カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

内なる外国 「菊と刀」再考/C・ダグラス・ラミス

2007-10-07 | 読書
内なる外国 「菊と刀」再考/C・ダグラス・ラミス著(共同通信社)
 「菊と刀」という本は、確かにいろんな面で今の日本人にとって馴染み深く受け入れられている本なのかもしれない。今に限らず、戦後というものとなじみやすいものだったのかもしれない。僕は確か高校の授業で、先生がこの本のことを取り上げて日本人論を話していたような記憶がある。そうか日本は「恥の文化」か。確かにシンプルで納得しやすい話ではある。
 しかしながら僕自身はあまのじゃくの性格があって、実は納得しているようでやはり違和感もあるのだった。
 あるとき同級生が長崎のアーケードをくわえタバコをしながら歩いているところを、丁度テレビの中継に映されて発覚し、停学になった。まったく間抜けな話である。だが、ウチの生徒からそういう人間を出してしまってまことに恥かしいことだ、と担任の先生は言うのだった。僕の方は「へえ、もう少しすごい事件でも起これば、学校にハクがついていいのに…」という感想を持った。願わくば殺人事件なんかがおこると面白い、などと不謹慎に空想したりした。僕の様な人間に恥の文化が理解できる訳が無い。
 さて、僕は父と酒を飲んでいて(もちろん高校生である)、なんだかベネディクトというひとの本は面白いらしいね、と話をふってみた。父は、「まあ、あの本には随分驚かされたものだが、ああいうことが学問だというのが、西洋は違うな、と思ったもんだよ」と訳のわからないことを言っていたように思う。父の世代にも名著として読まれており、しかし、完全に同意もしづらいという意味であるのかもしれない、と勝手に解釈していた。僕のほうは手に取る機会があったはずだが、まったく読了した覚えが無い。その頃の僕の食指とは違うものだったのだろう。
 だいぶ脱線が長くなったが、どうも「菊と刀」は怪しいらしいよ、という話はちらほら聞くようになっていた。今ではまっとうに取り上げる学者はモグリのようなものらしい。そういうわけで遅ればせながらダグラス・ラミスの本を手に取ることになった。読んでみて先ずびっくりしたのは、その面白さである。まさにぐいぐい引き込まれてしまった。論じていることの面白さに、思わず深くうなずいてしまうのだった。これはまぎれも無い大名著だ。ものすごく得したなあ、という気分でいっぱいになってしまうのだ。
 なんとなくうわさに聞いていた通り、ベネディクトはぜんぜん駄目だということがよくわかるだけではない。日本の社会がタテ社会ということではなくタコ社会だという指摘も面白い。文化という物事の複雑な面白さ、ダグラス・ラミスの体験談で、米国社会の単純さもよく理解できる。
 また逆に日本人が捉われている常識という感覚も、ぜんぜん無意識のうちに間違っていることも理解できる。日本人が「外国では」という場合、カッコ付けで、(たとえばアメリカでは)という意味であるということは確かにその通りだ。それも白人に対してである。白人以外の外人は、ちゃんと黒人とか中国系という。時々テレビで外国人の人が「日本人からガイジン」といわれる事についてうんざりさせられているというコメントを垂れ流しているが、ガイジンといわれるだけましである。お互いに勘違いしてお互いを評しているに過ぎないのだ。
 まあとにかく、いろんなことがわかり考えさせられる。この本はそれなりに話題になったものらしい(近著ではないし)けれど、そんなに広く読まれているようには思えない(認識不足かもしれないが)。しかしだからこそ、知っていると知らないとでは雲泥の差が出る書物であることは間違いが無い。
 ついつい、日本人のDNAだとか、武士道精神だとか、古きよき心とか、恥の文化だとか、したり顔で語りたい人がいるようだけれど、そんなもののほとんどは、かなり胡散臭いものなのだ。人間個人と民族文化が、そんなに単純な結びつきをするはずが無いのである。そのことを丁寧にわかりやすく、しかも面白く理解できるという意味でも、人間成長には欠かせない一冊となることだろう。とにかく読むべし、というイチオシ書籍である。

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2 コメント

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Unknown (takatosi)
2007-10-08 09:01:04
私は定訳を読みました

もう数年前なんで、内容ほとんど忘れたけど
嫁姑のくだりは面白かったでしょ?


胡散臭くて幻想だから文化になるんじゃないかなあ・・・


あ、ヒントは事務消耗品です

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Unknown (korin310)
2007-10-08 11:19:47
「菊と刀」を読んだ人にはぜひ読んでもらいたい本です。残念だけれど、「菊と刀」は完全に政治的思惑から作られた御伽噺なのです。日本でも和辻哲郎などが誤りを指摘したりしていたそうですが、政治力ゆえに残ってしまったのかもしれません。また、日本人の方が積極的に受け入れたい願望もあったのでしょう。そのあたりのことも完膚なきまでさらけ出されてしまいます。面白いですよ。というか、この方向が分からずに文化を考えることはかなり危険だと思います。必読といっていいでしょう。

 ヒントがあってもあの笑顔が見つからない。しばらく考えてみます。
 
 
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