カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

思想を抜きに戦中を記録すると   小さいおうち

2016-11-06 | 映画

小さいおうち/山田洋二監督

 原作があるらしいが読んではいない。山田洋二監督作でミステリ作品と書いてあったので、なんとなく興味を持って観た。
 物語は亡くなったおばあちゃんの回想(手記)を中心に描かれる。おばあちゃんは戦前から戦中までの間、山形から東京へ出てきて、ある家の女中をしていた。おもちゃ会社の常務宅には、若い妻と男の子がいた。主に戦前でありながらのどかな家庭風景と、最終的には不倫劇の目撃譚という構成になっている。「家政婦は見た」戦中版、という感じなんだろうか。家政婦は見た、は見たことないけど。
 最終的には不倫劇が主になっている感じだけれど、基本的には戦前の中流から上流の東京の家庭を通して、戦渦に巻き込まれていく日本の国内事情にあって、恐らく戦後教育の印象とは違ったのどかな日本の雰囲気を伝える物語になっている。監督も戦前生まれということもあるのか、戦後生まれの人が感じているだろう当時の日本の雰囲気に対して、修正したい気分などがあったのかもしれない。劇中に様々に戦禍の様子が語られる場面があるが、一般の人間にとって、戦争はどこか他人事で、最初はむしろ冷静に考えていた様子が見て取れる。段々ときな臭くなっていくことにはなるが、特に主人公の奥さんは、戦争そのものよりも、恋に夢中になって、その時代に無頓着という感じなのだった。おそらくだが夫とも年の差がある為か、自然な若者同士が惹かれあう恋愛劇ということもいえるかもしれない。しかし女中の目からすると、平和な家庭の不和の原因となる重大な秘密であり、さらにこの家庭を愛するあまりに許せない思いがひそかにあったということなんだろう。
 確かに最後あたりで明かされる謎については、ミステリ作品と言えなくもない展開であるけれど、そういう訳で、実際の印象は戦後の教育のために勘違いしているらしい我々への啓蒙的な意味があるようにも感じた。もっとも多くの資料が語っている大衆からの圧力から政治が強権的になる様子はあまり無く、あくまでホームドラマである。戦前はあんがい豊かそうな日本の姿があって(例えば女中とはいえ、給与というより家族のように生活できることで両方が満足しているような感じ。貨幣を伴わない侍従関係とでもいうような)、そういうものに満足していた人々の生活があったのかもしれない。さらにひょっとするとミステリと言えるのは、このおばあちゃんが生涯独身を通したことにあるかもしれず、そうするとちょっと深読みもできるかもな、などとも考えたところだった。
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