コナのシネマ・ホリデー

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『ヒアアフター』再び歩み出すために

2011年02月26日 | じ~んときた映画

原題:HEREAFTER (G)
2011年・アメリカ(分)
               
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ
監督:クリント・イーストウッド
脚本:ピーター・モーガン 
音楽:クリント・イーストウッド
出演:セシル・ドゥ・フランス、マット・デイモン、ブライス・ダラス・ハワード、
   ジョージ・マクラレン、フランキー・マクラレン

 

鑑賞日:2011年2月22日 (川崎)

鑑賞前の期待度:★★★★


まず余談ですが、
今から数年前、
アメリカのケーブル・テレビで、
サイキック・リーディングのCMが流れていたのを見かけました。

ひところ日本のTVでは、
法律事務所の「借金のお悩みご相談ください。」というCMが頻繁に流れていましたが、
同じような調子で、
「人生に悩んだら、いつでもご相談ください。」とばかりに、
TV画面に電話番号が表示されていました。
それはまるで、
サイキック・リーディングが世間に認知された一般的な職業のような印象でした。

そういう能力を持つという人を全否定するつもりはありませんが、
「まさか、霊能者がテレビでCMするとは・・・」と、
正直、驚いたものです。

 


さて、今作でマット・デイモンが演じるのは、
本物のサイキック(霊能力者)という役どころ。
死者の声を聞き、相談者に伝えることを職業としていたが、
TV・ラジオ・雑誌と脚光を浴び過ぎ、
疲れ果ててしまった彼はサイキック・リーディングを廃業し、
今は普通の暮らしを送っている。

ぼくはてっきり、彼が再びサイキックとして、心に傷を負った人々を癒し、
人生を歩ませていく再生の物語かと思っていたのですが、
勘違いでした。

この作品は、
津波に飲み込まれ、臨死体験をしてしまったフランス人マリーと
死者との会話に疲れ果て、
能力を使わない普通の暮らしを求めるアメリカ人ジョージと
事故によって一卵性双生児の兄を亡くし、
心を閉ざしてしまったイギリス人少年マーカスという、
死に関わったことで人生の道に迷った3人が、
同じ日に同じロンドンのブック・フェアで出会ったことで、
もう一度、希望をもって人生を歩み出すという物語でした。
(なぜブック・フェアだったのかが、大事。)

そう、サイキックであるジョージもまた、
人生に希望を取り戻したいと願っているひとりの人間に過ぎなかったのです。

そして、この映画では、

“人は死んだらどうなるのか?
 死んだ人とは、もう会えないのか?
 大切な人を亡くして、なお希望を持って生きられるのか?”

ともすれば、宗教色に染まりがちなテーマを、
“神”を持ち出さず、懸命に生きていくことの大切さを説いていたことに、
好感を持ちました。


映像においては、
一番の見せ場は、やはり津波のシーン。
おそらく多くの人が、2004年に太平洋で起きた大津波被害のニュースを記憶しているであろうし、
実際の映像も数多く残されている。

その世界中の人々が見たであろう災害のシーンをリアルに再現するのは、
かなり大変だったはず。
CGだけでは、とても描ききれなかっただろうし、
津波に巻き込まれ流されるシーンは、
小さな女の子も含め、本当に流されながらの撮影だったらしい。

しかも、御年80歳のC・イーストウッド監督自ら、
海に入り波に揉まれながら
撮影したというのだから、まったく恐れ入ります。

また、一卵性双生児の兄弟を演じたふたりは、
演技の経験がほとんどなく、
監督が“顔”だけで選んだのだそうで、
顔が決まれば、あとは問題ないのだとか。
そう言い切れるあたりもまた、
俳優として監督として成功をおさめてきた、
映画を熟知したC・イーストウッドならではなのかもしれない。

ちなみに、兄弟には余計なプレッシャーを与えないよう、
役を決めず兄と弟を交互に演じさせたのだそうです。

つくづく感服!

津波の迫力:★★★★★★★★★★★★★★★★★
マリー役のセシルの魅力:★★★★★★★★
M・デイモンの確かな演技力:★★★★★★★★★★★
息子たちの母親への愛情:★★★★★★★★★★★★
人との繋がりの大切さ:★★★★★★★★★★★★★★★★★★

鑑賞後の総合評価:
                          

今回のマット・デイモンは、眉間に皺を寄せている表情が多かったけれど、それだけに、ラストの晴れやかな表情がいきている。
やはり、上手いなぁと感心。


2011年3月1日追記:

普段わたしたちは、
死と隣り合わせで暮らしているということを、つい忘れがちだ。
だが、現実には、実に多くの死と隣り合わせでいる。
今この瞬間にも、日本中で事故や事件が起こっていて、
さらに世界では自然災害や、
テロ、
反体制運動やそれに対する粛清が行われたりと、
世界のいたるところで多くの犠牲者が出ている。
いつ、自分がそういった犠牲者のひとりになっても不思議はない。

そういった現実も辛いが、
しかしこの作品が目を向けているのは、
生き残って、なお人生を歩み続けなければならない多くの被災者や数多の遺族であり、
彼らのそばにいるわたしたちなのだと思う。



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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
観ました (まさみ)
2011-02-27 21:36:22
丁度この映画を観て帰宅したところです。
こういった映画は
「霊は存在するのだ、存在するのだぞ」と
たくさんのエピソードを盛りこみがちですが
この映画は優しく静かに悲しみや苦しみを表現していました。

津波のシーンは凄まじいものでしたね。
返信する
そうですね。 (コナ)
2011-03-01 21:33:49
津波や爆発といったシーンは激しいものの、
この映画は、ことさら声高に何かを訴えることなく、静かに表現していましたよね。

リーディング(霊との交信)に疲れたジョージが、
リーディング(朗読)によって心を癒されていたり、3人がブックフェアで出会うよう設定したあたりに、さりげなくメッセージが込められていた様に、ぼくは思ったのですが・・・。

そういったことに気づく気づかないで、この作品に対する評価が分かれているようですね。
返信する
TB有難うございました (シムウナ)
2011-04-17 18:21:30
相変わらずクリント・イーストウッド監督は
良質な作品を提供してくれます。
死後の世界はどうなるか?
生きている我々にとってこの先の命題かも
しれませんね。自分は無の世界だと
思ってます。ただ、死んだ人はこの世に
戻らないので精いっぱい、誰かを愛したいと
願う今日この頃です。
返信する
こちらこそ。 (コナ)
2011-04-27 10:09:49
>シムウナさん
コメント&TBありがとうございました。

3.11以降、この作品の上映が中止になったりしたのは、残念な限りです。
内容がいいだけに・・・。
ぼく自身、まさかこのブログを書いた後、日本で今回のような大災害を迎えるとは想像だにしませんでした。

だからこそ、精一杯生きなければならないと実感しますよね。
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