近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
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7/11井伏鱒二「朽助のゐる谷間」研究発表

2016-08-05 00:00:27 | Weblog
こんにちは。
7月11日に行われた井伏鱒二「朽助のゐる谷間」の研究発表のご報告です。
発表者は三年小玉くん、一年柳谷さん、司会は三年Tが務めさせて頂きました。


今回の発表は「私」の言葉とタエトの行動という副題です。発表では「私」の視点を中心に人間関係の読み解きに着目する形で展開されました。「朽助のいる谷間」は登場人物である「私」を通して物語が展開していきます。視点人物の「私」は主観的な把握によって世界を自分の言葉に「訳述」していくような人物でした。一方の朽助は旧来の生き方を通そうとする人物であるため「私」と朽助の接点は谷間のみとなり、次第に関係は希薄になり物語は停滞します。そんな中でタエトの存在、行動によって再び「私」と朽助との物語が進行します。この物語の根底にはタエトが中心とする人間関係があるといえます。

その上で発表者側は、「私」という存在は他者を自身の論理によって解体してしまう方法をとっており本来の「私」を「メタ・私」として表出させ、他者を「メタ・他者」に解体してしまうと述べ、「私」が他者理解を拒んでいるという見解になりました。ここに関しては、例会で様々な意見が交わされ必ずしも「私」は他者理解を拒んではいない、寧ろそれによって他者理解をしようとしていたのではないかといった、読み手によって異なる意見が散見されました。

他にも本文検討で物語のタエトの「日本人性」についても議論されました。ここでいう日本人性とは、日本という国柄に基づいた日本人性ではなく、単に谷間の中にひっそりと生活を営むタエトが「明日も力いっぱい働くこと」だけを望んでいるという勤労的な日本人性であります。そして「日本人の心を真似る」タエトはある意味、日本人以上に日本人であるといったことも挙げられました。


初めての司会だったので上手く纏められませんが、他にも多くの意見が交わされ意義のある研究となりました。



さて8月8日から8月10日は近研の夏合宿です。今年は石川県の金沢です。 個人的な話ですが昔、兼六園に行ったことを思い出します。
今回、私は合宿に大学の実習関係の都合で参加できませんが、他の会員の方々から合宿から戻ってこられた際にお話しを伺えればと思います。