千の天使がバスケットボールする

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『だた、君を愛してる』

2006-12-18 23:01:57 | Movie
この世に完璧な人間など存在しない。誰もが多少なりとも不具合や単なる美意識からの主観的な欠点を抱え、コンプレックスをもちながら生きているのではないだろか。ここに一人の男と女がいる。
男は、健康上の理由からコンプレックスを抱えて大学の入学式すらも出席する勇気がない。女は、同じく健康上の、しかしもっと深刻な問題を抱えていたのだが、そんな内気な男、誠人(玉木宏)に大学の入学式の日に初めて会った瞬間に恋をしてしまった。しかも最初で最後の激しい恋に。静流(宮崎あおい)にとっては、その恋は劇薬だった。彼女は、そのたったひとつの恋のために、女性として最高の恋を生きるために幸福に包まれて劇薬を飲んだのだった。

今年度は、久しぶりに邦画の興業収入が21年ぶりに洋画を追いこすとの観測だ。邦画復権の兆しを見たいと思い、上海行きの機上で鑑賞した映画が『ただ、君を愛してる』だった。
中井美穂さんの批評に、「展開をよめるけれどやっぱり最後に泣いてしまった」というなんともうすいコメントがあったのだが、泣けるか泣けないかが映画の興業成績に結びつくのだろうか、はたまた”せつない”というキーワードで集客力をあげることができるのだろうか。そんな紋切り型の批評やら感想、試写会でのコメントがりっぱに宣伝活動になることそのものに、これまでの日本映画の様相を想像させられる。

「ただ、君を愛してる」は、青春恋愛映画の王道だ。繊細でひとの良い主人公、誠人、そんな彼に恋する一途だがなにやら秘密を抱える幼い風貌の静流、そんなふたりを見守りつつ微妙な三角関係の頂点にたつのが、誠人の憧れの女性、美人で性格も良くグループのマドンナ的存在のみゆき(黒木メイサ)。彼ら3人という恋愛映画のパターンに、大学生活を謳歌する仲間達との友情という構成は延々と繰り返される大学キャンパスライフの構図である。馬鹿騒ぎ、授業風景、そして卒業という別れ。それぞれの道を歩いていくのだが、事情があって卒業後忽然と姿を消した静流から届いたNYからの手紙を握り、カメラマンになった誠人は彼女を訪ねて渡米する。そこで待っていたのが、静流ではなくみゆきだった。
玉木宏、宮崎あおいと、まさに旬の輝きをもつふたりの役者の要となるこのみゆきの存在が、映画の中で独特の奥行きを与えている。
誠人が最初自分に恋をしていることを知りつつも、今では本当に愛しているのは静流だった。恋をされたのに、最後に愛されたのは自分の友人だったということを理解し、誠人の気がつかないうちに静流と女同士の固い友情をはぐくんでいた。
ふたりの女性は、どちらも恋は実らなかった。あるいはそれぞれの思いは届けられ、一人の男性への共有する思いこそがふたりを卒業後も結びつける絆にさえなった。この友情は、尊く哀しい。

「ただ、君を愛してる」
これ以上の言葉も、これ以外の言葉もない。
一遍の瑞々しい恋愛映画として、端整な哀しみをたたえた丁寧な映画つくりに好感をもった。コンプレックスさえももつことが叶わなかった静流の生き方は、静かな感動をよぶ。


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