京都の闇に魅せられて(新館)

*「若年層小泉支持」の背後にある新自由主義への幻想?(3)

 「何故、エリートでも勝ち組でもない若者たちが、小泉自民党を支持したか?」
 この問題を、「新自由主義への幻想」というテーマに絞って考える、本編第3回目である。
 第1回で、どうもこの現象の背後には「新自由主義への幻想」があるようだ、ということを述べた。続いて第2回で、特にバブル崩壊後の時期から、マスメディアや著名人などによって「幻想」がばらまかれてきたことを述べた。
 今回は、「何故、多くの日本人(特に若年層)が、自由主義への幻想に惑わされてしまったのか? 何故、それを見抜けなかったのか?」という問題について考えたい。



 結論から言えば、それは「無知」「弱さ」、そして「想像力の欠落」のためである。それは、詐欺やマルチまがい商法、怪しげなカルト集団や危ない思想などに、多くの若者がはまってしまう心理と根本的に同じである。
 どういうことか?
 それについて詳しく論じるあたって、新自由主義と小泉改革を信じていた若者のエピソードがふたつあるので、紹介しよう。ある意味象徴的な話であると思うので。
 なお、かなり前のことなので、記憶があやふやな点もある。そのため、細部は実際とは少々異なっているかも知れないが、そこはご容赦いただきたい。大まかな内容は違っていないので。



 ひとつ目は、今から10年ほど前に神戸市内の大学で教員をやっていた人から聞いた、新自由主義経済の信奉者だった学生の話である。
 その学生(仮にA君としておこう)は、学生時代は熱烈な新自由主義の信奉者であった。
 そのA君が、卒業も間近という時期になって、就職活動がうまくいかず悩んでいた。
 その時、ある教員が彼に次のようなことを言った。
「就職活動、大変だね。でも、今君がこうして就職活動に苦戦しているのも、君がいつも主張している新自由主義経済の結果なんだよ
 それ以後A君は、新自由主義を主張することをやめたそうだ……。


 もうひとつは、もう数年前の話になるが……以前、私が趣味でやっているTRPG(注:テーブル・ゲームの一種)のサークルに、ゲスト参加してくれた人(仮に、B君としておこう)の話である。
 昼休憩の時間に雑談していて、何故か小泉政権の話になった。
 その時、自ら「小泉さん好き、小泉政権を支持する」と公言するB君と、反小泉の私とは意見対立して議論になった。

B君:
「小泉さんが首相になってから、いろんなことが変わったやんか。これは大したもんやと思うけど」
子路:
「けどな、その変化というのは、まやかしかもしれん。いや、まやかしどころか、さらに悪い結果をもたらすことになると、俺は思っている。それも、俺らみたいな一般の庶民にとって
B君:
「それでもいいやん。それが悪い結果でも、とにかく変化を起こしたってことを評価すべきやんか!
子路:「……」

 その時私は、ろくに反論できなかった。とは言っても、B君の発言に納得したからではない。「我々にも悪い結果をもたらすかもしれない」と言った私の発言に対して「悪い結果でも、変化を起こした事態を評価すべき」という彼の考え方をどう理解していいかがわからず、困惑してしまったからだ。
 さらにB君はこう続けた。

B君:
「小泉さんのおかげで、1円起業の制度ができたんや。おかげで、俺らみたいな奴らにもチャンスがもらえたんや」
子路:
「それで、君はそれで成功して勝ち組になれる自信がある、というんか?」
B君:
「そうや。俺は必ず大儲けできて、勝ち組になれる方法を、見つけたんや!」

