古森病院@福岡市博多区 病院管理者のブログ

ベイサイドプレイス近隣にある長期滞在型病院です。投稿記事は管理者の独自見解であり、医療法人の見解ではありません。

ヘリコバクターピロリ菌 除菌のその後・・

2020-07-13 13:10:28 | 日記
古森病院@福岡市博多区です。

ここ数年、堀江貴文さん(旧ライブドア社長)など非医療従事者の方々が
ヘリコバクターピロリ菌の除菌やヒトパピローマウイルスのワクチン接種など
細菌やウイルスにより引き起こされる悪性疾患の予防医療について 
盛んに発信されています。

予防医療普及協会
https://yobolife.jp/

さて、本フェチの管理人は 最近
「消化器内科」というマニアックな雑誌が創刊されたのを知り
早速いくつか読んでいたところ、
(消化器内科は「胃と腸」「消化器内視鏡」「臨床消化器内科」というかなり有名な
商業雑誌が複数あるのですが、2019年にまた新しく立ち上がっています)

管理人もお世話になった岡山大学消化器内科の先生たちが
ピロリ除菌後の新規胃癌発生率について 発表されておられる論文が紹介されており
除菌成功後 なんと20年観察しても 胃癌が発症しているという内容で衝撃を受けました。。。
患者さんたちはJFEスチール株式会社の社員の方々で、潰瘍をきっかけに内視鏡を受けられ
ピロリ除菌を行い、その後健診の一環で内視鏡フォローされておられたようです。

Risk of gastric cancer in the second decade of follow-up after Helicobacter pylori eradication

Susumu Take, Motowo Mizuno, Kuniharu Ishiki, Chiaki Kusumoto, Takayuki Imada, Fumihiro Hamada, Tomowo Yoshida, Kenji Yokota, Toshiharu Mitsuhashi & Hiroyuki Okada

Journal of Gastroenterology volume 55, pages281–288(2020)

https://link.springer.com/article/10.1007/s00535-019-01639-w

ヘリコバクターピロリ菌が 胃がんや胃や十二指腸潰瘍の発生に深くかかわっている
ということは間違いのない事実で、当初ピロリ除菌は保険適応ではなかったのですが
内視鏡を行うことを条件に 2013年から保険適応となりました。

管理人は患者さんから「ピロリがいなくなったら 胃癌とは無縁になりますね♡」と
言われるたびに

「いや・・すみません・・ピロリ菌がいなくなっても、除菌するまでずっとピロリのせいで胃炎が起こっていたので
除菌に成功しても、しばらくは胃癌が発生しないかどうか 内視鏡を当面行わないといけないのです・・・」

と冷や汗をかきつつ、ご説明しておりましたが、

「一体いつまで内視鏡を行わないといけないのだろう・・?」と 
内心 思っておりました。
その問いに答えられるデータが存在しなかったからです。

ちなみに高齢者の場合、ピロリ菌陽性であっても
除菌してもしなくても胃癌の発生率に差がないことが予想され、
癌が見つからなければ
除菌しないことも珍しくありません。

今回のデータはその問いに対する一つの回答ですが、
最低10年は診ないといけないとのことです。 
Endoscopic surveillance should be continued beyond 10 years after cure of H. pylori
irrespective of the severity of gastric atrophy.
(内視鏡による監視は 胃粘膜萎縮が高度か否かに関係なく 
ピロリ除菌後10年「以上」は行う「べき」である)

※ピロリ菌が胃に住みつき、除菌されるまでは ピロリ胃炎が続くので
胃炎の状態が長く続けば続くほど、胃の粘膜に萎縮という現象が起こり、一般的には
胃粘膜が萎縮すると、除菌しても胃粘膜は完全には元には戻らず、
癌細胞の発生母地となります。
ちなみに胃全体の胃粘膜が高度に萎縮するとピロリ菌も住めなくなり、ピロリ菌は
ようやく死滅します。


この手の話はいろんな人が検証しないと、本当のところがわからないわけで
今後のデータの蓄積を待たないといけないことは確かですが、除菌後も
胃癌が発生する(除菌しないよりは発生率が下がりますが)ことは、
あちこちの医療機関から発表が行われており
何年かフォローしないといけないのは間違いないものの。。。
これほど長くみないといけない「かも」という論文が出るとは思いませんでした。

ピロリ菌による胃癌の病理タイプでは 分化型と呼ばれるタイプが多く
ピロリ菌がいない場合に胃癌が発生する場合、未分化型と呼ばれるタイプが多いと言われており

今回の論文では除菌して5年ほどたつと 未分化型癌が発生してくるとのことでした。

もちろん傾向として、胃粘膜萎縮が高度な方(ピロリ感染から時間が経った方)が 
胃癌発生の可能性が高くなるので
(高くなると言っても、皆さんが思っておられるほどではありません。比較したら
少し高いということです)除菌が無駄というわけではありません。

最近は一部の自治体で 中学生のピロリ健診を行い
胃癌撲滅をめざす方向に向かっているようです。

日経メディカルの記事
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/201706/551633.html

神奈川県医師会
http://www.yokosukashi-med.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/07/015cca68153b6d03259b0562a27b5681.pdf

他 函館市、岡山県真庭市、兵庫県加西市などでも同様の試みが行われています。

ピロリ菌は幼少時に主として 保護者から菌をもらうと言われており
(食事の口移しなどがメインルートと言われています。以前は井戸水や山水を
飲用水で使っていたので 日本人の年配の方にはピロリ菌が多いと言われており、上水道整備が
発達した現在、若年者ではピロリ菌の感染率が下がっています)
そうなると成人した時点で感染からすでに10年は経っている計算です。
健診で上部内視鏡がメニューに入ってくる30代後半や40代となると、20年30年くらいは
ピロリ菌と一緒に過ごしていることになりますので、その長い間、ピロリ菌を退治すべく
胃で炎症が起こり、胃粘膜萎縮と呼ばれる状態が胃の中の広範囲にわたっていることも多く

初めての健診内視鏡をすると 「あーあ(萎縮が広がっている・・)」と思うことも
やはりあります。

中学生に除菌することが 胃癌を本当に減らすことになるのかどうかは
今後の胃がん発生率の成績次第です。
ピロリ菌が仮に口移しで移るのなら、幼少時と言わず、成人になって
ディープキスで感染する可能性も否定できませんし、

マニアックに治療を行って 吉と出るか そうでないかは
神のみぞ知ると言ったところでしょう。ピロリ除菌はそう大した副作用は
ありませんので、抗生剤をめったに飲まないお子には ピロリ菌陽性と出たら
やってみてもいいのではと思います。

小児科や耳鼻科で毎回「今度はどの味がいいかなあ?いちご味?オレンジ味?」などと言って 
抗生剤を多用しているお子には除菌が成功しない可能性が高く
お勧めできません・・・。(小児科や耳鼻科で 必ずしも小児に対し
抗生剤を乱用しているわけではありませんが、
一部の医療機関で保護者の強い要望もあり、
残念なことになっている方もおられるようです)

https://komori-hp.cloud-line.com/





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