精神科医山内の心の相談室

日常の臨床経験から得た心の悩みに役にたつことをわかりやすく説明します

欲動(欲しい、したい)の向き

2020-01-19 | 日記
「欲動」のタイトルでブログを過去(2014年3月)に書きましたが、
再度「欲動の向き」というタイトルで書いてみたいと思います。
「欲動の向き」が、健康的な方向に向いていないために神経症の症状を出していると思われる経験が多いので書きます。

まず「欲」はあるはず、です。
「ほしい、したい」という欲は基本的で大事なもので、あるはずです。
それが、ないかのように言葉にする、ないかのように動く、そのためと思われる症状ではないかと、
経験することが多いので、そのことを説明します。

欲は、産まれたときからあるのです。子は、その欲を、言葉で表現できないので、泣くことで伝えるのです。
精神科で昔から言われる「手のかかる子ほど将来の問題が少ない」というのは、
欲を表現して親を困らせる、そういう子のほうが将来よく育つ、「のびのび」と育つ。

欲動、つまり「欲」の「動き」がどこに向くのが健康的かは、過去ブログで書きました「好きなこと」であり、「愛することと働くこと」です。
「愛すること」は、好きな人を見つけよう、好きな人と親しくなろう、その好きな人を見つける動きと同じように職業選択をしているか、
「働くこと」は、好きこそ物の上手なれ、つまり自分の欲が先で、職場環境は欲のために使うものかどうか、が健康的な欲の向きの理解に大事です。
恋愛をしないのは、その人の価値観とか、好きなことを仕事にできるのは僅かな人ですよねとか、言われることがあります。
私が言えるのは、恋愛をしない動き、好きなことを仕事にしようとしない動きは、症状の理解に役立つことが多いということです。

「恋愛はいいよ、結婚はいい」、私が精神分析の教育を受け始めた若い頃、
私の精神分析の指導者である先生が夜の食事の席で、私に向かって熱く説いてくれたことを思い出します。
その先生は多分、当時の私が、考えすぎて、結婚に踏み込む前に歳を重ねているようにみえたのでしょう。
あれから長い時が経って、いろんな思いが錯綜しますが、
今の私も、指導者の先生と同じように「恋愛はいい、結婚はいい」、と考え、その説明をします。
好きになり、好きなもの同士が結ばれて、親はこれまでありがとう、これからは私たち二人でやっていきます、
と結婚式で挨拶するように、親より夫婦が大事であり、そして二人の子ができ、おめでたい、
このようになりたい、とみることが健康の基本です。

恋愛する余裕がない、仕事が忙しい。と言われる方。
いえ、忙しいときこそ好きな人と会いたくなる。これが健康の基本です。
子は欲しくない。子ができたら、責任、プレッシャー、と言われる方。
責任義務プレッシャーでみることで、欲しくない、がある、それは多いです。
恋愛結婚の夫婦に子ができたら、おめでたい、その欲の動きに抑制がかかっています。
好きな人の子が欲しい、子が産まれたら、おめでたい、は健康の基本です。
おめでた、とみるよりも、ちゃんと育てないといけない、とみることで、不安症状が出やすくなり、
その一方、精神症状が出ていた方が、妊娠期間中は、症状が少なく、安定していた、と言う方も経験します、
妊娠中に症状が改善し安定する方は、子が産まれることを、めでたい、嬉しいと素直に思い言葉にされる方でした。

社会問題となっている晩婚化、少子化については、診療所の経験でいう精神科医が触れる分野ではないのですが、
欲動が抑えられ症状を出す患者さんと日々出会う度に、「したい」に抑制がかっている
(背景に親子関係、親、実家、元の身内に、欲動の向きが向いている)こととの関連があると思われます。

再度「欲はある」はず、です。
普通でいいです、現状維持がいいです、と欲を抑えたことを言われる方には、
症状を出す理由がある、と思われる経験が多いです。
今、何を食べたい、好きなものを食べたい、一番シンプルなはずの食欲も
強迫的な「しないといけない」、べき思考が強いと、「何を食べたいかわからない」「家にあるものでいい」となり
強迫が緩み、良くなってくると、「そうですね、今は違います、食べたいものは、家にあるものでなく、外に買いに行きたい、欲しいのものをみつけたい」

