千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

「ベルリンフィルと子どもたち」

2005-01-09 16:45:48 | Movie
カメラが無機質で個性もなく、むくもりも感じられない今のベルリンの街の素顔を映していく。そこへいきなりヒップポップの音楽が重なる。漂流しているかのような寒々とした光景に、ヒップポップ音楽の明るさが逆に暗澹とさせられる。そんな冒頭のシーンからはじまり、やがて静かにクラシック音楽が鳴り響き、にぎやかなヒップポップ音楽に違和感なく見事に融合していく。ラストでも繰り返されるこの場面と音楽は、映画の中で指揮者のサイモン・ラトルが語る「音楽にできることは、人々を分断するのでなく、一つにすることだ」という信念を象徴している。

この映画はベルリン・フィルの芸術監督でもあるサイモン・ラトルが始めた教育プログラム、音楽的な素養もダンスの経験も殆どない250人の子供たちが、あの格式の高いベルリン・フィルが演奏するストラヴィンスキー「春の祭典」をダンスで共演するというプロジェクトのドキュメンタリーである。
映画はサイモン・ラトルや振付師のロイストン・マルドゥームらのインタビュー、こどもたちへのインタビューを交え、オケのリハーサルや6週間の練習風景がすすんでいく。
クラシック音楽好きな方には、オケのリハーサルだけでも充分に楽しめる。
(ビオラ奏者の清水直子さんも映り、花を添えているのが日本人としては嬉しいではないか。)

なかでも気になったのがたった一人、黒人である少年だ。
難民や家庭環境に恵まれないためであろうか、落ち着きなくふざけてばかりいる生徒たちの中で、妙に物静かで穏やかな好奇心に満ちた表情が印象に残るそんな少年だ。後の彼のインタビューを聞いたらそのわけもわかる。
彼の名前はオラインカ。16歳。
母国のナイジェリアで政治紛争のために両親を殺され、ドイツにたった一人でやってきたばかり。
決してなめらかでない英語で、友人がいないこと、いろいろなことに挑戦したい、努力して勉強したい、そう語る彼のまだ幼さの残る顔に私は感動した。
そして後半で、祖国では祖父の代から歌は口伝えで伝わり、自然に音楽にあわせて踊っていた、だから文化的レベルはドイツの方が低いと言ったことに、経済的な豊かさと文化が比例するという自分のなかにあった思い込みを私は恥じた。そしてこのプロジェクトを通して、友人もでき、現在は情報科学を勉強しているという彼の幸福な前途を願うばかりである。

2500人もの観衆の前でアリーナの舞台にたち、力強くいきいきとした「春の祭典」の群舞は、音楽の可能性、こどもたちの可能性をも描いて舞っている。

音楽に限らず、芸術はひとの成長に必要だと思う。全く不要だという考えもあるかもしれないが、自然の美だけでなく、人間が描いた美しいもの、創造的なもの、そんなものに触れるということがどれだけ豊かな感性をもたらし、それが人生に幸福なあかるさをもたらすか。
長期的な視点でこの教育プログラムを支援していくドイツ銀行も、日頃のお仕事の罪ほろぼしのためか?けれどもえらいぞ、ドイツ銀行。

「この狂った時代、人々は芸術全般に生きる意味を見いだすだろう。人としての意義、存在する意義・・・素晴らしい音楽を聴けばわかるんだ。”自分はひとりじゃない、この思いを誰かとわかちあえるって。誰にでも音楽は必要なんだ」
               -by SIR SIMON RATTLE

ちなみに原題は”RHYTHM IS IT!”