千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

ギル・シャハム バッハ 無伴奏ヴァイオリン リサイタル「深秋のシャコンヌ」

2010-11-15 23:04:10 | Classic
私のギル・シャハムが、ようやく!3年ぶりに来日。(・・・だよね。毎年、訪日を楽しみに情報をチェックしていたので、こっそり国内のどこかで私に内緒で演奏会を開いていた、な~んてことはないはず。)前回は、オール・ブラームスで攻めてきたが、今度は、オール・バッハ無伴奏のプログラムをひっさげていよいよ勝負にでたっ?。あいかわらずビジネスマンのようにダークスーツにネクタイを締めたギル・シャハムは、見た目どおりの誠実で有能なビジネスマンのように、ヴァイオリン音楽の最高峰と言われるバッハの無伴奏を高い技術力に支えられて理路整然と弾いていく。

最初はおなじみの耳にすっかりなじんだ第3番のプレリュード。ギル・シャハムの演奏の特徴は、なんと言っても音の馥郁としたまろやかな美しさにあるのだが、彼の音はこの曲にとても向いているようで、深遠なるバッハの親密性が伝わってくる。端整に、むしろオーソドックスな正攻法で攻めていくのかと思いきや、やがて意表をつかされるようにトリルを入れたりして彼の人気の由縁たるエンターティメント性、幅広い意味での音楽性が発揮されていき、バッハを弾いても、やはりギル・シャハムはギル・シャハムだと感じる。

また、私が最も好きなのは、彼の音のあたたかさである。最後のシャコンヌは、無神論者の私ですら、神の存在を感じて敬虔で厳かな気持ちにさせられる曲である。粛然として清々とした音楽に包まれて、まさに天井から、神がおりてくるような感覚の演奏に出会うこともある。この曲は、ひとつの音楽以上のものだと考えるのだが、ギル・シャハムの演奏はその音の美しさとあたたかさ、そして優れた技術力が、神の存在とは関わらず音楽という芸術に高めている。それは、バッハがこの曲にこめた意図とは、不幸にも異なっているのではないだろうか。この曲を弾くことは、なんと難しいのことか。アンコール曲のパガニーニのカプリスでは、ハイ・スピードで魅力たっぷりに聴衆を楽しませてくれる演奏を聴いて、まさに彼の本領発揮とばかりにたくさんの拍手に囲まれて思い出したのが、シャルリー・ヴァン・ダム監督の映画『無伴奏 シャコンヌ』だった。

フランスのリヨン。ヴァイオリニストとして成功したアルマン(リシャール・ベリ)、第一線で活躍している彼は、音楽家として愛され尊敬されている。ところが、すべてが順調に幸福な音楽家としての人生を歩いていたはずのアルマンは、同じヴァイオリニストの親友の自殺をきっかけに、演奏することの意味、真の芸術を問い詰め考えるようになっていった。ほどなく、アルマンは華やかな舞台を去り、選んだステージはメトロの地下道だった。音楽を知っていて、彼の演奏を楽しみに集まる知的な観客が待つ快適な空間ではなく、ほこりが舞い、雑音が流れ、音楽やアルマンにも無理解で無関心な通行人たちが行きかう路上。整えられた髪、清潔で落ち着いた服装を来ていた彼は、すこしずつ路上の垢を身につけてやつれ、汚れていく。しかし、メトロの職員や心を閉ざしていた切符売りのリディア(イネス・ディ・メディロス)も彼の音楽に癒され、演奏は街行く人々の心をなごませるようになっていくのだったが。。。

演奏をすることを哲学的につきつめた1994年にフランス・ベルギー・ドイツで製作されたこの映画を、私はレンタル・ビデオで観たのだが、その時に日ごろ映画を殆ど観ないヴァイオリニストの方がもこの映画を観ていたという話を聞き、ギドン・クレメールが映画の最後に流れる「無伴奏 シャコンヌ」を演奏していたという事情もあったのだが、音楽家の間では世間以上にこの映画が話題になっていたのだと思った。確かに、およそ音楽が好きな私の周囲の者で、この映画を観ていない者はいない。立ち退きを命令した警官に愛器を壊される場面では心が苦しくなり、最後のシャコンヌを弾きながらどこまでも漂っていくアルマンの姿には衝撃を受けた。何かと恋愛や家族愛に転び勝ちな映画作品群の中で、この映画が与えるテーマーは際立っており、哲学的で深い。 今回のギル・シャハムのバッハを聴いて、まだまだ彼にとってはバッハは進化の途上であると感じた。

ところで、シャハムがこれまでに録音してきたCDは20枚を超えるのだが、彼の特徴として、フォーレ、サン=サーンス、ドヴォルジャーク、パガニーニ、シューベルトなどなど、ひとりの作曲家をテーマーにしぼって名盤を数々と世に送り出してきたところにある。(この方の「パガニーニ・フォー・トゥー ヴァイオリンとギターのための作品集」のCDを聴いた私は、音楽という賜物に抱かれた感動のあまり泣いた。。。)ドイツのグラモフォンから発売されたCDはその数多くが話題となり、何度もグラミー賞、レコード大賞を受賞してきたのだが、専属契約を打ち切られたそうだ。今後のプログラムの計画があったのに、とても残念だというシャハムのインタビューの読んだ記憶があるのだが、最近、「カナリー・クラシックス」という自主レーベルをたちあげることで解決したようだ。今後も彼らしいコンセプトのCDが登場するのを待ちたい。

-------------------------------- 11月15日(月) 紀尾井ホール ----------------------------------------

出演 : ギル・シャハム(ヴァイオリン)
曲目 : オール・バッハ 無伴奏ヴァイオリン プログラム
パルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006
ソナタ 第2番 イ短調 BWV1003
パルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004

■アンコール
パガニーニ:カプリス 24番
バッハ:ソナタ 第3番 ラルゴ

□前回のリサイタル
「ギル・シャハム ヴァイオリン・リサイタル」