千の天使がバスケットボールする

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「メロスフィルハーモニー」第12回演奏会

2006-03-12 22:08:46 | Classic
メロスフィルの演奏会に脚を運ぶのも、これで4回めになる。一年に1回、ほぼ3月に催されることを考えるとまる3年の歳月が流れていた。それを考えると、3年前学生として参加していた演奏者も大学院生や社会人となり、壇上の幼い輪郭がきえたおとなの顔をつくづく眺めているとまた感慨深いものもある。
そして昨年の演奏会の感想ブログを振り返り読んだのだが、その時の印象と今日の演奏の雰囲気があまり変わらないことに、やはり指揮者を含めて若くて元気のよいオケなんだとつくづく思う。

冒頭の「エグモント序曲」。
演奏がはじまる前に、音楽批評を生業としている正論評論家とは違った切り口の薪傍ご隠居氏の、独特の語りをプログラムノートで読んだ。
「(中略)むしろメロス的に興味深い事と言えば、冒頭のFのユニゾンの響き、これに尽きるのではないでしょうか。皆さんは冒頭オーケストラ全奏でホールを満たすファ音のみのこの響きをいかに聞かれるでしょうか。(略)何度聞いてもこのヘ音の管弦楽の咆哮はどこか悲劇色を帯びるように思えてなりません。」と以下、専門的な感想が続く。たったひとつの音にも調固有の色があり、また楽器によって色合いも微妙に違う。私は最初のFの響きには、エグモント序曲のすべてがこめられているとも考える。文豪ゲーテの戯曲”エグモント”のベートーヴェン的解釈であり、またベートーヴェンという作曲家自身の”運命”を感じる。
このF音をどう響かせるか。指揮者中田氏の振り下ろされた棒を合図に、楽員の気持ちがひとつに集中されたF音は、これ以上ないくらいにドラマティックに始まり、ホールを一瞬のうちに波のように満たしていった。

次に演奏された「プラハ」。
言わずとしれた250年前生誕したモーツァルトによる有名な曲である。昨年のプログラムノートからの引用↓

「生物学の白眉はその論理ではなく、生物各種にみられる視覚的機能的美にある。」

この一文は、日本をこよなく愛し、大リーグ野球とモーツァルトをはじめとしたクラシック音楽を趣味とした古生物学者であるハーバード大学グレン教授による。では、音楽の白眉は、このオケの命名由来からきたモーツァルトの「音楽で一番大切なものはメロディなんだよ」のことばにつながるという薪傍ご隠居氏の解説どおり、モーツァルトのメロディはすべての音楽の中で最も美しい。メロスフィルのモーツァルトは、出身者の多い大学オケのDNAを確認するような元気でノリのよさに特徴がある。永遠の16歳とはいいつつもオトナの私としては、もう少し儚げな響きをと思うのだが、それも解釈の違いなのだろう。

最後のベートーヴェン「交響曲弟4番」は、再びオケのルーツを彷彿させるはつらつとして疾走感溢れる音楽に仕上がっていた。N響の音楽監督アシュケナージのお披露目演奏会での「運命」を思い出す。あの演奏は賛否両論あるかと思うが、フルトベングラーから脈々と受けつながれてきた日本人の考えるベートーヴェン像に変革をもたらしたという気がする。外国オケであのように重くなく、エネルギッシュで躍動感のある演奏に接したとのとは違うのである。やはりあのN響で、と思うのは私だけだろうか。中田氏の振るベートーヴェンも、新しい時代を予感させる新鮮で活き活きとした音楽だった。

そして、今日の演奏会の”白眉”といえば、現在ウィーン音楽院に留学中の中田氏のご楽友によるサプライズだ。モーツァルト生誕250周年ということで、「フィガロの結婚」「ドン・ジョバンニ」からそれぞれ一曲をアンコール出演して歌っていただく。これには観客も驚き、大喜び。余談ではあるが、真っ白な蝶ネクタイと燕尾服という完璧な正装も白眉である。右手中指の上品な金の指輪が時々きらりと光り、雰囲気を盛り上げてくれる。きれいに整えた金髪の髪型とともに大柄な体躯に実に映える。彼の堂々たるステージマナーとこの盛装感に、音楽家のプロとしての意識を感じる。近頃軽めの軽チャー化しつつあるクラシック音楽業界、それはそれでひとつの生残り戦略として必要ではあるが、非日常とは別世界のきれいな音楽でこころを洗われたいと願う聴衆にとっては、雰囲気を盛り上げる身なりも大事にして欲しいと願う。

まだまだ指揮者であり音楽監督である中田延亮さんのことや、初めて経験した第一生命ホールについても書きたいのだが、少し長くなったのでいずれまた。。。

---------2006年3月12日  第一生命ホール  ------------------------------------------
L.v. ベートーヴェン エグモント序曲
W.A. モーツァルト 交響曲第38番ニ長調「プラハ」
L.v. ベートーヴェン 交響曲第4番変ロ長調

■アンコール
W.A. モーツァルト
「フィガロの結婚」より”Se vnol-ballare”
「ドン・ジョバンニ」より”Fin ch'han dal vino”
独奏 バス・バリトン Vesselin Stoykov

指揮: 中田延亮 (メロスフィルハーモニー 音楽監督)