九重自然史研究所便り

昆虫採集と観察のすすめ

その2:最初の蛹について

2015-02-12 15:49:04 | 日記
不完全変態と完全変態の境目に位置する昆虫はヘビトンボだと思われます。九重昆虫記第4巻244-255ページに書いたように、私はヘビトンボの幼虫(孫太郎虫)を水溜りと砂からなる陸を作った容器内で飼育しました。その虫はいつも水溜りに頭が出ている石の根元に石を巻くように潜んでいましたが、夏になるとその石の上に登って背中を空気中に出しているので、2~3日前から陸地と水溜りを作りその水の中に移しました。ある朝、まだ幼虫は水中にいたので眺めていると、突然、陸地に上がってきて、湿った土に潜ってしまいました。10日ほど経ってから掘り出すと、蛹は体のかたちにくぼんだ凹みの中にいました。蛹と言っても脚も翅も触角も体から遊離しており、柔らかく弱々しそうですが、多少動くことができ、そのまま放置するとまた自分で土に潜ってしまいました。それからさらに6日後、成虫が羽化しました。蛹の期間は合計16日ほどでした。
 昆虫の進化史上ターニングポイントに当たる最初の虫はおそらくヘビトンボの仲間だったのでしょう。この蛹は、蛹と言うよりも老熟幼虫のようで、そう考えれば不完全変態だとも言えます。しかし、摂食を中止し2週間以上土中に閉じこもった点は、完全変態だと考えられます。また自分の体で作った土中の窪みは繭の始まりです。
 ヘビトンボは鞘翅目(甲虫)の近くに分類されています。そこで甲虫のトホシテントウの変態を紹介します。この虫の幼虫はイラガの幼虫のようにトゲを持っており、カラスウリの葉表に止まって舐めるように食べます。晩秋に飼育した例では、寒くなると葉表に止まったまままるでミイラのように固まってしまいました。寒さのため死んだのかなと思いましたが、そのまま放置しておきました。すると翌年5月、そのトゲの皮が剥けて蛹化しました。そして間もなく羽化しました。甲虫類はハチ類と同じく蛹で越冬できないようで、前蛹状態で越冬し春になってから蛹化し、羽化しました。
 もう一つクリシギゾウムシというクリの実に潜って食べる甲虫の生活史を示します。木から落ちた小さなクリに何物かが小さな穴をあけて産卵した痕跡があるので拾ってきて観察していると、間もなくそのうち2個から十分成長した脚のない甲虫の幼虫が出てきました。それらを土を入れた容器に移すと、脚がないのに体を伸縮させ上手に潜ってしまいました。残りのクリからは翌年秋、種名不詳の小蛾が4匹羽化しました。土にもぐった幼虫は、2年目秋と3年目の秋にそれぞれ一つずつクリシギゾウムシが羽化しました。彼らは老熟幼虫のまま2~3年過ごし、羽化する少し前に蛹化したと思われます。土中で早く蛹化してしまえばば寒冷期になっても深く潜れず春までに死ぬかもしれません。コガネムシの幼虫も夏は浅い場所におり冬は深く潜っているようです。
おそらく鞘翅目と膜翅目は蛹越冬できる種がなく、卵か幼虫か成虫で越冬すると思われます。私の長い経験でも蛹で越冬する膜翅目や鞘翅目の出会ったことはありません。おそらく前者には卵越冬できる種もないと思います。しかし、後者はハバチの一部が卵越冬します。



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