近研ブログ

國學院大學近代日本文学研究会のブログです。
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12/21 泉鏡花「夜行巡査」研究発表

2016-04-16 17:05:59 | Weblog
こんにちは。
12月21日に行われた泉鏡花「夜行巡査」の研究発表についてご報告させていただきます。



 発表者は2年渡部さん、1年吉野さんで、司会はわたくし1年鷹觜が務めさせていただきました。
まず、「箱庭的世界の中の物語」という副題のもと行われた今回の発表の内容をおおまかに述べさせていただきます。今回の発表では、八田の言動を個人の性格からきたものとした上で、あまり触れてこられなかった語り手の存在に注目し、物語内でどのような働きをしているかについて論を進めていきました。

まとめとしては、この物語は限定的な箱庭空間で展開され、主観によって意見を変える語り手は、一般的な感性を持つ人格ある一個の登場人物として物語を観察し語っていることや、この箱庭的世界で展開された物語の情報は、その外側にある社会から知る術がないこと、しかしこの時間以前から八田を知っている叔父の発言を聞くことによって、八田を個人として捉える視点が生まれ、その視点から八田が社会一般から受けた評価とは違う見方を語り手は提示し、冷淡な行動も、職務に執着しかつ恋愛にも一途な行動も、八田個人の人間性によるものだと証言しつつ、物語を閉じていくことなどが述べられていました。

次に、質疑応答では、本当に語り手が登場人物化されているのかという議論がなされました。限定的な視点の三人称小説であり、叔父の話を聞いただけで干渉しておらず、登場人物としてみるのは無理があるのではといった点が強く指摘されました。また、一人の恋愛事情に左右される箱庭的世界のゆらぎや、三部に別れた構成の不自然さについて議論が進んでいきました。

最後に岡崎先生からは、この小説は発表の中で箱庭的世界と言われていたが、八田個人の内面のドラマであり、機械的な様子が強調されていた八田の人らしいゆらぎにどのような意味があるのか考える重要性や、実際の物語と新聞等による社会の情報量の寡多から起こる評価のズレ、当時の近代主義的な時局の中の巡査という立場、社会から圧殺された八田の悲劇についてなどのご指摘をいただきました。

 それでは失礼いたします。

2年鷹觜