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『セロニアス・モンクのいた風景』 編者・訳者 村上春樹(2014年10月10日発行)

2014-11-29 23:00:00 | 書評
『セロニアス・モンクのいた風景』村上春樹編著        

 1968年、村上春樹氏は、当時20歳になったばかりの頃、新宿の花園神社近くの「マルミ・レコード」というジャズ専門レコード店で、店主に説教され、ほとんど無理矢理モンクのLP『ファイブ・バイ・モンク・バイ・ファイブ』(1959年の録音)を買わされた。このことがきっかけで、それまでもモンクの演奏は耳にしていたものの、モンクを熱心に聞き入ることとなったのである。

 以後、村上氏は、周りにいる人々にモンクの音楽のすばらしさを伝えたいと思っていたが、本当に大事なものを、本当に深いものを誰かと共有するには、言葉はむしろ余計なものになってしまうため、言葉でそれを具体的に表すことができなかった。とはいえ、いつか何かの形で、人にうまく伝えることができるようになればと思い、いろんなモンクに関することがらを、ひたすら拾い集めてきた。村上氏は、音楽の素晴らしさが、どのように文章で表現されうるかということに、一人の書き手として昔から個人的に深い興味を持っていたのである。

 そして、2014年、村上氏は、本書『セロニアス・モンクのいた風景』を編者・訳者として出版し、モンクの音楽の素晴らしさを文章で表現した。

 村上氏自身は、モンクの音楽をどう表現しているか。モンクの音楽の響きに、宿命的なまでに惹かれた時期があり、ディスティンクティブな(誰がどこで耳にしてもすぐに彼のものとわかる)、極北でとれた硬い氷を、奇妙な角度で有効に鑿削っていくようなピアノの音を聞くたびに「これこそがジャズ」と思い、しばしば温かく励まされたと述べる。幸福な邂逅(かいこう)であったとさえ述べる。

 生きたジャズの歴史のような存在であるロレイン・ゴードンは、一目見た時から、モンクの音の選択は、完全にどこまでも彼独自のものであり、非の打ち所がないのと同時に、まさに常軌を逸しているという。ジャズ批評家ナット・ヘントフは、モンクのつくった曲には、「揺らぎなき正しさの特性」が備わっているという。ピアニストのディック・カッツは、モンクが型破りにみえるのは、きわめて個性的な彼の和声システムのためという。リズムの流れの中で不協和音が効果的に浮かび上がるように、まさに劇的な瞬間をとらえて不協和音を叩くという。

 もともと、モンクのジャズを知らない自分は、言葉からモンクの音楽を感じようと本書を読み進めるが、なかなか分かりづらいところであった。本書で取り上げられた文書に出てくるモンクの音楽の批評において、「揺らぎなき正しさの特性」という言葉もあるように「正しさ」という言葉が印章に残った。

 モンクの人となりも述べられている。1917年10月10日、ノースカロライナ州ロッキー・マウント生まれ。2歳に家族とニューヨークに出来てサンファン・ヒル地区で育つ。受けた教育といえば、ほとんどがピアノの個人レッスンだけであった。30歳でネリー・スミスと結婚し、一男一女の父となった。1982年2月17日脳梗塞にて死去、享年64歳、ニューヨーク州ハーツデイルのファーンクリフ墓地に埋葬される。1951年ピアニストで友人のバド・パウエルと共に麻薬所持容疑で逮捕され、60日間の刑期(ただし周囲の証言では、モンクは無実)及び58年公安を乱した罪状で罰金刑を受ける。

 モンクは時間を守らないひとで、時間に送れ、それが原因でバンドから外されたこともある。自らの葬式まで遅れると評されているのであるからよほどのものであったのだろう。知らない人を相手にはしゃべらない、エキセントリックで無口であった。人間としてもミュージシャンとしてもラディカルなまでに個人主義者であったとドイツの評論家トマス・フィッタリングはいう。モンクは、新しい曲を書くといつも、夜も昼もおかまいなく、誰かがそれをとめるまで、何週間もぶっつづけでその曲を弾いた。その曲が自分の中に根を下ろすかどうかをたしかめていたと硬派ジャズ・ピアニストであるメアリ・ルウ・ウイリアムズはいう。
 
 謎の男と言いうるモンクに貫くものは、いったい何なのだろうか。

 多くの人の評するところ、彼の音楽には「正しさ」があったように、彼の生き様にも、内的ロジックがあり、そのロジックの中心には、「自分自身であること」があったのだと思う。だからこそ、妻ネリーは、子ども達にも伝えようとしている。「人がなんと言おうが、そんなものを気にすることはない。なぜならあなたたちはあなたたちなんだから。あなたたちが自分自身であれば、それでいいのよ。」

ジャズ界の特別な存在となったモンクの内的ロジックのシンプルさ「自分自身であること」ゆえに、モンクに強い関心を抱くようになった。文字だけを追ってモンクのひととなりと音楽を想像して来たが、今度は、ゆっくりと音楽そのものを聴き、味わってみようと思う。


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○Thelonious Monk - Live in Norway & Denmark '66.Intimate TV Concerts.

https://www.youtube.com/watch?v=SzGm0qOooJ4

Piano- Thelonious Monk
Tenor Sax- Charlie Rouse
Bass- Larry Gales
Drums- Ben Riley

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○Thelonious Monk Solo - 1969 Paris Jazz Icons

https://www.youtube.com/watch?v=UNQSeBiqTWE

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○Thelonious Monk Live In Berlin 1969 (Solo Piano)

https://www.youtube.com/watch?v=MGbLRaaqrCc

0:14 Satin Doll
3:53 Sophisticated Lady
8:19 Caravan
14:33 Solitude
18:43 Crepuscule with Nellie
21:08 Blues for Duke

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