国語屋稼業の戯言

国語の記事、多数あり。国語屋を営むこと三〇余年。趣味記事(手品)多し。

一問を徹底的にやっていく。

2023-08-29 17:57:08 | 国語

早稲田大学の「今は昔」の設問を活かして古文の知識の拡充をねらったものです。

早稲田大学レベルになるとポイントをいくらでもほじくりかえせてやっていて楽しかった記憶がある。

参考にした辞書は学研の『全訳古語辞典』だったはず。


一問をおろそかにしない古文

次の問題からどれくらいの入試のポイントが学べるかを試してみた。中級者向きの学習法になるがたまに自分が持っている知識を整理するのに以下のような作業を自力でやれるようになると(辞書、参考書ありありでよい)偏差値は70代にいく。広げようとすればいくらでも広げられるわけで。色々な教材に用いられている例文をこうやって深めていくと充実した古文対策のカード、ノートが作れると思うので、お試しあれ。

設問
なまなまの上達部よりも、非参議の四位ども、世のおぼえ口惜しからず、もとの根ざしいやしからぬ、やすらかに身をもてなしふるまひたる、いとかはらかなりや。

赤い部分「の」と同じ用法のものを、次の中から選びなさい
ア 日の暮るるほど、例集まりぬ。
イ 雪降りたるは言ふべきにあらず
ウ 若き女いと清げなる出で来たり
エ まことにかばかりは見えざりつ
オ 香をかげば昔の人の袖香ぞする
(平成5年 早稲田―法)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【通釈】なまはんかな上達部よりも、非参議の四位たちで、世間の評判も悪くなく、もともとの生まれつきも悪くなく、平穏な生活をしているの(=非参議の四位たち)は、本当にさっぱりした感じですね

【解答と解説】
ア 例の=いつものように連用格    序詞の「の」も「ように」と訳す
イ 雪が 主格 
ウ 若い女、たいそううつくしい女が(これが答え)同格
エ ほんとうにこれほどのものは(準体言格)
オ 連体格
「の」は同格、主格、連用格、準体言格の順序でチェックすると良い。
【解答】ウ


【ポイント集】
◎序詞(じょことば)
あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む
【あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長長し夜を一人かも寝む】
(あしひきのやまどりのをのしだりをのながながしよをひとりかもねむ)
《訳》
山鳥の尾の垂れ下がった尾のように、長い長い夜を、共寝する相手もなく一人で寝ることになるのであろうか。
《語注》 ▽あしひきの=「山」の枕詞。▽あしひきの…しだり尾の=「長長し」を導く序詞。
《参考》
『万葉集』の「思へども思ひもかねつあしひきの山鳥の尾の長きこの夜を<二八○二>」という作者未詳歌の左注に「或本(アルホン)の歌」として載っているが、後に人麻呂作とされたものである。山鳥の雌雄が夜には谷の峰を隔てて寝るという言い伝えをふまえて、独り寝のわびしさを詠んでいる。

〇なまなまし
● 不本意だ。不承不承だ。
《古事記・仲哀》 「その御琴を取り寄せて、なまなまに弾きましき」   
《訳》  その御琴を取り寄せて、不承不承お弾きになった。
● 中途半端だ。未熟だ。

◎なま
《接頭語》
●動詞・形容詞・形容動詞に付けて「なんとなく」「いくらか」「なまじ」などの意を添える。「なま憧(アクガ)る」「なまむつかし」「なま不合(フガウ)」。
・体言に付けて「未熟な」「世なれない」「中途半端な」などの意を添える。「なま学生(ガクシャウ)」「なま女房」「なま心」

◎かんだちめ
《名詞》
公卿(クギョウ)。大臣・大納言・中納言・参議、及び三位以上の者。上級の役人。「かんだちべ」とも。
《今昔物語集・三一・三三》 「しかる間、その時のもろもろのかんだちめ・殿上人(テンジャウビト)、消息(セウソク)をやりてけさうしけるに」
《訳》
そのうち、その当時のもろもろの上達部、殿上人たちが手紙を送って求婚したが。
※敬語問題のときは念頭に入れておこう。
〇げっけい【月卿】
《名詞》
「公卿(クギャウ)」の中国ふうの名。
《平家物語・一〇・八島院宣》 「一門のげっけい・雲客(ウンカク)寄り合ひ給ひて」
《訳》
(平家)一門の公卿・殿上人が寄り合いなさって。
《参考》
公卿を月になぞらえていう。用例のように、多く「月卿・雲客(=殿上人のたとえ)」と対(ツイ)に並ぶ形で現れる。

◎雲上人
清涼殿の殿上(テンジョウ)の間につとめる身分の高い人。宮中につかえる貴族。雲の上人(ウエビト)。雲客(ウンカク)。─用例(長与善郎)

