ヒューゴの不思議な発明/マーティン・スコセッシ監督
何となく評判が悪かったという話を聞いており、かえって気になって観た。何しろスコセッシだし。
ところが当たり前だが、実に楽しい作品に仕上がっていて、酷評の人はいったい何が気に食わなかったのかと疑問に思うほどだった。映像もこなれているし、仕掛けも飽きさせない。ヒロインも可愛らしいし、活劇もスリルがある。
賞も取ったらしいが、ある程度は当然だろう。いや、むしろこのようなファンタジーで取ってしまったというのは、なかなかのことかもしれない。
子供向けだから、大人の視線からは何となくじれったい描写も多いのだけれど、まあ、そんなもんだろう。境遇としては「借りぐらしのアリエッティ」だし、基本的なスジは「ニューシネマ・パラダイス」である。名作くさいというきらいはあるかもしれないけれど、王道的な娯楽ファンタジーである。
もっとも気に食わないところもそれなりにある。時代背景もあるかもしれないが、駅の中で暮らす孤児が居たってそれはかまわない気がする。ある意味ちゃんと仕事もしており、学校に行かないというのを非難するのであれば分かるが、訳も調査せずに執拗に追い回すのはどうなのだろう。もちろんそれも伏線にはなっているので、仕方ないか。ああ、そう言えば、この設定は「ターミナル」的でもあるな。
さらに事情があるとはいえ、じいさんの過去が、そこまで引きこもらなければならない理由とも思えない。泥棒を怒るのは分かるが、ノートを焼いてまで(と思わせて)他人の大切なものを奪う権利が分からない。
また、過去の事なのに同じ俳優を使っているので、あんまり過去のような感じになっていない。違う人だと分からないということかもしれないが、若い頃が若々しくないというのは、何となく苦しいような気がした。これはCGの出来あいと比較して、人間そのものの隠しようのない現実という気がして重かった。
というようなことがありながら、お話は面白い。子供向けということではあっても、実は大人のためのファンタジーでもある。映画を作る人々というのは、このような感じで、建前的に映画を好きだというのはよく分かった。皮肉っぽく言っているが、そういう映画の良さを辛辣に残酷に描くのが得意な監督がファンタジーで表現してしまったことに、改めて妙な感心をしてしまう映画に仕上がっていると思った。