コニタス

書き留めておくほど重くはないけれど、忘れてしまうと悔いが残るような日々の想い。
気分の流れが見えるかな。

本の名前 続き

2010-04-24 00:10:13 | 
昨日、「四時交加」「四季交加」のことを書きました。その時は手の届く範囲にあった本しか見てなかったんですが、少し背伸びして岩波の「日本古典文学大事典」を調べたら、鈴木重三先生が、書名について言及されていました。項目名は「四季交加 しきのゆきかい」です。

書名は、見返しに「画図 四旹交加」とあり、複製本で「四時交加」の書名を付したところから、従来この書名が普及するが、原本の題簽と袋に「四季交加」とあり、袋及び同時期の広告に表記の読みを付した例をみるので、原本に従う。

絶対的な唯一の解ではありませんが、ま、これで一応一件落着です。


ところで、もう一つ、気になっていたことがあるのです。
それは、「時」か「季」か、と言う、漢字の書名だけでなく、この文字は何と読むのか、と言う話。

昨日リンクしたブログには、
「四季交加」(Siki no Yukikai)とするものと「四時交加」(Siji no Yukikai)とするものがある。
と、ローマ字表記が為されているんですね。
「四季=しき」はまぁ良いとして、「四時」は、「しいじ」じゃないのかな、とか、「交加」をどうして「ゆきかい」と読めるんだろう、とか。

これも、鈴木重三先生が解決してしまったんですが、ネットで検索すると案外統一されていないことが分かります。

国会図書館の影印本は、臨川版は独立して立項されていて
 タイトル:四季交加 タイトルよみ:シキ ノ ユキカイ
となっていますが、日本風俗図絵関係は内容細目に当たるので読み仮名ナシ。
実は柏書房の「日本風俗図絵」カバーには「しじのまじわい」というルビが振ってあります。これもちょっと謎。


江戸文化検定の公式テキスト、「江戸諸国萬案内」の正誤表(2009年10月22日現在)

●P181 写真キャプション『四時交加』のルビ
誤:しじのかたらい
正:しじのゆきかい
*現物を読んでないので判りませんが、江戸文化検定では、この本は“四時”なんですね。

漫画文化研究会「漫文について」
「四時交加(しいしこうか)」

おぉ!
この人は何を根拠にしたんでしょう。
それはわからないんですが、こういう事があります。


これは名著全集から、例の「漫画」が出てくるので有名な京伝の序文をスキャンした物です。

この文章、上段左ページに、「交加」が二回、「四時」が一回出てきます。そして、読み仮名が振られていることも判ります。
「交加」は、右側に「カウガスル」、左側に「ユキチガフ」とあり、「四時」は、右に「シイシ」、左に「シキ」。
「ユキカヒ」ではないし、「四時」は「シジ」ではなく「シイジ」だったんじゃないかというのは有力(もちろん、清音“シイシ”の可能性もかなり高いです)。それだけでなく、「四時」と書いても「シキ」と読んだ可能性も出てくる。
ややこしい。
しかし、前の記事にも書いたように、こういう自在さが江戸の人たちの「国語力」だったのは確かなのですよね。他のルビを見ても、ホントに愉しい。


この一連の記事は、わざと段階を踏んだんじゃないか、と疑われるかもしれませんが、実際仕事の合間に手近な資料で書いていたために起こった、小さな“事故”です。
最初から「日本古典文学大事典」を見ていればそれ以上ひろげることもなかったのですが、むしろこうやってあれこれ無駄に調べて自分の記憶を試したりするのは、それ自体愉快な経験だし、その過程で色々考察するのもおもしろい。
これで、廊下の向こう、日文研究室に行けば大量の古辞書があるので更に用例集められるんですが……。

これは、“文学”とか“語学”とかじゃないでしょ、とか“歴史学”ですか? とか、色々言われそうだけれど、それもどうでも良い。
まぁ、敢えて言うなら“言語文化”ですな。

学問って言うのは、こういう探求そのものだし、そこから今度は自分の表現を見つけていけばいいわけだし。

こういう回り道を楽しめることか、きっと、とても大事。

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4 コメント

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回り道 (yajifun)
2010-04-26 21:30:54
冒頭の鈴木重三先生の説明をブログに引用させていただきました。
いま「"四時交加"」を検索するとコニタさんの一連の記事が上位に表示されるようになったようです。(オシリにくっついて私の記事も)
将来、同じような疑問を持った人がこの回り道をたどってくれたらなぁと思ったことでした。
今回は本当にありがとうございました。
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有難うございます。 (コニタ)
2010-04-27 08:04:01
重ね重ね、ご丁寧に有難うございます。

今回は、回り道、寄り道、愉しませていただきました。
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こんにちは (えんどぅ)
2010-05-24 12:09:04
引用されています「漫画文化研究会」の者です。日本マンガ史の本などでは、これまで一部で「四時交加」を、この字でシイシコウカと読ませており、それを元にシイシコウカと紹介していました。ところが、その後、学内の近世の先生からご指摘をいただき、「国書総目録」で「シジノユキカイ」で掲載されていたので、以後、自分自身は「シジノユキカイ」で読んでおります。

しかし、この記事で様々な読みの可能性が指摘されており、我々マンガ研究に関わる人間も、きちんと一次資料の詳細な検討と調査が必要だな、と改めて思わされました。

ありがとうございました。
返信する
本人です。 (こにた)
2010-05-25 00:16:52
えんどぅ様。
済みません、勝手に引用した上良いように使ってしまって。

そうか。『国書総目録』みてませんでした。
ホントに、色々あるんですよね。

一次資料の扱いは我々“専門家”の仕事なので、それをもっと明確な場面で使わなきゃイカンのじゃないか、と思案中。
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