに楽しみながら勉強になる映画なのではないだろうか。