千の天使がバスケットボールする

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上海雑感③

2006-12-16 23:26:34 | Nonsense
9月23日、その日の夜上海体育場は、5万人を超す人々が集い「上海国際陸上黄金大会」が催された。ゲストには、Gackt氏製作映画「MOON CHILD」で共演した王力宏(ワンリーホン)らも出演しておおいに盛り上がったそうだ。ライブ中継された会場の貴賓席でその様子をご満悦で眺めていたのは、共産党上海委員会の陣良宇書記ら市政府のお偉方である。しかし彼らの絶頂は、その日が最後だった。翌朝、陣は上海市の社会保険基金を私営企業化に不正融資した容疑で武装警察に拘束され、北京まで連行されたのだ。党政治局は、速攻で書記解任、党政治局委員、中央委員の職務停止を決議、前総書記江沢民が率いる党内派閥、上海派を潰した解任劇の鮮やかな手際のよさは、胡錦濤主席の周到に用意された準備を想像させられる。

彼は社会保険基金の不正融資をしていたにも関わらず、社会保障フォーラムでは「社会保障は貧富の格差の是正に貢献しなければならない」と演説もしていた。しかし最大の過ちは、中国最大の経済都市上海を手中におさめている傲慢さから、現政権への恭順を失い、タテついたところにこの国の権力闘争の凄まじさを感じる。彼は約38億円の資産をもち、愛人や美人モデルをも蓄財していたのだ。けれども、陳良宇は「水の落ちたイヌはたたけ」という格言の単なる生贄に過ぎないというのが、雑誌「選択」の記者の見方である。本命は、江沢民にそっくりの五十四歳になる長男、社会保険基金の流出先である江綿恒にある。この人物はハイテク企業の経営者でありながら、中国有人宇宙プロジェクトの副総裁も務める多才な人物でもある。この一卵双生児のような息子を将来党中央委員の指導者にすることが、江沢民の悲願である。親ばかな父親の感情を利用し、息子の逮捕を見送るかわりに政治介入を封印したのが、今回の上海疑獄のもうひとつの真相である。

噂に聞いてはいたが、上海は建築ラッシュにわいていた。かって農地だったという浦東新区には、グランドハイアットなどのホテルや建築中の上海ヒルズなどに代表される高層オフィスビル、億ションが次々と建設されている。熱気を帯びた開発は、市有地の払いさげを通じ不動産業者と市幹部の特殊利益共同体が形成されている。勿論、満足な補償金も払われずに住民は、追い立てられている。国有企業の党幹部は、改革の旗印に格安で自社株を購入して、一夜にして企業のオーナー。これまで国営企業で働いてきた労働者は、レイオフされている。農村では耕すよりは、開発業者に売却した方がGDPに貢献して自分の評価が高まるとばかりに「失地農民」を生産している。中国における経済の自由化は、かくして貧しい者から搾取することによって特権階級へ更なる果実をもたらした。しかしこうした目にあまる特権集団による横行を黙って見過ごすほど大衆は馬鹿ではない。彼らの当然とも思える怨嗟をおびた不満は、もはや爆発寸前であるところにこの上海疑獄の逮捕劇の見せしめである。
この解任劇後、中国共産党は地域や所得の格差を緩和して、資源と環境のバランスも考慮した「和諧(調和)社会」の建設を、第16期中央委員会で今後の発展戦略とすることを決議した。

先日、身内の大学院生の研究室に、精華大学の学生が研究設備などの見学のために、わざわざ来日してきたという話を聞いた。寄書きに書かれた英文の感謝のメッセージを読んで、やっぱり真面目だなという印象をもった。彼、彼女達は、兎に角人間として”いい人”たちだったそうだ。おそらく中国のエリート階級の両親から、同じくエリートになるべく大事に育てられ、その期待に叶うべく優秀な頭脳をもった一人っ子ばかりなのだろう。ひるがえって上海旅行で見かけた精華大学の学生と同じぐらいの年齢のひとりの少年(もしくは青年)を思い出した。市内の繁華街にある公園で、その彼は冬空の下で上半身裸で座っていた。上海の冬は、東京と同じくらい寒い。何故、彼は服を着ないのだろうか。彼は、両腕が無かったのだ。事故なのか、生まれつきなのか、彼は自分の腕がないことをアピールするために、首からがま口型のバッグを下げて上半身裸で座っていたのだ。
「コンニチハ」
そう声をかける彼の笑顔は、素晴らしく屈託のない。まず最初に彼の笑顔に視線がいき、腕がないことに気がつかなかったぐらいだ。彼の両親は、彼のようなこどもを産んだことで苦労もあったかもしれないが、ある意味ではラッキーだったかもしれない。彼は、孝行息子だ。何しろ彼の笑顔と体は、お金を運んでくれるだろう。彼が、若くて清潔感のある年齢までは。
日本だったら、たとえいかなる障碍があっても人間としての尊厳を失わず社会の一員として生きることが当然であり、また経済的な支援をするシステムも整っている。中国では、社会のセーフティ・ネットはたいして役にたっていないのだろう。

