カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

イヌとキツネとヒトの話

2011-08-30 | 境界線

 録画していたテレビを見る。オオカミが犬にどうやってなったのか。またはキツネがどうやって家畜化していったのか。
 ある意味で人間の持つ恐ろしい影響力の話でもあるし、生命が進化する選択としてのたくましさの話でもあった。結果的にオオカミにとってはオオカミのままでは生きにくい世の中になっており、今の犬の繁栄を考えると、図らずもオオカミの子孫がこのような生き方で次代を生き延びたという考え方もできるだろう。それはあくまで人間的な見方であるとは承知しているけれど。
 紹介されていた仮説。オオカミの世界は弱肉強食のはっきりした世界であったからこそ、力の弱い若い雌は飢えることも少なくなかった。仕方なく人間のおこぼれをもらいに行くものが現れた。そのうちに警戒心を解いていき、人と一緒に暮らす道を選択するものもあらわれる。結局、弱い個体が次の生命を育てたのだ。
 突然変異による遺伝子のほんのわずかな書き換えであっても、一億に一度程度である。しかし、遺伝上の変化なしに、オオカミは犬へ変化することができた。事実オオカミとイヌは同じ種であり、交配も可能である。遺伝上同じでも、オオカミとイヌは大きな違いがある。
 遺伝情報は同じように伝えられても、同じように働かない場合があるようだ。遺伝情報が働く順番の違いによっても、その伝わる性質に違いがあるとのことだ。例えばオオカミが人を警戒する働きは生後5カ月ごろからあらわれるが、その機能が働かない個体が現れることがあるらしい。もしくはその働きが弱いということかもしれない。結果的に遺伝情報は変わらずとも、性質の違う個体が生まれる。
 ロシアでの狐(ギンギツネ)の家畜化への研究は50年にわたり行われている。すでに犬のように芸をする個体まで生まれており、ほぼペットとして飼っても問題の無いレベルまで達しているようだ。狐は非常に警戒心の強い動物で、野生の観察の難しい動物である。そのような生き物であっても、比較的おとなしい性質の個体を選び出し、その個体どうしを何代にもわたって掛け合わせて行くと、より人間になれやすい進化を遂げるものが増えていくのである。面白いのは性格的な性質だけの変化だけではなく、毛の性質や色合い、顔の形などもどんどん多様性を見せていく。生物の変化ということで考えると、50年というのはわずかな時間である。しかし、動物はそのわずかな時間の変遷の中、遺伝情報を変えることなく多様な変化をすることができるらしいのである。
 しかしながら、このような変化の大きな共通点は、大人になった個体であっても、子供のままの性質が残っているということでもある。もともと警戒心の弱い、好奇心旺盛な状態は、生まれて間もない子供時代には、どのような凶暴な野生動物でも同じように見られる性質である。もちろん野生のまま生きていく上では、子供のままの性質では生き延びることは出来ない厳しい社会なのであろう。しかしながら、人間のそばで生きていくには、子供のまま変化しない方が、逆に有利になってくるのである。
 また、様々なことを学習していく上では、子供のままの旺盛な好奇心がある方が有利である。結果的に家畜化された生きものは、人間の考えを読むまでに変化していく。新たな物事を貪欲に吸収しようとすることにもつながっていくのである。
 エピソードとしては脱線事項だが、旧ソ連時代は共産主義的イデオロギーの所為で、遺伝という考え方を無視し、「人に限らず頑張れば必ず報われる」という思想で科学でさえも突き進めていたことなども興味深かった。頑張れば必ず報われるが左翼思想だというのは、確かに日本の教育でもよく見られる考え方であり、お笑いだ。また、ある性質を伸ばすために似たような性質を掛け合わせることで変化が見られるのだから、恐らく人間においても同じようなことを考えることができるようにも思われる。合理性から見て、体外受精の現場の問題もあり、SF的な将来像を想像することも可能である。いや、むしろ現実的かもしれないという怖さも感じるのだった。
 メモ的に書きとめるつもりが長くなった。しかしながら生きものは、弱いから活路を見出すことができ、幼いからいつまでも学習することができると読み取ることは出来たわけだ。これは危機的状況だから新たな活路を見出すことができ、凝り固まらず柔軟性があるから新たな物事を吸収発見することができると解釈することも可能だろう。そのような教訓めいたことに解釈するのは極めて人間的な偏狭な性質だとは思うが、そのように読み取れるからこそ自然への興味はまた尽きないのも確かなのである。そうでなければ、人間は探求することをやめてしまうのではなかろうか。まあ、その影響を受けざるを得ない地球上の動物・生物たちにおいては極めて迷惑な存在であることは間違いないのだが…。
コメント
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