九重自然史研究所便り

昆虫採集と観察のすすめ

63. イスパニョーラ島の生物

2015-08-09 18:14:35 | 日記

その他の爬虫類
 オビエード(1535)はイグアナを見たようで図示している。またワニも見たと思われるが、イグアナの記録とごちゃごちゃになっているようでわからない。
 なおエンリキッジョこにはアメリカワニCrocodylus aeutus)が生息しており、湖の中にある長さ12kmのカブリートス島に船で渡ると野生に近いワニをみることができるという。かつては2000頭もいたが今はせいぜい200頭いる。大きな個体は6m近くに達するが、4m前後のがふつうだ。なおこの湖は水面が海水面より40mも低い塩水湖である。このワニはおそらくオビエードの時代にはもっと広く見られたのではなかろうか。なおアメリカワニはキューバやフロリダ半島に分布しており、マイアミではこのワニをモデルにしたグッズが売られている。
 巨大なイグアナも産し、かつてはタイノの重要な動物性蛋白質源であり、イグアナも絶滅したタイノ呼称である。現在では絶滅の危惧がある動物として、捕獲禁止になっており、エンリキッジョ周辺もその多産地である。小学校の教科書には食っても美味いものではないと書いている。そう書かないと食われてしまい絶滅の恐れがあるらしい。またイグアナが産する土地から出てくる車は警官に停止させられ、イグアナを隠していないかトランクの中まで調べられるという。イグアナはペットとして高く売れるので、国外に持ち出される例もあるそうだ。ドミニカのイグアナは次の2種あり、上述の種はサイイグアナCyclura cornuta(図版の種)で体長120cmもあり、英名Rhinoceros Iguana)で、吻の上に英名の由来になった2~3本の小さな角があり、また後頭部に瘤がある。イグアナは主に乾燥した土地に住み、サボテンの葉や果実を食し、かた昆虫なども食べる。雌は年に10~23個の卵を産む。
 もう1種はCyclura ricordiiリコルディイグアナで体長は前種の半分ぐらいで、明るい灰色、頭部や胴部は部分的に青みを帯びる。島の東南の乾燥地帯主に産する。

62. イスパニョーラ島の生物

2015-08-09 15:03:37 | 日記

続アノーリス属のトカゲ
サント・ドミンゴのマンションの3階に住んでいたので、スケッフェラの木の梢はヴェランダから見下ろすことができる。例の場所で縄張りを守っている個体かどうかわからないが、時々、彼らはスッケフェラのてっぺんにある花のところに上がって来て、吸蜜に来た虫を捕食していた。
滞在中採集したアノーリスは37頭で、琉球大の太田博士に見て頂いたところAnolis distichus, Anolis chlorocyanus(前回の写真右の緑色で喉袋が赤い種)、Anolis cybotes, Anolis porcatusの4種がサント・ドミンゴ付近で採れた。スケッフェラにいたのはA. porcatusでこの種は1995年3月25日1頭、3月31日1頭、4月5日1頭、4月13日1頭、4月14日1頭、4月16日1頭、4月18日1頭、4月22日1頭、4月28日2頭、合計10頭採集した。かれらはいつもだいたい同じ木の同じ場所を占拠していた。Anolis chlorocyanusも緑色の種で喉袋の色が青だったと思う。ホテル・モンターナの部屋にいたのはこの種で、マンションの庭で1993年4月5日1頭採れたが、この種はハラバコアやサント・ドミンゴの植物園や動物園のようなやや自然が残っている疎林で見られた。Anolis cybotesとAnolis distichusも自宅の庭で採れた。他にも違うと思う種をいくつか市内でみかけた。その一つは前回の写真の左側の種で、体長30cmあり、立木に止まっていたので飼育している個体ではないが、大きいのと動物園なので躊躇しているうちに高いところに上がってしまった。動物園に行くたびに注意したが二度と出会えなかった。ところがサント・ドミンゴ市内に新しくペット・ショップができ、その種はその店で売られていた。
アノーリスを捕まえた理由
 アノーリスを集めた理由は両生類の場合と同じくトリパノゾーマやマラリア原虫を検出するためだ。だから捕獲すると必ず血液塗沫標本を作成し検査した。しかし私はどちらも発見できなかった。
フロリダ大学のテルフォルド博士は爬虫類のマラリアの権威で、東大医科学研究所に留学していた際、日本産のカナヘビからPlasmodium sasaiというマラリア原虫を発見し記載した。和名の語尾がヘビで終わっているがトカゲの1種である。彼はドミニカのアノーリスからも数種のマラリア原虫を発見している。媒介者はおそらくサシチョウバエという吸血性昆虫である。私は彼とは長い間、論文別刷を交換し文通していた。彼はフロリダ大学出身で長い間WHOにいたこともあり、フロリダ大学にも勤務していたが、私が専門家としてドミニカにいた頃はマイアミにはいなかったと思う。彼は1996年にパナマのアノーリスからトリパノゾーマの新種を記載した。原虫の進化過程を解明するにはあらゆる動物の寄生原虫を調べる必要がある。しかし、5~6歳彼の方が年長だが、残念ながら彼と私は爬虫類や両生類の血液内原虫を徹底的に研究した世界の最後の二人になってしまったような気がしている。
アノーリスは第二次大戦後、アメリカ軍によって小笠原諸島に繁殖しており、また沖縄に持ち込まれたという。


図版は原住民タイノの残した遺跡である。上左は塩水湖エンリキッジョ湖で、上右はその湖を見下ろす崖にあるタイノの遺跡である。中上と中下は岩石に彫られた偶像である。祭祀を行う場所だったらしい。下の2枚は人類学博物館のタイノの暮らしの展示だ。

61.イスパニョーラ島の生物

2015-08-09 11:03:56 | 日記

ドミニカの爬虫類アノーリス属のトカゲ
 ドミニカの爬虫類と言えばまずアノーリスAnolis属を思い出す。オビエードも1535年にイスパニョーラ島には緑色、褐色、黄色など色様々のトカゲがおり、ある種のトカゲは喉から丸く赤い鶏冠のようなものを出すと書いている。これはおそらくアノーリスの最も古い記録だろう。この属はイグアナ科に属し、カリブ海諸島や中南米で多様な種分化を成し遂げ、200種以上いるという。学者によってはイグアナ科から独立させアノーリス科を設ける人もいる。
 このトカゲは樹木の幹に止まっていて、腕立て伏せのように前足を突っ張り、頭部を背方へそらせ喉袋を膨らませ突き出す動作を繰り返す。この属は市街地の植木で緑色の種をよくみかけるが、それ以外にも褐色や灰色のあまり目立たない色彩の種も多い。しかし地味な色の種も喉袋を突き出すとその部分は明るく目立つ色をしている。この行動は雄が行う一種の縄張り宣言で、同種の雌を招き、同種の雄に対しては自分の体格を誇示するのだと思われる。つまり遠くまで自分の意志を伝達する手旗信号のようなものだ。しかし残念ながら腕立て伏せをやっている時、私の見える範囲内には同種の雄がいたことはない。また雄の側に雌がいたこともない。
サント・ドミンゴ市の自宅前にあるスケッフェラの木の高さ1mほどの二股に枝別れしている部分は喉袋を誇示するのに最適の場所らしく午後2時近くに帰宅するとそこに止まっている緑色の雄を何度も捕えた。そこの所有者を捕えてもいつの間にかその場所が空いたことに気づいた他の雄がそこを占拠した。私はその付近の茂みに同種のトカゲが2頭以上いるのを見たことはないが、実は空席になったことがわかるほど近い場所に他の個体がいくつも潜んでいるらしい。