カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

教育には有効な打つ手がちゃんとある   「学力」の経済学

2020-08-18 | 読書

「学力」の経済学/中室牧子著(ディスカバー)

 教育に統計を使った調査を用いて、効果的な政策を打ち出すことの大切さを説いた本。実際には当たり前そうなことに過ぎないのに、どういうわけか教育の分野には、ちゃんとした調査に基づいた根拠(エビデンス)を用いて予算が組まれることが稀であるようで、さらにそういうものを拒んでいる文化の方が何重にも障害になっており、実際に有効な根拠が見出されているものに関しても、いくら自明でも受け入れない土壌の方が、特に日本においては普通であるらしいことが暴かれている。もちろん著者は、そういう文化に真っ向から体当たりしながら研究をしている人らしく、それなりに注目されてもいるようだ。
 学力というのは、まず当たり前ながら個人差がある。頭のいい人間もいるし、残念ながら要領が悪いというか、勉強が得意でない人間もいる。一律同じでは不都合がありそうなことくらいは、薄々僕等だって気づいている。しかしそれは大手を振って言えることではない。遺伝もあるだろうし、家庭環境もある。いい先生に恵まれない境遇だってあろう。また親の所得があるし、逆に貧困のループにはまっている家族もあろう。さらに学力だけでなく、近年は非認知スキルを磨くことで所得の差があるなどともいわれる。幼児期のかかわりが重要なことも分かっているし、しかしもう大人になってしまった人はどうなるのか、という問題だってあるわけだ。そのすべてに万能に応える事は正直言ってできないかもしれないけれど、大筋で、しかもそれなりに説得的に話を進める方法はある。それを経済や統計で解決する方法や道筋となる指針を見つけ出すことができそうなことは、いわゆる朗報である。残念ながら抵抗のある人も多いのだろうけど。さらにその最大の抵抗勢力は、日本の場合は教育界であるわけだ。まあ、親の側にも誤解は多いが。
 そういうことだが、読み物としても面白い。啓蒙書という立ち位置で、一般の人にも理解されやすい本だろう。それなりに衝撃度もあるが、教育界を弁護しているところもあるので、バランスが悪いわけでもないし、楽しく読んで差し支えないだろう。もっとも、議論が分かれているトピックもあったので、そういうところは継続審議が必要かもしれない。また、新たな経済統計の調査が必要というところだろう。教育を実験的に扱うのはけしからんと考えている人たちが、今までの子供たちの将来を棒に振ってきたのである(それは僕ら自身を含んでいるのかもしれない)。建設的な議論の礎として根付いて欲しい考え方だろうと思う。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 友情を大切にしながら恋をす... | トップ | 人間が壊れるドラマ   クラ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。