カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

誤りから学ぶことの多き事よ   子どもに学ぶことばの認知科学

2022-08-23 | 読書

子どもに学ぶことばの認知科学/広瀬友紀著(ちくま新書)

 テストの珍誤答というお笑い分野があって、ネット上にもたくさん見られるが、書籍化されたものも多い。本人はまじめに書いたかもしれないが、いや、むしろそうであるからこそ、激しい笑いを誘う分野である、著者の息子さんも小学生のようで(現在は中一)、失礼ながら誤答の名手と言っていいほど面白い誤答を書く人物のようだ。そうしてお母さんが認知言語学者だった所為で、こうして研究材料にされて、書籍化されてしまった。これはもう一緒に笑うしかない。
 ところがこの本は、この誤答がどうして生まれたか、という謎解きがメインである。著者は息子をかばうためにそういう言い訳を書いているわけではなく、そのように誤答を生み出してしまう、日本語のシステムのようなものを分かりやすく解説してくれるのである。息子さんが必ずしも特殊な能力の持ち主であるということではなく、子供が言葉を習得していく中で、その言葉をどのように捉えたためにこのような回答になったのか、ということが分かるのである。それは学習の過程でそうなる場合もあるし、そのように捉えられるような文法があるのかもしれない。また言葉の性質にそのような多面性があったりもする。言葉のやり取りの範疇にあって、その局所的には的外れだが、そういう意味が含まれている場合もある。詳しくは読んでもらうしかないが、誤答にも、必ず意味があるということなのだ。そうしてそうであるからこそ、言語がどのように伝わる性質があるのかも見て取れることになる。
 大人になってしまったほとんどの人は、もうすでにそういうプロセスを認識することすらできない。もう「そういうものだ」としての正解しか知らないからである。
 ところで近年は、主にネットのスラングとして、日本語として強引に言えてしまう新語がたくさん生まれている。もともと若者言葉などでは、強引ないいまわしとして、面白おかしく日本語をかき回してしまうということが起きている。僕の息子も大人になった今でも「ムズイ」というし、これは聞いても分かりやすいので僕の前でも発しているとも思われる。また一般の人でも、写真スポットなどでは「バエる」とふつうに使っている。こういうのは特にインスタグラムでないSNSであっても「バエる」訳で、意味は即座に理解できる。「バズる」と言われると、やっぱり「ググって」みなければよく分かりえなかったけれど、まあなんとなくそういう拡散系なんだろうな、という予感はある。そういうことにそもそも関心がありそうな文脈でなければ聞かれることの無い言葉だからである。言葉というのは、そういう前後の文脈から、知らなかった言葉でも推察することが可能だ。しかしそういう能力は、おそらくそれなりにその母語に対しての習得度とも比例する。これは日本語のみならず、外国語でも起こっている現象なのだろう。
 言葉についてはいろいろな間違いを経てきたものだな、と改めて感慨深い思いがすることだろう。特に勉強が目的でなくとも、そういう言葉が何故こうなってしまうのかを知ることは、会話などを二重にも三重にも楽しませてくれることになるのではなかろうか。
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