カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

田舎の恐ろしさに女一人で戦う   いしゃ先生

2017-07-26 | 映画

いしゃ先生/永江二朗監督

 昭和初期、山形の山村の村長をしている父から頼まれて、村の医者を務めることになる。まだ医者になったばかりの26歳である上に、女性に偏見の強い時代であることで、村人にはなかなか溶け込むことができない。東京には付き合っている青年がいる様子。とりあえず3年だけはと、ひとり奮闘するのだったが…。
 とにかく本人に自信が無いのに、役目が非常に重いというのがある。それなのに、医療に対する不信感が村人にはあり、医療は金がかかるということと、祈祷師の方がまだ信頼があるような考え方の中で、安心して医療に掛かれるように説得することから始めなければならない。明らかに入院させるべき人が、自宅で苦しみながら死んでいく。それでも人々は、医者に体を見せることに頑なに抵抗する。お金はいらないと言って、ひたすら家に出向いて診察を試みるが、思うように処置をすることすらできない。やっと病院へ運ぶ手立てが整っても、吹雪の中、搬送中に患者が死んでしまう。
 そのようなまどろっこしい状況を何度も経験する中で、村医としての自覚が徐々に芽生えていく様子が丹念に描かれていく。おそらく実話か何かが元になっているようで、伝説的な女医の生涯を描いたものなのかもしれない。
 子供の頃には、田舎の様々な偏見を描いたドラマというのはよく見たものだが、現代になると、そのような演出のものはずいぶん減ったように感じる。僕が観なくなっただけのことかもしれないが、こういう偏見と闘う姿を描いたものは、実に久しぶりに観た気がする。しかしその描き方に一定の距離感があって、そのような馬鹿げた考え方に対して、一定の理解を持ちながら苦しむ個人の姿を描くということに、専念した演出になっている。要するに現代人の忘れた視線を監督がよく理解しており、映画としてたいへんに見どころの多い作品になっているのではなかろうか。やや地味ではあるが、大人の鑑賞に堪えうる佳作と思う。それでもあんまり観る人はたくさんいるとは思えないが、だからこそあえて観るような奇特な人のための作品かもしれない。
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