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枯葉剤の傷痕を見つめて ~アメリカ・ベトナム 次世代からの問いかけ~

2011-03-07 23:35:18 | Nonsense
N響アワーでジュリアン・ラクリンさんの素晴らしいベートーベンのVn協奏曲の演奏を聴いて心が晴れ晴れとして自信を取り戻したような気分になった日曜日の夜、そのままテレビをつけっぱなしにしていたらETV特集がはじまった。テーマーは「枯葉剤の傷痕を見つめて」。読書タイムの予定だったのだが、そのままテレビの画面から離れられず、けれどもあまりにも痛ましく観ているのがつらくて半ばでスイッチを切ってしまった。

ベトナム戦争が終結して、36年にもなる。銀座には私もお気に入りのベトナム料理の店があり、ベトナムは戦争とは無縁なエステや買物も楽しめる女子の人気観光地でもある。しかし、今でも苦しみが続いている枯葉剤被害の実態を取材している日本人の映像作家がいる。映画『花はどこへいった』を撮り、数々の賞を受賞した監督・坂田雅子さんである。番組は、地方の民家をモダンに改装して事務所兼自宅となっている坂田さんの住まいからはじまった。

坂田さんが枯葉剤被害に関心をもったのは、2003年に夫の写真家だったグレッグ・デイビスさんを肝臓がんで亡くしてからのこと。グレッグさんは、元ベトナム帰還兵で枯葉剤を散布された地域で従軍していたこともあり、そのためこどもをつくりたくないことを友人に語っていたことを聞き、今でもアメリカの帰還兵と枯葉剤による被害にこどもたちが苦しんでいる実態を知った。1996年、当時のクリントン大統領がはじめて公式に枯葉剤被害を認めたが、その被害の全貌はあきらかにされていない。そんな中で、帰還兵のこどもたちが自らの経験を語り始めた。

右足の膝から下の足と指が数本欠損しているヘザー・バウザーさんも、その中のひとりだ。彼女の父親はベトナム戦争に従軍して枯葉剤をあびたが、病院では因果関係はないと診断され、こどもの頃からいじめられたりとヘザーさんはアメリカ社会で孤立感を抱いてきた。彼女は、坂田さんとともに父の戦場だったベトナムへと向かう。ベトナムで「枯葉剤被害者の会」の面々と会うヘザーさんの胸中は複雑だっただろう。彼女は戦争相手で枯葉剤を散布した国からやってきたのだ。しかし、対立や戦争を超えて、どちらも同じ障がいをもって生まれたことではともに被害者である。ヘザーさんを受け容れるベトナムの人々の心にふれて、こどもの頃からの孤立感をいやされて思わず涙ぐむヘザーさんとかたわらで彼女を見守る夫。
やがて、坂田さんとヘザーさん夫婦は、被害の大きかった農村まで足を運でいく。そこで待っていたのは、貧しい暮らしの中で生活する生まれながらに皮膚病をわずらっている姉と目も見えない弟。また、目のない少女や学校にも行けないくらいの重い障がいをもった男児。彼らの障がいは、私たちが日常、社会で目にする障がいとはあきらかに異質な異形、奇形児である。ある母親は、出産したわが子と初めて会った時にその姿に失神したそうだ。そんなこどもたちを愛情深く、優しく見守る家族に、何か考えさせられるものもある。

ベトナムの歴史ある産婦人科病院で、ヘザーさんたちは溌剌とした女性の病院長に会っていろいろな話しを聞く。この病院では、枯葉剤による障がいがあり親が育てられない100人ほどのこどもたちが生活している。並んだベットでただ横たわる少年たちは、自分たちの不運を認識すらできないのでは、と思われるくらいその障がいは重い。病院長から超音波診断による中絶の話を聞かされたとき、ヘザーさんは自分も生まれてこなかったかもしれないと感じて反発した。彼女が感情的になるのも無理はないが、この病院で実際に中絶するのはたとえ出産しても生きることができない胎児だけだと説明される。その後、ホルマリン漬けとなって保管されている多くの胎児を目の前にして、ヘザーさんは自分の生命が紙一重だったと感じて驚愕する。

旅に出る前のヘザーさんは、肉体に一部欠損している部分があるが、さまざまな苦難を乗り越えて、今では夫とふたりのこどもたちに恵まれたあかるいアメリカ女性という印象だった。ところが、旅をして様々な自分と同じ枯葉剤に含まれたダイオキシンによる障がいをもったベトナムのこどもたちと会って、どんどん思いつめて神経が衰弱していっているように見受けられた。彼女が涙ながらに語ったのは、忘れることのできない父の姿だった。戦争から帰還したお父さんは、アルコール中毒、PTSD、そして障がいのある子をもったことで悩み、最後はガンで亡くなった。ある日、拳銃自殺をしようとしているお父さんに気がつき、とっさに何気なく声をかけて冗談を言って防いだ思い出を語りながら、泣いている姿を気の毒に感じる。

当初、枯葉剤は人体に影響はないと説明されていたそうだ。しかし、枯葉剤による被害で障がいのあるこどもを出産したベトナム女性が言っていたが、真っ白な枯葉剤が一面にまかれた翌朝、木々はすべて枯れていたそうだ。ぞっとした。それで本当に人体に影響がないわけがないと、誰だって思うのではないだろうか。これはもう、戦争犯罪と言ってしかるべきか。番組では、美しい緑の大地に枯葉剤を撒く軍用機の映像が何度も何度も流れた。


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