カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

手塚は鼻の男に冷たい   火の鳥:宇宙篇

2020-12-02 | 読書

火の鳥:宇宙篇/手塚治虫著(角川書店)

 遥か彼方の惑星から地球へ向かって移動していた宇宙船が、何かのトラブルにあい人工冬眠していた乗組員が起き出してくる。一年交代で起きていた男は、手足を縛って死んでいた。宇宙ノイローゼにあって自殺でもしたのだろうか? 宇宙船の損傷はことのほか大きく。各人はシェルターに別れて宇宙空間をさまよい、救助を待つより無いことが分かる。乗組員の中にはマドンナ的な女性がおり、亡くなった男は、女性が心を寄せていたように思われていた人だった。横恋慕して対立していた男もいるし、黙っていたが、ずっと心の中で愛していた男もいた。そうした複雑な人間関係の中にあって、やがて脱落もあるものの、謎の星に不時着することができる。そこには鳥の格好をした女がいて、宇宙船で亡くなっていた男の過去が明かされていくのだった。
 永遠の時間と、人間のぬぐえない罪の問題とを合わせて語られている物語である。まさに火の鳥のテーマである永遠の命が、様々な問題を引き起こし人間の運命的な物語が重層的につながっていく。人間と宇宙人との愛と裏切り。そうして暴力的な人間性の発露。罪を背負い続けての命の繰り返し。そうして新しく巻き込まれてしまった人間の運命などが絡み合う。
 たとえ命が続いて長い時間を得たとしても、宇宙をさまようなど孤独な時間がたくさん流れるだけだとすると、それは人間として果たして楽しいものなのだろうか。また人間であり続ける人はいつかは命が途切れるが、そうでない人が混ざるというのは、何代も年を取り続けられないということになる。それはそれで楽しいことはあるかもしれないが、いろいろな悲しみが蓄積するような人生になってしまうのかもしれない。そうしてそれが、罪人としての人間になってしまうのではなかろうか。でも結局、なかでも猿田は特に可哀そうだな、と思いました。
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