例えば、嫌な上司、嫌な人に、気持ちが向いて、不安うつ症状が出て、仕事への「やる気がない」、そういう方を多く経験します。
「やる気が出ない」ために、彼女や奥さんより、その嫌な上司が一番好きな人のかのような動きがあって、そのために症状を出す。
忙しいから彼女や奥さんに相談できないのではないのです、
恋愛のときに、忙しいから彼女と会えない、というのは体のいい振り方となりますよね、
自分で気が付かずに、好きな相手と離れてしまっていないか、と説明することがよくあります。

小さいときは親に怒られないかに気持ちが向く、
大きくなると職場の人間関係で、本来そんなに大事でない相手に、気持ちが向いて症状がでる。例えば動悸、息苦しさ。
同じ症状でも、好きな相手への動悸、息苦しさなら、恋の歌の歌詞になる表現で、良いことになのに。

目的本位、森田療法で使われる言葉、過去のブログにも書きました、目的本位が大事です。
目的が一番で手段がその次です。
欲が目的に向けられずに手段に向けられると、目的がわからない、となります。
手段、例えばまず準備を、ちゃんとしないと。ちゃんとした会社、条件が良い。環境が良い。
恋愛であれば、まずちゃんと、は言わないはず。
親なら言います。ちゃんとした会社にちゃんとした人を紹介してくれたら。
自分の中の親を喜ばそうとしていることで、好きな人がわからなくなっている、そう思われる経験が多いです。

「しないといけない」べき思考は、自動的に勝手にしてしまう、「どうしても」とよく患者さんは言われます。しかし、本来、べき思考は、辛いはずのものです。
その逆の、「何したいの、どうしたいの」と聞かれることは本来良いことのはずです。
自分で自分に問う場合でも、何をしたいのだろう、は、わからない、となっても、しないといけない、に、とらわれている辛さから離れる方向で、健康的に楽になる方向です。

典型的な「うつ病」では、元々あった欲のエネルギーが下がります。食欲、性欲、仕事の得意分野への欲など。
私が研修医の頃はよく、主婦の家事がおっくうは、うつ病の症状と習いました。当時は男は仕事熱心が良い、女性は家事に専念がいいとされ、得意な分野が、おっくうとは、うつだろう、とわかりやすかった。
このような元々あった欲のエネルギーが下がる「うつ病」は、必ず治る、高熱で休むのと同じ、大事な判断はしない、まず服薬と休養が大事、そうみることが重要です。

一方、元々あった欲のエネルギーは下がっていないが、抑うつ状態である、うつ病というのがあります。
それは元々「欲はない」という方のうつ状態であったり、元々ないまではないが、「欲」は抑えられ、親の顔色みるように、
職場環境、人間関係にむいて、「どう思われるか」「怒られないか」に向いて、結果「やる気が出ない」「行きたくない」などの神経症のうつ状態、適応障害のうつ状態などなど。

再度、「欲はある」、はず。
自分に限って好きなこと、好きなものがないはずがない、です。

その欲に抑制がかかる、思考の癖は、「強迫」傾向に由来する、過去の親子関係に由来します。
由来はしますが、強迫傾向、思考の癖、つまり「性格」というのは変わります。
性格は変わらないのでなく、変わりにくい。ですが、変わりたいと思うことで変わるのです。
神経症の症状を出している意味を理解すること機会を持つことが変わる兆しです。

好きなことは特にない、将来なりたい、特にない、本当?、そう思い込んでいるだけでは?
安全が一番いい、休みが多い日がいい、趣味を楽しめればいい、本当?そう割り切って生きるのは、無理がある、それで症状が出ているのでは

欲しい、したい、それを健康的な向きにみる、
周りでなく、親でなく、自分のしたいこと、がポイントです。
職場環境の顔色をみるは、組織だから、仕方がない、そのような抑えが「どうしても」出てくるのは「まあ、いいか」、
時間に追われるのは、いい意味の「まあ、いいか」、追われているときこそ、自分のしたいこと、その目的を追うを意識する、それが健康の基本です。

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