〇参議
《名詞》
「太政官(ダイジャウクワン)」に置かれた「令外(リャウゲ)の官」の一つ。大臣・大納言・中納言とともに朝議に参与する重職。四位以上の中から有能な者が任命された。平安時代初期に定員八人と定まった。八座。宰相(サイシャウ)。

◎殿上人
《名詞》
四位・五位の人の中で、清涼殿の「殿上の間(マ)」に昇ることを許された人。蔵人(クロウド)は六位でも許された。上人(ウエビト)。雲の上人。
《紫式部日記・消息文》 「『いみじうなむ才(ザエ)ある』と、てんじゃうびとなどにいひちらして」
《訳》
「(紫式部は)たいそう学識があるのだ」と殿上人などに言いふらして。

◎よのおぼえ
《連語》
世間の評判。
《源氏物語・桐壺》 「よのおぼえはなやかなる御方々にも劣らず」
《訳》
世間の評判がはなやかな方々にも見劣りせずに。

◎おぼえ・・・評判

  ※「おぼゆ」の転成名詞が「おぼえ」。自然と思われることが「おぼゆ」なので自然と頭に入ってくることを「おぼえ」が「評判」などの意味になる。


◎思ゆ(おぼゆ) ※読みもでる
「思ふ」の未然形に上代の受身・自発・可能の助動詞「ゆ」が付いた「思はゆ」が「おもほゆ」となって一語化し、中古に至ってさらに「おぼゆ」に変化したものである。
《自動詞・ヤ行下二段活用》
{語幹〈おぼ〉}─
●思われる。感じられる。
《徒然草・一三七》 「心あらん友もがなと、都恋しうおぼゆれ」
《訳》
情趣を解する友が欲しいものだと、都が恋しく思われる。
思い出される。思い起こされる。
《徒然草・一〇》 「うちある調度(テウド)も昔おぼえて」
《訳》
何気なく置いてある調度も昔が思い出されて。
似ている。
《源氏物語・若紫》 「少しおぼえたるところあれば、子なめりと見給(タマ)ふ」
《訳》
少し似ているところがあるので、(尼君の)子であろうと源氏はご覧になる。
《他動詞・ヤ行下二段活用》
思い出す。
《更級日記・かどで》 「わが思ふままに、そらにいかでかおぼえ語らむ」
《訳》
私の望むとおりに、そらんじてどうして物語を思い出して語ってくれるだろうか。
思い出して語る。
《大鏡・序》 「いと興あることなり。いでおぼえたまへ」
《訳》
昔物語はとてもおもしろいことだ。さあ、思い出しておっしゃい。

 

◎口惜し(形容詞・シク活用)
自分の期待が満たされないで「残念だ」、さらに不満が残って「不本意だ」となり、第三者的に見て「情けない」となる。
●残念だ。がっかりする。
《紫式部日記・消息文》 「くちをしう、男子(ヲノコゴ)にて持たらぬこそ幸ひなかりけれ」
《訳》
残念だ、(この娘が)男子でないのが、幸運でなかったのだ。
●不本意だ。はがゆい。不満だ。惜しい。
《源氏物語・若紫》 「『雀の子を犬君(イヌキ)が逃しつる。伏籠(フセゴ)のうちにこめたりつるものを』とて、いとくちをしと思へり」
《訳》
「雀の子を犬君が逃がしたの。伏籠の中にとじこめておいたのに」と、ひどく惜しいと思っている。
●情けない。つまらない。感心しない。
《徒然草・一九一》 「『夜に入りてものの映えなし』と言ふ人、いとくちをし」
《訳》
「夜になるとものはみな見映えがしなくなる」という人はとても情けない。
   ※「シク活用」は心情系の語に用いられることが多い

△根ざし
《名詞》
●地中に根を深く伸ばすこと。根のつきぐあい。
《源氏物語・明石》 「岩に生ひたる松のねざしも心ばへあるさまなり」
《訳》
岩に生えている松の根のつきぐあいも風情があるようすだ。
●生まれつき。素性(スジヨウ)。
《源氏物語・帚木》 「もとのねざし賤(イヤ)しからぬが」
《訳》
もともとの生まれつきも卑しくないのが。