「公平と社会正義への実現」「階層間の和諧」
共産党大会でくりかえされたキーワードは、まことに皮肉である。階層という富める者と貧しい者の対立をなくし、「階級」そのものをなくすための共産主義ではなかったのか、意味のない寄付は決してしない自分が彼に”恵んだ”5元の金額と行為をいまだに深く悩みながら、そんなことを考えた。

■中国関連アーカイブ
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VW車の中国における事情
二つの戸籍をもつ中国
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4 コメント

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re: (waremokou)
2006-12-18 08:09:55
鮮やかな光と闇の対比でした。
樹衣子さまはいつか小説をお書きになるかもしれませんね。

腕がないことをアピールするために寒空の下、上半身裸というのは、ぬくぬくとしているおのれが思わず恥ずかしくなるような光景です。
現代社会の悲しさは、自分ひとりではどうしようもない問題をグローバルな形で見聞きし、無力感と挫折感を覚えることなのかもしれません。

樹衣子さまは中国映画は御覧にならないのでしょうか。ニューウエーブの称される監督以外にも物語のカタルシスがあり、面白いのですけど。
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中国映画 (樹衣子)
2006-12-18 23:24:17
>現代社会の悲しさは、自分ひとりではどうしようもない問題をグローバルな形で見聞きし、無力感と挫折感を覚えることなのかもしれません

この無力感と挫折感は、もしかしたらある種の現代の知識階級の人々の免罪符かもしれません。
上海でのこの話はまだ誰にもしていないのですが、職場でカルチャーショックを受けたという話から私が見た風景なんぞ、発展途上国ではどこにでもあるようです。誰も格別話題にしないから、知らなかった自分が無知だったわけですね。

中国映画はけっこう観ていますよ。『芙蓉鎮』から18禁映画まで!
特に『小さな中国のお針子』は、生涯のベスト5に入るくらいのお気に入りです。
もし良い映画があったらご紹介ください。
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Unknown (waremokou)
2006-12-19 09:12:44
>この無力感と挫折感は、もしかしたらある種の現代の知識階級の人々の免罪符かもしれません。

悲しんでいる自分を哀れんで、ですね。
自分の人生を変えるところまで行く人は滅多にいないことでしょう。

>誰も格別話題にしないから、知らなかった自分が無知だったわけですね。

深く考えることから逃げているだけなのでしょう。
人間の残酷さや異常さを描く作家はその作家の心も病んでいると考える人は案外多いようですが、私は逆だと思うのです。表現して訴えずにはいられないほど他人の苦しみを我が物として受け止めているからだという気がします。そんなことがあたかもないような顔をするのは偽善ですよ。

>芙蓉鎮

おおっ。この映画大好きなんですよ。

>18禁映画まで

私より観ていらっしゃるのでしょうね。やはり。(^^;

>小さな中国のお針子

これは主人公の女性の行く末がどうであったのか、今一歩よくわかりませんでした。

私は「紅夢」「紅いコーリャン」「子供たちの王様」「宗家の三姉妹」「北京ヴァイオリン」「至福のとき」が好きでした。
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返信ありがとうございます (樹衣子)
2006-12-20 23:21:24
「子供たちの王様」は、まだ観ていませんので、レンタルビデオで見つけたら借りてきますね。
他の映画は、どれも良い作品ばかりですね。「芙蓉鎮」をご存知とは!かなり中国映画に精通してらっしゃいますね♪
あらためて中国映画の魅力を書きたいです。

>人間の残酷さや異常さを描く作家はその作家の心も病んでいると考える人は案外多いようですが

人の本質に、残酷さや異常性が皆無かと言えば、そうではないとも考えますね。根源的には、善もあれば悪もあるのが人間だと思います。

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