カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

主人公はいつの間にかヒット・ガールに変わるけど   キックアス

2013-02-27 | 映画

キックアス/マシュー・ボーン監督

 観るにあたっては多少の注意は必要かもしれない。コスチュームに身をまとったヒーローアクションであることには間違いがないものの、やはり作りとしてはかなり風変りには思える。基本的なストーリー展開は、決してそのような王道アメコミ路線と違う訳ではないのだけれど、しかし細部にわたって展開される映像世界は、極めてアダルト向けだという感じかもしれない。エロという意味では無く(ちょっとあるけど)、刺激的ということに尽きる。R指定だから映画館は何とかなるかもしれないが、DVDだと見落として借りてしまうかもしれない。子供と一緒に楽しみながら観ようとすると、かなり悲惨な思いをする場面に出くわしてしまうだろう。そういう精神衛生上よろしくない状況で無い環境づくりをした上で、楽しむべき娯楽作ということになる。そうして心を開いて観ることが出来ると、これはまた、素晴らしい傑作であることがよく理解できるに違いない。
 いろいろ前提というか注意事項が必要な感じもしないではないが、しかしながら極めて楽しい作品である。まったく評判通り。ひょっとすると映画史に残るくらい傑作ということになりかねない娯楽作品である。久しぶりに映画を観てよかったなあという感動に包まれて、しばらくは満足感に浸っていられた。これだから映画を観るのが止められなくなるのである。
 僕自身はヒーローものに憧れていなかった訳ではない。たぶんそんな時期もあったなあとは思う。石森章太郎のサイボーグものや超能力というものが備わるとそういうことも可能かもとは考えていたようだ。生身の人間がヒーローになるには、ブルース・リーになるしかないではないか。つまりいつの間にか諦めていた訳で、しかし諸悪に対する正義感というものが、同時に失われた訳ではないのだと思う。自分の力だけでは、いかんともしがたい現実の前に、ヒーローとして活躍する場を、最初から失ってしまっていたのかもしれない。それはある意味で不幸なことで、自分の正義感がみたされることが無いままに、不毛に時間を浪費した青春だったのかもしれないのだ。
 そういう心の中のまっとうな正義の気持ちを守るためにも、このようなヒーローものというのは必要なのだと思われる。妙な正義感で社会悪を叩いているように感じている屈折したメディアの姿より、よっぽど健全な精神なのではなかろうか。もちろんそのままでは、単なるオタクの夢物語なのだが、実際にはその域を出ていないものかもしれないのだが、しかし自分の中のカタルシスは、健全な形で昇華することが出来ているように感じる。夢も現実も割合分かりながら荒唐無稽な物語を上手くまとめている手腕は、さすがというしかないではないか。
 結果的には魅力的なヒロインに喝采を送ることになってしまうだろうけれど、それはそれで健全なる精神である。何をもって健全と考えているのか、そういう倫理観を揺るがされる人もいるかもしれないけれど、そういう危うい要素が混ざっているからこそ、映画的にも価値の高いものになっているのだと思う。痛快に楽しみながら、いろんな偏見からも解放されるかもしれない、見事なアクション映画の傑作なのであった。
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