千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

シュロモ・ミンツ 「パガニーニ 24のカプリース op.1全曲」

2009-04-07 23:23:01 | Classic
シュロモ・ミンツはもう過去のヴァイオリニストなのか。
チャイコフスキー国際コンクール、エリザベート王妃国際音楽コンクールの審査委員、おまけにヴィニャエフスキ国際コンクールでは審査員長まで務めている、なんだかえらい”往年のヴァイオリニスト”なんだ、、、と私なんか思っちゃたりしていた。ところが、あの超絶技巧満載のパガニーニの「24のカプリス」を一夜で全曲を弾くというとてつもないリサイタルのチラシに興奮して飛びつけば、ヴァイオリニストは名声と評判、名前だけしか知らないシュロモ・ミンツ。しかも私の想像では爺さんだったのだが、1957年生まれの50代に入ったばかりのまだまだ若い!魅力たっぷりの?壮年ではないか。(この年齢でご隠居扱いをしたら、calafさまやromaniさまに失礼)

私がこのように年齢にこだわるにもわけがある。ご存知パガニーニのカプリスと言えば、短い時間の音符の中に最も高いヴァイオリンの技巧をダイヤモンドの如く散りばめて、尚且つ高い音楽性を要求される最高峰のヴィルトーゾだけが挑めるヴァイオリン音楽である。たとえて言えば、フィギュアの浅田真央ちゃんが難度の高いジャンプやテクニックを完璧にこなして何曲も滑るかの如く、芸術面も審査されるが体力とある種のカラダの軽さも必要である。今の、真央ちゃんだったら最高の演技が期待できるが、10年後、20年後の真央ちゃんに同じプログラムを期待するのも無理というもの。だから、パガニーニのカプリス全曲などというプログラムをこなすのは、体力・気力とももの溢れ、記録にチャレンジできる運動神経も抜群な若者(五嶋龍クンやってみる?)にまかせてもよいのでは、などと心配もしたりした。

案の定、最初の一発目の音だしから失敗して1~3曲はテクニック・音程も不安定、重音奏のスピカートも雑音が雑じる。これが世界的なヴァオリニストとして有名な、あのシュロモ・ミンツ?1曲終わるたびに、左手をさげて指の疲れをほぐすような仕草をする。しかも、遠目には年齢以上にもっと爺さんに見える。そして無伴奏ソナタの演奏時にありがちな演出として、ホール全体の照明をしぼり、ヴァイオリニストひとりだけほのかにあかりを照らしている効果もあり、拍手もなく会場は不思議な静寂と緊張が支配する。こんなマニアックなプログラムなのにホールはほぼ満席。ヴァイオリンケースをさげた学生の姿に混じり、プロのヴァイオリニストの姿も。そんな期待に応えてなんとか挽回してくれたのが、休憩をはさんだ後半。

前半から一転して、パガニーニ特有のねばりのある魔性を感じさせられる音楽をひきだし、シュロモ・ミンツらしい美音で難所もなんなくクリアー。しかもカプリスにふさわしい自由な雰囲気も感じられる。ようやく本来の実力と音楽性を発揮か。50代に投入して、ミラノ・スカラ座からスタートした「パガニーニ 24のカプリス」世界ツアーの最終公演にあたる。おりしもホールの外は、見事な満開の桜が咲き誇る。ようやくパガニーニにつかまったかと思ったら、終演。
しかし、侮ってはいけなかった。
アンコールで弾いた5番は、目も冴えるようなありえないくらいのとんでもなく速いテンポで、卓抜した高い技術と音楽性を披露。やっぱり、すごいヴァイオリニストじゃん、シュロモ・ミンツ!
一生忘れられない春の夜に感謝。

--------2009年4月7日 紀尾井ホール -----------

■シュロモ・ミンツ(Vn)

パガニーニ:24のカプリース Op.1 全曲