カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

言葉でお国が分かるレベルとは違う階級社会   不機嫌なメアリーポピンズ

2018-06-01 | 読書

不機嫌なメアリーポピンズ/新井潤美著(平凡社新書)

 英国文学や映画などから、英国社会の中に根強く残る階級を浮き彫りにしていく。アクセントだけでなく深く英語の分からない日本人にとって、その話しぶりなどで英国人の階級や立場などを理解することは困難である。著者は長く海外生活を経た経験があり、そういうものを身をもって感じ取ることが出来る人のようだ。言葉に通じているだけでなく、例えばジェイン・オースティンのような文学にも造詣が深いようで、女性ならではの心理的な機微に至るまで、その内容を深く理解していることが見て取れる(よっぽど読み込んでいるに違いない)。映画のことも語られているが、特にその文学論としての英国人を理解することに、この本は大変に重要だと感じられた。何よりまったく見えていなかった世界が開けるような感覚があって、かなり驚くと共に面白く読むことが出来た。こんなことは普通の日本人には分かり得る筈がない。英国には昔ながらの階級のようなものが風習として残っていることくらいはなんとなく知ってはいたが、まったく理解までしていなかった。英国人のギャグや風刺は、米国とは違ったえげつなさがあるとは感じていたが、それも階級によって使い分けられていたなんてまったく分からなかった。英国社会の面白さはもちろん、面倒なことも分かって面喰ってしまった。
 僕自身は、英国に対して特別な憧れのようなものがあるような気がする。それは若いころから聞いてきた英国ロックの影響が大きくて、特に中学生くらいの頃に流行っていたパンクロックと言えば、英国が一番だった。労働者階級が社会の疎外感から抜け出す手法として、パンクのような粗っぽいものを発明して抜け出すような(正確には抜け出す訳では無いが)、そういう爽快感が感じられる。一方でアメリカのカラッとしたしかし正確なリフを中心とするアレンジでは無く、荒削りなところがありながらメロディアスなところは、日本人には取っ付きやすいところがあったのではないだろうか。
 またハリウッドのような能天気さでなく、どこかあか抜けない英国映画のようなものも好きだった。英国には何か不条理なコメディのようなものがあって、下品さもけっこうえげつないと思っていた。この本を読んで改めて思ったのは、そういう階級がある背景をもっと理解していれば、そのえげつなさに対する嫌悪の大きさを利用して過激にやっているという事が理解できたかもしれない(今は回想しての想像だが)。
 英国の王室などのニュースは、日本でも報じられる。しかしながら実に表面的なことばかりだ。彼らは庶民とは決定的に違う階級だ。そういう憧れの目のようなもので観ている人ももちろんいるだろうが、しかしながらそういうものが固定化した社会が何なのかはよく分かっていないのではないか。少なくとも日本の場合、めったなことでは無いにせよ、一般の人だって皇室に入ることくらいできると思っているのではないか。しかしそんなことは許されないだろうし、そもそもの価値観としてそういう事がいいことであるはずがないと考えている人たちがいることが想像できるだろうか。確かに時代の流れにおいて、大きな変化はあるのかもしれない。だが、そういう気質のようなものは、時代が変わっても少しくらいは形が変わっても、不思議と受け継がれていくものかもしれない。そういう日本とは別の島国英国の姿を知ることは、間違いなく世界の秘密の一つを知ることになるのではないだろうか。
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