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読解力、世界15位の意味

2019-12-10 21:15:33 | 教育

 OECDが、3年に一度、15歳の生徒を対象に行う、79カ国参加の世界学力テストにおいて、日本は国語の読解力で15位であったことに衝撃を受けているようであるが、私は当然の結果だと受け止めている。

 新聞によれば、、その低迷の理由を、スマホにおける短文の横行や解答の際のデジタル機器操作の不慣れなどと適当なことを言っているが、ことはそれほど単純ではない。

  PISAでは、読解力を、次のように定義している。   「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」

 さらに詳しい文科省の説明を引用すれば、次の通りである。   「PISA型『読解力』では、義務教育終了段階にある生徒が、文章のような『連続型テキスト』及び図表のような「非連続型テキスト」を幅広く読み、これらを広く学校内外の様々な状況に関連付けて、組み立て、展開し、意味を理解することをどの程度行えるかについて、可能な限り客観的にみることをねらいとしている。このため、PISA型『読解力』の問題では、行為のプロセスとして、テキストの中の事実を切り取り、言語化・図式化する『情報の取り出し』だけではなく、書かれた情報から推論・比較して意味を理解する「テキストの解釈」、書かれた情報を自らの知識や経験に位置づけて理解・評価(批判・仮定)する『熟考・評価』の3つの観点を設定している。また、出題形式では、自由記述が約4割を占めている。」    文科省は、このように解説しながら、ここに言うような「読解力」を育成する教育を推進しようとしてきたのであろうか。特に、「テキストの解釈」を超える、「熟考・評価」に関する能力育成を本気で考えてきたのであろうか。

 前回のPISA(2015年)では、4位であった。それは、読解力をPISAの定義に即して捉え、それなりの対応をしていたからである。

 国内でも全国学力テストを行い、学習指導要領に示す指導事項の達成度の確認が行われている。国語に関しては、「国語A」と「国語B」という二種類の問題設定があり、この「B」は、PISA対応の手立てであった。十分に問題を認識した結果であるかどうか疑わしいが、ともかく、PISAで4位という結果を示した。ところが、学力試験において「B」の成績が振るわないために、「B」を独立させるのを止めて「A」に一本化することにしていた。つまり、PISAで求める学力の重要な部分を成果が挙がらないとして排除してしまったのである。その結果としての14位は、大いに納得がいく。

 この一連の動きは、過去の、学習指導要領における「読解」と「読書」の扱いに酷似している。文章、作品を叙述に即して正確に理解する」ことを目指す「読解」と、文章・作品に主体的、個性的に対応し、いわば生活の場の読みの原理を導入した「読書」とに二分して読むことの教育が行われたことがある。私は、読むと言う行為は、すべて「読書」でなければならないと考えており、この二分法には批判的であるが、それでも「読解」一辺倒の読みの教育の歴史を反省する上では一定の効果があった。ところが、その後、「読書」分野は指導しにくいために「読解」中心の古くさい国語教育に逆戻りして今日に至っている。生活の場にどう生きるのか疑わしい「読解」は指導内容が分かり易く、指導し易いという、あまり読書をしなし指導者に支持されて、相変わらず、国語教育の首座を占めている。その結果がPISAの14位であると見れば、その原因がスマホやパソコンではなく、学力観の相違、指導内容と方法に起因する根深いものであると考えなくてはならない。

  今も昔も、文章や作品(言語情報)を、ありのままに正確に受け取ればことが足りるということはないし、なかった。国定や検定教科書の存在が一定の役割を果たして、書いてある通りに理解することを推奨し、教師も、その方が都合が良いことを実感して、わが国の没個性的な読みとその指導の歴史ができあがった。文学作品の読みは、読者によって多種多様であるのが普通で、一つの解釈に収斂させるような指導は、国語教室における虚構である。吟味も評価もしないで、言語情報を受け取ることの危険性は誰もが知っている。ひたすら受け入れる読みは、物知りを造るかもしれない。クイズに答えるには重宝するかもしれないが、人間の価値を知識の量で量るのは無意味である。実の場に生きる読みの力とは、まさしくPISAの読解力の定義の後半部分、わが国が軽視ないしは無視した部分にある。世界の中での順位はどうでもよいから、学力観の誤りだけは修正すべきである。


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1 コメント

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3観点 (石窪美和子)
2020-03-15 18:44:03
初めてコメントします。

新学習指導要領実施にむけ、
勤務校で、新年度の通信表の国語科評価規準(保護者説明用文言も含めて)原案作りに追われています。

3観点の評価規準について文科省から出されたレポートを読み漁っていますが、
現場の評価として使うことばとしてわかりにくいので(私の読解力の問題も)、行き詰っています。
学習指導要領の目標や内容の文言をそのまま評価規準にすると、私たちが評価しにくく子どもにも保護者にも説明するのが難しくなってしまいます。
どこかの学校が規準を出せば、どの学校もそれに倣うことになりそうですが、どこも今回のことでまだ情報がありません。
国語のカリキュラムを考えるときには、まず先生のブログ記事をコピーしたものを読ませていただいてから、自分の考えをもつようにし内容に入りますが、今回は、まず「国語も3観点で評価すべきか」というそもそもの課題から立ち止まっています。

2018年のPISA結果のレポートと先生のこの記事を合わせて読んでいて、ご助言いただきたいと思いました。お願いいたします。
変わらず、「羅列」の長文で申し訳ありません。

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