カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

通ぶって言う?

2016-02-04 | ことば

 若いころにアルバイトでウエイターをしていた。手書きで伝票を書くが、基本的にこれは注文された品物が商品番号になっていて、その番号を書けばいいことになっていた。しかしながら、メニューは季節ごとに見直しがあって、だいたい150品目くらいの商品をひたすら覚えるより無い。移行期には間違いも多いし、思い出せない時は略語をそのまま書いたりしていた。そういう略される用語というのはある程度業界共通というのがあったようで、一般の人でも知っているだろうものは、例えばアイスコーヒーはレイコー、オレンジジュースはOJとかいうたぐいであった。
 ところでお客の中には、最初からこれを「レイコー、いち」という注文の仕方をする人がいる。僕は「はい、アイスコーヒーがお一つですね」と復唱する。そうして厨房に「レイコー、いちー」と声を掛ける(でも実際はアイスコーヒーくらいはホールの人間が自分で作るのだが、たぶん間違い防止だろう。声掛けをする習慣があったような気がする)。慣れるとなんでもないことだが、考えてみるとなんか変ではあった。ちなみに「レイコー」などと注文する客は、圧倒的にヤンキー風の人が多かった。ああいう人でもこういう店で、バイトでもしたことがあるんだろうか。
 略語の話ではないが、以前ウエイターに「ご飯」と注文すると「ライスお一つですね」といわれて腹が立つという話が結構あった。しかしながらウエイターの身分から言わせてもらうと仕方のないところはあって、店長からそう言え、と言われていたことが第一だが、ファミレスなどでは洋風の平皿にあるものはライス、和風の時は「ご飯」と言い分ける場合もあったように思う。そんなことは当たり前だというなかれ、客というのは変なのが居て、ハンバーグにライスは和風の御飯茶碗でもってこい、という注文をするような人が少なからずいるのである(もちろん、その逆もある)。客が指しているものと注文を受けた側の商品が同じである必要があって、しつこくこれをこちら側の理屈で統一するという思想があったように感じる。まあ、確かに馬鹿みたいですけどね。
 寿司屋に行ってお勘定を頼むと「上がり」が出てくる。ご存知かと思うが、上りとはお茶のことである。これは業界用語であるが、もとは遊郭からきているらしい。客がつかずに暇を持て余し「お茶を引く」のが縁起が悪い。それでお茶という単語自体を忌み嫌って、客があがってくれる「上がり」をお茶にあてたのが始まりとも言われている。
 お勘定を頼まなくてもお茶を飲みたい時がある。で、お茶、というとやっぱり「上がり一丁」と板さんが裏方に言う。でもまあ、たまに通ぶった客が「上がり」とお茶のことを言う。これを板さんが嫌うという話があった。しかしながら、寿司屋に行っていた頃の記憶をたどると、「お茶」と言っている客と「上がり」といっている客は、だいたい半々くらいじゃなかったかな、という感じはする。別に通ぶった客が言うということでは無くて、以前の客は普通にそういう言葉づかいだったんじゃなかろうか。寿司屋の場というのがあって、あんがい客も業界用語に馴染んだ人が多かったのかもしれない。
 しかしまあ、呑兵衛の客がたまに「上がり」ということがあって、そうすると女将さんが出てきて勘定の準備をしたりする。板さんが「いや、お勘定はまだ」と諌めていた。業界用語もなかなか厄介である。
コメント
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