シアーズは15日未明、ニューヨーク州の破産裁判所に連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請した。裁判資料によると負債は約113億ドル(約1兆3千億円)。年末商戦へ向け運転資金を確保した上で支援先を探す見通しだ。
同社は百貨店「シアーズ」とディスカウントストア「Kマート」を約700店運営している。消費者が求めるものを幅広く提供する総合小売りをいち早く展開。かつてはウォルマートと並ぶ小売りの代表格だったが、電子商取引(EC)へのシフトなど「消費者の変化への対応で出遅れ続けた」(調査会社グローバルデータ・リテールのニール・サンダース氏)。
米国ではECの台頭が既存の小売業を揺るがす「アマゾン・エフェクト」が猛威を振るう。
アマゾンは豊富な品ぞろえなど物販の強みだけでなく、動画配信など様々なサービスを組み合わせることで消費者の日常に浸透。日々集まる膨大なデータを解析し経済圏を膨張させる。
実店舗の賃料や店員の人件費を抱える旧来型の小売りは苦しい。17年には家電量販のラジオシャックや玩具販売のトイザラスなどが退場を迫られた。米国の雇用は過去10年で800万人増えたが、小売りの販売員は2万人しか増えていない。
もっとも、米国の小売業が総崩れしているわけではない。ホームセンターのホーム・デポは過去5年で売上高を35%、株式時価総額を2倍に増やした。家電量販のベストバイも同期間に時価総額を5割近く伸ばすなど業績を急回復させている。
明暗を分けるのがアマゾンへの「抵抗力」だ。ホーム・デポは店舗を顧客の課題を解決する「場」と位置付け、DIY(日曜大工)などで悩みを抱える消費者を取り込んだ。住宅など専門業者の在庫に応じてスムーズに配達する仕組みも取り入れ、顧客層を広げる。
ベストバイは採算悪化を覚悟で価格をアマゾンと同水準に設定。家電は実物を見たいニーズが根強く、ショールームとしての役割をアピールする。今春にはライバルのはずのアマゾンと提携し、アマゾン製品の人気を来客につなげている。
米国を震源とするアマゾン・エフェクトは海外に広がる。日本でもECの市場規模は17年に16兆円超と10年から2倍以上に拡大した。既存の小売業は生き残りへ合従連衡の動きが急だ。
ユニー・ファミリーマートホールディングスは11日、ドンキホーテホールディングスに対し、スーパー事業を展開する子会社ユニーを売却すると発表。 イオンは12日、中四国地盤の大手スーパーと資本業務提携した。
ドンキHDの店舗は迷路のようなレイアウトや大量の手書き販促物など、ネット通販にはない「体験」に消費者が集まる。一方、ユニーのような総合スーパー(GMS)はネットに対抗できる付加価値の発掘に手間取っている。ドラッグストアも日本では処方薬がネット販売できないこともあり業績を伸ばしている。
ECへの抵抗力が明暗を分ける時代が日本でも本格化する。
品ぞろえや利便性、価格など小売店を構成する要素は複数あるが、どれも単独でアマゾンに対抗するのは容易ではない。複数の強みを組み合わせECにはない付加価値を高められるか。生き残りへの必須条件となる。(ニューヨーク=平野麻理子、東京=河野祥平)
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シアーズ 1893年にイリノイ州シカゴで創業。初期はカタログ通販を通じて成長し、都市人口が増えた1930年ごろから実店舗を増やした。冷蔵庫など自社ブランドの家電や工具が、戦中戦後の米国家庭から支持を集めた。
80年代までショッピングモールの看板テナントとして繁栄したが、90年ごろから低価格を売りにするウォルマートやホーム・デポを相手に苦戦。近年はネット通販の拡大を背景に7年連続で最終赤字を計上した。ディスカウントストア「Kマート」と合併し現在の形になった。
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