 なるほど、どうやら「小泉・新自由主義改革の一環として行われた1円企業制度によって、自分にもチャンスが与えられた」と、B君は考えていたようだ。それが彼の、小泉支持の大きな理由になっているのだろう。
 しかし一方で疑問に思った。まず「悪い結果でも変化は歓迎すべき」という彼の発想に対して、「社会に対しても、また自分自身に対してもあまりに無責任ではないだろうか?」っと思ったのがひとつ。それともうひとつ。チャンスが与えられたとは言っても、果たしてこの不景気な世の中に、うまい話がざらに転がっているのだろうか? 
 その疑問は、すぐに解けた。昼休みも終わりになった時だ。
 サークルの大先輩・K氏のご家族の方が、持病を患っておられるという話が出た。その時だ。なんとB君、K氏に対して営業活動を始めたのだ。
 彼がK氏に勧めたのは「カンゲンスイ(還元水、と書くのか? 漢字はわからなかったが)」というものだった。その「カンゲンスイ」、飲むと糖尿病や癌などあらゆる病気が治るというのだ。
 そんなものが本当にあるのか!? K氏も私も信じられなかったが、K君はなおもそれをK氏に勧める。K氏が「そんなもんでは直らん」と言っても、B君はなおもK氏にそれを勧める。
 そのうちに、K氏は「いいかげんにせんかあっ!」と机を叩いて怒りだした。普段は温厚で、滅多なことで感情をあらわに怒ることのないK氏が、大声をあげて怒りだしたので、私も驚いたが。その後K氏は、
「君はカンゲンスイで癌も直ると言ったけど、それなら癌がどういうメカニズムで起こって、それをカンゲンスイがどういうメカニズムで治していくのか、説明してみろ」
っと、言った。B君はしどろもどろに説明しだしたが、K氏は「それは違う」と一蹴し、「癌とは何か」「どのようにして起こるか」と言うのをひとつひとつ筋道立てて説明し、その上で、「カンゲンスイなどというものに、そんな効果はない」ということを論証したのだ。これにはさすがのB君も、ほとんど何も言えず、黙るしかなかった。つまり、完膚無きまでに論破されてしまったのだ。
 ちなみにK氏は、元々コンピューターや天文学、さらには労働法など、多くの分野について、ものすごい知識を持つ……つまり非常に博識な人物であったのだ。その上、ご家族の方が長く持病で苦労されてきたこともあって、医学についてもかなり勉強して、相当な知識を持っていた。B君がどういうつもりで、カンゲンスイを売りつけようとしたかは私にはわからない。だが今回は、その相手があまりにも悪すぎたようだ……。
 
 その後、B君に何度かサークル例会の誘いを出したのだが、彼が来ることはなかった。
 後日K氏に、B君のことについて話をしてみた。

子路:
「今更B君のことを悪く言うようで何ですけど……B君のカンゲンスイを売るというビジネス、うまくいくと思いますか?」
K氏:
「99.9999999%無理やね」
子路:
「でしょうねえ。実は、僕もそうじゃないかと思いました。というか、もしかしたらB君、悪質な詐欺かマルチ商法にはめられている可能性も考えられるのですが」
K氏:
「いや、絶対に騙されているぞ、彼は。ひょっとしたら俺らをも騙そうとしていたのかもしれんぞ。もし、本当にどんな病気でも治る水などというものが開発されたら、今頃世界中で広まっているはずやろ」
子路:
「というか、この資本主義の社会ならば、本当にそんなものが開発されたら、圧倒的な情報力と販売網、それに資本を持っている大手製薬会社に、まず話がいくと思うのですが。僕がB君の立場だったら、『何故、こんなうますぎる話が、金も地位も人脈もない自分のところに来るのか?』とか、疑いますけどね」
K氏:
そう。まさにそのとおり。というか、B君は子路君とほぼ同じ年齢やろ? それでこんなことすらわからんとは情けない。あれからB君、うちに来てないやろ。俺は正直、叩き出すつもりで、あそこまでボロクソに言うたったんや」


 以上が、小泉政権とカンゲンスイを信じたB青年に関する話の顛末である。
 読者の皆さんは、B君のことをどのように思われただろうか?
 彼を嗤うことは簡単だ。しかし、私は思うのだ。
 「今の日本人のうちで、果たしてどれくらいの人が、本当に彼のこと嗤えるだろうか?」
と。
 ここで、話を元に戻そう。
 新自由主義への幻想にとらわれ、小泉政権を支持してしまった人たち(特に非エリートの若年層)には、B君と同じような特徴が見られるのではないか? 
 そう私は考えている。もちろん、小泉支持者の人たち全てが、彼のように極端ではないだろうが。
 しかし、B君が小泉支持者であったことは、非常に象徴的であったと思う。そして、まさにB君のような考え方の中にこそ、多くの人たち(本来、新自由主義や小泉改革で犠牲となるような人たち!)が、幻想を抱いてしまったことを解明する鍵がある。そう私は考える。

 それをさらに詳しく説明したいところだが……。
 また長くなってしまったので、一旦切って、続きは次回(第4回)に回したい。

 いかんなあ、また当初の予定をオーバーしてしまったよ。
 私の計画性のなさが出ているなあ。





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