カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

誰が善良な人なのか   セールスマン

2018-10-05 | 映画

セールスマン/アスガー・ファルハディ監督

 イランの映画のようだ。冒頭から住んでいる建物の崩壊の危機で、避難する様子が描かれる。建築の基準が悪いのか、新たな近隣の工事が悪いのかは判然としないが、そういう社会の中で暮らしているということらしい。男は教師をしながら俳優をしている。妻は同じ劇団の女優だ。劇団仲間が新しい部屋の世話をしてくれる。大変な時にラッキーだった。一部屋だけ鍵が開かなくて、何かトラブルの様子が見て取れはするが、何かの手違いという説明で、ドライバーで扉はこじ開け荷物は取り出し新しい生活を始める。
 夫の方の帰宅が少し遅れ、携帯でついでに買い物を頼んでいた。来客者から階段下の鍵を開けるようブザーが鳴るが、夫と思っているので電話で確認せず開錠し、さらに部屋のドアも開錠して半開きにあけておく。自分はシャワーを浴びに行く。そこに侵入者が入り込んだ訳だ。
 夫が帰るとシャワールームには血痕があり、妻は居ない。階段にも血痕が段々とついている。隣人が妻を病院に運んでくれたらしく、怪我の処置をしてもらっている。聞くところによると大変な騒ぎだったようで、その後犯人は逃走して誰も見ていない。妻は怪我とショックのために何があったかは語らない。暴行を受けたとは分かるが、どのような暴行を受けたのか。後に警察には届けないという。
 夫の生活は荒れ始める。遅くまで起きて証拠の品を検証する。犯人の手掛かりは無いか。そうして睡眠不足で生徒たちの信用を失っていく。演劇の部屋を世話した男との関係も悪くなっていく。犯人は慌てて逃走したために、車の鍵と幌付きのトラックを乗り捨てたままだった。この証拠は大きいと考え駐車場へ移動しておくが、妻はこれを嫌がり通りへ移動させてしまう。ところがその大事な証拠である車は、何者かが持ち去ってしまう。
 激しい心理葛藤のお話である。考え方の問題だが、警察に届けないで済んでしまうところが外国の話なのだろう。日本ではこれで済むとは思われない。そのために後半に個人的に事件を追う上で、新たな人間の葛藤劇が生まれるのである。
 劇中主人公たちが演劇をしている。その演目が「サラリーマンの死」である。他の生活様式もそうだが、なんとなくアメリカナイズされた様子が伝わる。文化的には、人々にアメリカは浸透しているのかもしれない。それはどんな国でも多かれ少なかれそうだろうけれど。
 いちおう最終的には決着がつくような話だが、それでどうなったというような話でもない。ずいぶん暗い気持ちにさせられる。だからこそいい映画ともいえる訳で、ピリピリした心理劇が好きな人は、マゾ的に楽しんだらいいだろう。
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