カワセミ側溝から (旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

性と愛の日本語講座

2008-09-24 | 読書
性と愛の日本語講座/小谷野敦著(ちくま新書)

 別段スラング講座というわけではない。しかし、この方面の言葉を考えると、どうしてもそういう方面の方が一般的なような気がしないではない。秘め事ということもあって、公の場で発言する場合と、雑談などで発言する場合には違う表現をしてしまうことの方が自然であり、そうすると文献などに残りにくくなるのではないかとも思われる。
 しかしそうではあっても当時の文献にあたって言葉をひも解いていく時、今とは違った言葉のニュアンスが浮かび上がってくるというのはなかなかの発見だった。時代にもよるが、少し前の時代では、恋愛と性愛というものの分離がされていなかったという著者の見立ては、なかなかの説得力がある。恋愛と性愛を分離させて考えている現代人の苦悩というものが逆に浮かび上がることにもなっており、なるほど恋愛というものが難しくなったのは、そういう言葉の了解からも読み取ることができるようである。それはその背景にある思想ということもあるが、今となっては当たり前に思えることも、時代背景の違いでは、まったくの的外れな考え方なのではないかということも、考えさせられて面白い。
 時代の違いにおいて男女関係の悩みというものも当然微妙に異なるということも言えて、人間の精神の歴史を考えるということは、あんがいどうにも難しいことなのではないかとさえ思われたのであった。昔の人は今と同じように恋愛をしていなかったかもしれないというのは、人間の感情がどこまで同じなのかという根本的なものを揺るがすような、不思議な感覚を呼び覚ますのである。現代人が悩んでいる多くは、実は無用な部分での執拗なこだわりが呼び込んだ悲劇的なものが含まれているようでもあり、なおかつ滑稽に見えたりもするのだった。まあ、どちらがしあわせかというと、根本的に比較する方が徒労というか、違うものは違うとしか言いようがないのだけれど、もう既に今の日本人というものは、伝統的な日本人というものではないのだな、ということも言えるような気がする。時代とともに、人間というものは変わってしまう方が自然なのだ。
 さてしかし、このような時代検証ということも面白いのだが、多くの人が性愛関係などの言葉に目覚めて、辞書を引きまくるというような経験があるのではないかと僕は疑う。著者はちょっと極端ではあるけれど、そういう少年時代というか青年時代のことも思いだされるような気もして、読んでいて思わず苦笑してしまうことも多かった。例えば新明解国語辞典(新解さん)のファンの人の多くは、この言葉のニュアンスの面白さとともに、甘酸っぱいというか、はっきりと苦い思い出とともに、言葉を解釈するのを楽しんでいるのだろうと思う。新解さんの有名な「恋愛」の項は、
「特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持ちを持ちながら、それが、常にかなえられないで、ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態。」
 と書いてある。その通りかもしれないが、ひどく滑稽である。そう、性愛関係は切実であるからこそ滑稽なのである。
 私ごとなのでどうでもいいことだが、恋愛感情を伝えるとともに、そのなんというか、性愛の意思をとげたいということをどのように伝えるべきかということについては、人並に悩んだ経験はある。もの凄くまどろっこしいというか、重要だけれど、とても上手くいえそうにない。ドラマなどでいざ事に至るという場合でも、時間の関係もあるのかもしれないが、真面目なものは割合すんなりそのようになったりして、どうにも納得がいかない思いがしたりした。さらに関係ないが村上春樹の小説などは、いとも簡単に男女が情愛を交わす関係になったりする。とても僕にはできそうにないし、また、とても現実にはそのような人間関係が結ばれているとは信じがたかった。少なからぬそのような青春の日々を過ごして、それなりに絶望していたことは確かで、情愛というものは本当に罪深い人間感情であるとつくづく思うのである。
 しかしながらそのような、まどろっこしいような人間感情があるということが、おおげさに言うと生きているということでもあり、まぎれもない現実のことであることは間違いがない。避けて通れないのであれば逆に直視して逃げないというのも生き方である。まあ、それでも恥じらいということもあって、おおっぴらに論じることがはばかられるだけのことであって、知らないままに諦めるというのが賢い生き方だとも思えない。
 いや待てよ、そんなことは本を読むまでもなく、すでにみんな知っていることなのであろうか…。やはり、分からないことが多すぎる。この方面の悩みは尽きないのであった。
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