千の天使がバスケットボールする

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フランク・ペーター・ツィンマーマン ヴァイオリン・リサイタル

2013-10-06 21:56:52 | Classic
世間ではアベノミクスともてはやしてはいるが、一般庶民の給与はあがらず生活は苦しくなるばかり。 カザルスホールもなくなり、 王子ホールのコンサートカレンダーもなぜか寂しいここ数年。そんななかで、頑張っている感があるのがトッパンホールかもしれない。「トッパンの弦」と“弦に最もこだわるホール”という独自路線を築きつつある新興勢力のホールである。ところが、弦にこだわる私なのだが、弦にこだわるホールになかなか足が向かないのは、地の利ならぬ地の不利?。なんたって、この「トッパンの弦」は、最寄の飯田橋駅からも後楽園駅からも歩いて10分以上かかる本当に何もない場所にあるからなのだ。

歩くのはそれほど嫌いではないが、コンサートという晴れの時間に詣でるからにはそれなりの正装感のスタイルでのぞみたい、という自分なりの決め事を守ることを考えると、要するに普段ははかないハイヒールで10分以上も場合によっては傘をさして歩くのか・・・と躊躇してしまうのである。近場にレストランもないし、タクシーなんか走っていない。働く女にとっては、仕事帰りのコンサート会場はどこにあるかも選択のポイントとなってしまう。だから、弦のトッパンは遠いのだ。

が、しかし、フランク・ペーター・ツィンマーマンがやってくる。実に久々のこんな朗報には、比較的便利な東京文化会館の大ホールよりも向かうべきはやはりトッパンの弦になる。

すがすがしい青年のようにいつもの詰襟の学生服を連想するスーツで登場したツィンマーマンを、初めてまじかで拝見したら、ドイツ人にしては意外と小柄な方だった。プログラムは最近CDをリリースしたヴァイオリンとピアノのためのソナタ全6曲という珍しい構成。CDの宣伝をかねてのコンサート行脚なのだろうか、こんな地味なプログラムでも満員の集客力に、一般的には知名度抜群でもないが知る人ぞ知る、というよりもクラシック音楽好きには充分に知られている彼の実力と人気の高さを改めて実感する。熱狂でもなく、静かに集中力高く、音の一粒一粒に耳を傾け、ツィンマーマンを迎える聴衆のあたたかさに、僭越ながら日本のクラシック音楽愛好家の成熟を感じて嬉しくもあり心がなごんだ。

さて、ツィンマーマンは1965年生まれ。ご子息がヴァイオリストとして演奏活動のスタートをきったお父さん、りっぱなおじさんでもある。それでも彼の音の美しさと清潔感は、くもらず全く変わらない。CDで聴いてきた青年時代のモーツァルトの演奏に感じられる純粋で清らかなきらめきと、N響との共演でもはや伝説ともなったベートベンのヴァイオリン協奏曲で魅了したおおらかで懐あつくチャーミングな音も健在である。そして、彼を紹介するのに最もふさわしい表現は、現代ドイツの最高峰にして正統派ヴァイオリニスト。そんな彼が奏でるバッハは、極上の至福の音楽でもあった。ピアニストのエンリコ・バーチェも、息のあったパートナーぶりを発揮して長年のおしどり夫婦のような安定感がある。

ちなみに、忘れてはいけないのが、ドイツを代表する双璧ともいえるもう一人のヴァイオリニストのアンネ・ゾフィー・ムターがいる。カラヤンお気に入りの彼女に対する、彼の次のコメントを見つけて笑ってしまった。

「カラヤンとは、個人的にお知り合いになる機会はありませんでした。幸か不幸か、私の2年前にアンネ・ゾフィー・ムターがベルリン・フィルでデビューして、彼のヴァイオリニストと言えばムターだったからです」

----------------------------- 2013年10月6日 トッパンホール -----------------------------------------------

ヴァイオリン:フランク・ペーター・ツィンマーマン
ピアノ:エンリコ・パーチェ
J.S.バッハ: ヴァイオリンとピアノのためのソナタ 全6曲
第1番 ロ短調 BWV1014
第2番 イ長調 BWV1015
第3番 ホ長調 BWV1016
第4番 ハ短調 BWV1017
第5番 ヘ短調 BWV1018
第6番 ト長調 BWV1019