◎いや・し【卑し・賤し】(形容詞・シク活用)
「身分が低い」がもとの意味で、後に、身分が低い人々の持つ性質として、「さもしい」「下品だ」の意味が派生した。
●身分が低い。地位が低い。
《方丈記》 「たましきの都のうちに、棟を並べ甍(イラカ)を争へる、高きいやしき人のすまひは」
《訳》
玉を敷いたように立派な都の中に、軒を並べている、身分が高い人、身分が低い人の住居は。
●粗末である。みすぼらしい。
《徒然草・二二〇》 「何事も辺土(ヘンド)はいやしく、かたくななれど」
《訳》
何事につけても都から離れた土地は、粗末で粗野であるが。
●けちだ。さもしい。いじきたない。
《枕草子・関白殿、二月二十一日に》 「いかにいやしく物惜しみせさせ給ふ宮とて」
《訳》
どんなにさもしく物惜しみをなさる宮だといって。
●下品だ。
《枕草子・ふと心劣りとかするもの》 「ただ文字一つに、あてにもいやしうもなるは、いかなるにかあらむ」
《訳》
ただ言葉づかい一つで、上品にも下品にもなるのは、どうしてだろうか
  ※◎「あて【貴】」・・・上品(だ)
◎あやし【怪し・奇し】
《形容詞・シク活用》─
人間の理解を超えたものごとに対して、不思議だと思う気持ちを表す。正体不明なので、疑わしい、警戒したくなるようすに対していう。
●不思議だ。神秘的だ。
《源氏物語・桐壺》 「げに御かたち・有様、あやしきまでぞ覚え給へる」
《訳》
なるほど、お顔だち・お姿が、不思議なほど(亡き更衣に)似ていらっしゃる。  ※「げに」・・・なるほど
●おかしい。変だ。
《枕草子・清涼殿の丑寅のすみの》 「女御、例ならずあやしとおぼしけるに」
《訳》
女御は、いつもとは違い、(ようすが)おかしいとお思いになったところ。 ※「例」・・・いつも、普通
●もの珍しい。
《徒然草・七三》 「よき人はあやしきことを語らず」
《訳》
身分高く教養ある人(=「よき人」)は、もの珍しいことについては語らない。
●異常だ。程度が甚だしい。
《徒然草・序》 「心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそ、ものぐるほしけれ」
《訳》
心に浮かんでくるとりとめのないこと(=よし【由】なしごと)を、なんとなく書きつづっていると、(思わず熱中して)異常なほど、狂おしい気持ちになるものだ。

 ※「ものぐるほしけれ」の「けれ」。過去の助動詞ではない。形容詞「ものぐるほし」の已然形の活用語尾の一部
●きわめてけしからぬ。不都合だ。
《源氏物語・桐壺》 「打ち橋・渡殿(ワタシドノ)のここかしこの道にあやしき業(ワザ)をしつつ」
《訳》
打ち橋や渡殿のあちこちの通り道にきわめてけしからぬことをしては。
◎身分が低い。卑しい。
《発心集・六》 「あやしの身には得がたき物にて」
《訳》
身分の低い者の身には、手にいれにくい物で。
●みすぼらしい。みっともない。見苦しい。
《枕草子・虫は》 「親の、あやしき衣ひき着せて」
《訳》
親が、みすぼらしい着物を着せて。
●不安だ。気がかりだ。
《奥の細道・那須》 「うひうひしき旅人の道ふみたがへん、あやしう侍れば」
《訳》
その地に初めてきた旅人が道を間違えるようなのも、不安でありますから。
《注意》
意味は「不思議だ」の系列と「身分が低い」の系列に大別される。後者は現代語の「あやしい」にはない意味である。
《参考》
「賤し」とも書く。貴族には理解できないところから、このような意味が生じた。

△かわらかなり・かはらかなり
《形容動詞・ナリ活用》─
さっぱりとしている。こざっぱりとして、きれいだ。
《源氏物語・帚木》 「安らかに身をもてなし、ふるまひたる、いとかわらかなりや」
《訳》
安楽に身を処し、振る舞っている者は、たいそうさっぱりとしているなあ。
《参考》
「らか」は接尾語。「かはらかなり」と表記される例も多いが、「かわ(乾)く」と語源的に同じとみて「かわらかなり」とした。

日の暮るるほど、例の集まりぬ。
 日が暮れるとき、いつものように集まった。  
 暮るる(一単語、下二段連体形) 連用形+ぬ・・・完了「ぬ」

降りたるは言ふべきにあらず
 雪降った夜はいうまでもない。  
 連体形OR名詞++あり系動詞(「侍り」「おはす」など)の「」は断定の助動詞「なり」の連用形

若き女いと清げなる出で来たり
 若い女たいそうすっきりして美しい女が出てきた。 

 格・・・「で」の前後がじ「女」の説明になっているので「同格」。二回目の「女」は「の」とも訳せる。 
〇きよら・・・輝くように美しい

まことにかばかりのは見えざりつ。
 見えざりつ=ヤ行下二段未然形+打消の助動詞「ず」の連用形+完了の助動詞「つ」
 ほんとうにこれほどの(立派な)ものは目にしなかった。

五月まつ花たちばなの香をかげば昔の人の袖の香ぞする
 五月をまって咲き出る橘の花の香りをかぐと昔の(いとしかった)人の袖の香りが薫ってくる.


※2018-09-28の記事を改変。


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