千の天使がバスケットボールする

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理系作家の活躍

2006-01-18 23:23:35 | Nonsense
理系作家というカテゴリーで、なにかとセットで話題にのぼる両作家に、こんな朗報が届いた。

■瀬名秀明さん

「パラサイト・イヴ」などの著作で知られるSF作家の瀬名秀明さん(37)が、母校の東北大学で、工学研究科機械系の特任教授(SF機械工学企画担当)に就任することになった。16日付で着任する。
同大学の説明では、独自の切り口による研究内容の紹介記事を通して、瀬名さんから高校生ら若者に機械工学の魅力を伝えてもらう。また専門外の立場からの意見を、研究者の刺激にする。瀬名さん自身が講義を持つことはないという。
同研究科の清野慧教授は「私たちがアトムを見て夢を持ったように、子どもたちが追いかける新たなアトムを生み出してもらえれば」と話す。最先端の研究に触れることで、新たなアイデアの創作が生まれることも期待している。(06/1/13)

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■東野圭吾

「容疑者Xの献身」(文芸春秋)で直木賞を受賞した東野さんは昭和60年にデビュー。江戸川乱歩賞や日本推理作家協会賞を受賞し、ドラマ、映画化も多い。直木賞は平成10年の「秘密」以来6度目の候補入りだった。 受賞作は完全犯罪をめぐるミステリーで、選考委員の阿刀田高さんは「ミステリーとして90点以上の完成度」としながらも、「“小説力”を感じる」と実績重視を印象付けた。 東野さんは会見で、「落ちるたびにヤケ酒飲んで、選考委員の悪口言ってた。面白いゲームやったな。勝ててよかった。きょう? ヤケ酒飲んでた仲間と『直木賞はすごい』とホメながら飲みます」とチクリ。 また、選考委員の「トリックを主体にした推理小説での受賞は異例」との言葉に「自分としてはトリックより強烈におもしろい話を書きたかったので、賞の趣旨と違っているとは思いません」と自負ものぞかせた。 (06/1/18))

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東野圭吾さんは初期の作品から、推理小説らしい技巧をこらしたトリック主体だけでなく、不思議な余韻を残す人間のドラマに特徴があった。たとえていえば、こどもの頃友人たちと遊んだ後に、ひとりで家路に向かう夕日を眺めているような気分だろうか。同じように人間のドラマを描いた推理小説作家である松本清張氏が、人間の欲望や業、逃れられない過去という闇に視点をおき、社会性をもたらした作品を世に送りつづけたのとは異なり、東野圭吾氏は個人と家族、友人という小さな最小単位のコミニュティに閉じられた中で起こる、葛藤や友情、愛情を描いた。戦争を経験した貧しい日本と戦後の豊かな高度成長期という育った時代背景の違いもあるかもしれない。
「容疑者Xの献身」を読み終わった時、熟練工の集大成された作品のなにひとつ無駄のない機能美を見るような印象が残った。東野さんは、理系の知識を駆使して書いたと語ってはいたが、確かに数学を好きな者の共感は呼ぶ。
「最高傑作」と豪語していたのも、直木賞を意識しての発言だったとも思う。なにはともあれ、受賞記者会見で実に嬉しそうな顔だった。

そして瀬名秀明さんは、同じ理系出身者の中で最も理系の専門的知識を駆使して新分野を切り開いている作家である。処女作「パラサイト・イブ」こそ、ホラー小説というジャンルだったが、今ではSF、推理小説、ファンタジーが融合された”科学小説”という独自の分野を切り開き、活躍をされている。瀬名さんの近年の小説は、難解である。近著「デカルトの密室」では、哲学、ロボット工学、数学に興味がなければ、おそらく1/10も読むことができないだろう。誰もが読んで感動できる東野さんのような間口の広さはない。また人間性を描くというよりも、ハイテクで無機質な部屋にいるような乾いたタッチが、作品に近寄り難い雰囲気をもたらしているともいえる。しかし、最先端の科学と今後人類が迎えるだろう仮想社会を、誠実にドラマチックに書いた作品は、最後までつきあうことができたならば、大いなる知的好奇心を満足させてくれる。
東野圭吾さんが、「読者のためだけに小説を書く。これからも読者の期待を裏切らない。裏切る時は、いい意味で裏切りたい。」という大阪人的なサービス精神は、作品の多産と映画化、テレビ化に発揮されている。

作家の北杜夫氏や漫画家の手塚治虫さんのように、理系出身者がその経歴を活かして文芸もので活躍するという前例は珍しくない。今後も決して期待を裏切らないこのふたりの作家から、目が離せない。