九重自然史研究所便り

昆虫採集と観察のすすめ

43. イスパニョーラ島の生物

2015-08-02 23:21:12 | 日記

黒い魔女と呼ばれるヤガ
サント・ドミンゴのマンションにガが飛び込んでくることはない。コロンブス来航500年を記念する灯台ができた。それは夜になると上空に向かって強い照明を当て空に十字架が描かれる。その光に引きつけられて鳥とスズメガ飛び回る。そういう例外的な場所ではガが飛んでいるが、普通の市街地では滅多にガを見ることはない。ただマンションの玄関の外灯に近い茂みや軒下に静止している日本のオオトモエほどの大きさのヤガがある。2種あり一つは白っぽく、もう一つは黒っぽい。建物の近くに植えられるマメ科の樹木の葉を食べる種ではないかと思う。人がそういう場所に接近すると、黒いガが驚いて飛び出すのでブラック・ウイッチ(黒い魔女、写真左)と呼ばれ気味悪がられている。ヤガ科のAscalapha odorataという種である。もう一つはそれより少し小さく、白っぽく、黒い帯がある。これはowl moth(フクロウヤガ、写真右)といい、Thysania zenobiaと言い前種より数が少ない。

42.イスパニョーラの生物

2015-08-02 22:10:10 | 日記

ドミニカ産スズメガの種構成
ドミニカで採集された27種のスズメガのうちドミニカ共和国あるいはイスパニョーラ島の固有種は、多い目に数えてもわずかに3種11%である。またカリブ海諸島から記録されているスズメガ科は合計76種である。そのうちカリブ諸島だけに分布する種はほとんどなく、この科の場合、固有種があってもせいぜい1種か2種にすぎないと思う。この科の飛翔力を考えれば、イスパニョーラ島でも常に島外から飛来する同種の個体群があると考えられるから、スズメガの固有種は成立し難いと考えられる。また1種だけが世界的な分布を示すが、残りの種は明らかに新熱帯区つまり、中南米の種ばかりである。
 イスパニョーラ島から記録されているスズメガ科の種数を正確に把握できていないが、おそらく上記76種がすべて採集できると思う。なぜかと言うと正規の文献ではないがアメリカのHolbrook旅行社が1980年代から90年代に2~3度ドミニカ共和国へ採集ツアーを出しており、たまたま入手したツアー参加者募集のチラシによると、1981年のツアーではハラバコアの近辺で夜間採集をやり、スズメガが47種飛来したとあるからだ。私がスズメガを採集したのはババロとボカ・チカの海岸にあるリゾート・ホテルの外灯であった。そこでは他のスズメガ以外のガをほとんど見ていない。一方、ハラバコアのホテルではスズメガは少し採れただけだ。だから一時、スズメガは隣接する島やあるいは中南米から海上にでてイスパニョーラ島の海岸部の明るい照明に飛来するのではないかと考えたほどだ。ただリゾート地区は海岸部の低地林に近いまだ比較的自然が残っている場所にあるので、私は外灯で鱗翅目以外の昆虫もいろいろ採集している。スズメガもまずその付近で繁殖したものが飛んで来たと考えるべきだろう。
ちゃんとした夜間採集はしていないが、サント・ドミンゴや特にハラバコアのホテル・モンターニャの入り口の灯火などで採集したガは合計122種でそのうちヤガ科は69種、シタバとクチバの合計が43種62%を占める。シャクガ科は7種、カギバは4種、ヒトリガ科6種、メイガ類10種だった。ヤガ科にはオオトモエぐらいの大きめの種が数種含まれるが、大部分は中型から小型なガであった。大型で飛翔力の強いスズメガ科が多産することとと、この小型のガが多いということは一見相反する現象のように見えるがどちらも島嶼の蛾類分布の特徴の一つだと思う。
上のカラー写真はババロのホテルで料理人が野菜を使って作った食卓の飾り付けの写真2枚だ。年末やクリスマスにはビュッフェのテーブルその飾り付けも変わる、

41.イスパニョーラ島の生物

2015-08-02 10:44:54 | 日記


ドミニカのスズメガ
Plate 4
Fig. 1. Hyles sp.
Fig. 2. Hyles lineata Fabricius,開長62mm,唯一の日本にも産する種でアカオビスズメという。ブラジルを除く南北アメリカ、南ヨーロッパ、ハワイ、」アフリカ、インド、中国、オーストラリアなど広域分布している。
Fig. 3-4. Xylopaphanes pluto Fabricius, 3. ♂開長50-60mm, 4. ♀開長60-70mm,この属は新熱帯区に65種以上産し、ドミニカでは4種採れた。
Fig. 5. Xylophanes tersa Drury, ♂開長60mm
Fig. 6. Xylophanes sp.開長57mm, ♂1頭採れただけの小型種で、前種と翅の斑紋も違うので新種かもしれない。
Fig. 7. Xylophanes chiron Drury,原名亜種はジャマイカ、サンタ・ルシア、米領ドミニカ島から記録がある。また亜種nechusの分布はメキシコからアルゼンチン北部、ウルグアイで、キューバとイスパニョーラ島産はどちらの亜種に属するか議論があるらしい。
Fig. 8.Isognathus rimosa Grote、開長100mm、本種は任国外旅行でメキシコを訪問した際、メリダ空港で採集した。ドミニカで採集したことはない。

40. イスパニョーラ島の生物

2015-08-02 09:35:49 | 日記

ドミニカのスズメガPlate 3
Fig. 1. Erinnyis oenotrus Cramer, 開長82mm
Fig, 2-3. Erinnyis obscura Fabricius, 2. ♂開長55-65mm, 3. ♀開長65-75mm
Fig. 4. Callionima calliomenae Schaufuss, 開長60mm
Fig. 5. Callionima parce Fabricius, 開長70mm, 北米からブラジルまで分布している種で、イスパニョーラ島からは初記録らしい。
Fig. 6-7. Enyo lugubris Linnaeus, 6. ♂, 7. ♀開長50mm、ホウジャク類に似た小型の種で新熱帯区に7種産する。
Fig, 8. Pergia lusca Fabricis, 開長57mm, 本属は新熱帯区に10~12種産する。日本のホウジャク類に相当し、おそらく昼行性だと思うが、ドミニカでは昼間ホウジャクのように飛んでいるのを見たことはない。しかし、夜間から朝にかけて灯火の近くに止まっているので採集できた。
Fig. 9. Pergia manni Clark,開長52mm、隣国ハイチから記載された種で、本種はタイプ標本に次ぐ第二の標本らしい。イスパニョーラ島の固有種である。
Fig. 10-11. Eumorpha labruscae Linnaeus, 10. ♂, 11. ♀開長90-100mm,この属は新熱帯区に約20種産し、ブドウ科 を食する。

なお私の蔵書を長崎大学熱帯医学研究所ミュジアムに寄贈し、現在、手元にないので、このシリーズのスズメガの同定はつぎに長崎大学へ行く機会(今秋)まで仮同定として保留し、最終的にはその機会に再確認して訂正したい。つまり1~2種の学名を訂正しなければならないかもしれない。ただカリブ海諸島のスズメガ相について論じることはできる。