カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

人と付き合えないけどセックスはしてしまう   恥辱

2018-10-01 | 読書

恥辱/J・M・クッツェー著(早川書房)

 大学教授の男は二度の離婚歴があり、性的欲求は主に娼婦で済ませている。ある時自分の授業を受けている美しい学生に声をかけ、食事をし、関係を持ってしまう。その後も何度が関係を持つが、その子は、試験や講義は休みがちになっていく。そういうときに、その子と付き合っていると思しき不良の青年に絡まれ、本人に会えないまま告発という形になる。不適正な関係もあるが、欠席していた試験の結果を勝手に改ざんしていたりした。委員会に掛けられ処分を検討されるが、本人は機嫌悪くその場はすべて嫌疑を一方的に認め辞職してしまう。
 最初の妻に一粒種の娘がいる。離れた場所で農園を営んでいる。何もかも失っていることだし、しばらくヨハネスブルクを離れる。娘はそのような自然の中で暮らすことを楽しんでいる様子だし、いわゆるこの生活に馴染んでいる。自分には無い娘の姿。どうもレズらしい。自分なりにこの生活に慣れようともするが、やはりアフリカの風習など、自分にはとても馴染めない思いがある。そういう中、襲撃されるという事件が起こる。
 この男は、知的には高いものがありながら、何か人間的な感性に掛けているようなところがある。最初に娼婦と馴染みになるが、彼女が組織をやめてしまうと、自宅を調べて電話を掛ける。相手は考えたようすで知らないという。もう電話しないよう求めます、と言われる。農場で見た目には気にいらないまでも関係を持つ女性もいる。まちに戻って酔っている若い女とも関係する。特に欲望が強いという風でもないが、出来てしまうならやってしまうという感じもあるかもしれない。そういうのは特に出来るようなものでもないと思うんだけど、文学作品なので可能なのかもしれない。村上春樹だってそうだし。
 特に罪悪感は何もない。しかし辞職の元となった女学生の家族に会いにゆき、共に夕食をとる。形だけの自分としては模範的な謝罪も一応するが、付き合えない奴らだ思っている風だ。何かとても不思議な感じで、特に気分が良くなるようなことも無いが、面白いのである。こんなに奈落の底に落ちて不機嫌で、しかし自分は何にも悪くなんかない。何か諸悪の根源と戦っている感じではあるのだが、その何かなんて漠然としてよく分からない。
 何か観念的なものがあるのかもしれないが、僕には教養が無いので分からない。一言で馬鹿な男ともいえないところもあるし、南アフリカの事情があるのかもしれない。主人公は奇しくも僕と同世代のようだけれど、特に共感できる人間でもない。でもまあ、自分のまいた種で災難にあって、ひどい思いばかりしてしまう。身につまされるというか、それでもある意味で強い。もっとも周りの女たちの方が、明らかにずっと強いのであるけれど。
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