「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

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道徳の教科化を、見守る。

2018-07-04 23:00:00 | 教育
 ものごとなんでも、たいていは諸刃の刃です。

 裁判員制度も、道徳の教科化も。

 現実として、始まってしまった以上は、うまく生かしていかねばなりません。難しいですが。
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https://digital.asahi.com/articles/DA3S13556610.html

(耕論)道徳どう教えれば 宮沢弘道さん、苫野一徳さん、さいきまこさん
2018年6月26日05時00分

 この春から、小学校で道徳が教科となった。個人の生き方や内面の自由にかかわることを、学校で一律に教えることには根強い批判がある。「道徳」をどのように教えればいいのか。

 ■結末、読まずに考えさせる 宮沢弘道さん(公立小学校教員)

 道徳が教科化されたことによる大きな変化は、国が検定した教科書で「家族愛」や「節度」といった価値観を、国が求める通りに教えなければならなくなったことです。もし教科書に書いてあることと違う価値観をもつ子がいたら、教員は教科書に沿った考えに導かなくてはなりません。しかし算数のような科学的な知見ならともかく、道徳は答えが一つとは限らない。子どもの内心への介入や操作につながるのでは、と怖さを感じます。

 そこで私の授業では、教科書にあるお話を結末まで読まず、子どもたち自身に結末を考えてもらう「中断読み」という手法を実践しています。

 道徳の教材に「手品師」というお話があります。売れない手品師がある日、孤独な男の子と出会い、手品を楽しんでもらう。次の日も会う約束をするが、手品師にはその日、大劇場での仕事が舞い込む。手品師は迷った末、大劇場ではなく男の子との約束を守る――という内容で「誠実さ」について学ぶ単元です。

 手品師が迷うところで読むのを中断し、各自に結末を考えてもらうと、「大劇場に男の子を招待する」など、様々な意見が集まります。社会には多様な考えの人がいることを知ってほしい、と考えています。

 ところが、初めから結末を読むとどうなるか。子どもは教科書の結論が絶対正しいと考えがちで、教員から意見を求められても、「教科書に合わせた答えを言わなくては」と忖度(そんたく)してしまう。「こういう意見を言えば評価される」と考える子も出るでしょう。

 他校の授業を視察する機会があるのですが、教科書に書かれていることと違う意見の子がいると、クラス全体の「同調圧力」で、教科書の結論に導いてゆく教員もいます。たとえば教員が「他のみんなはどう思うかな?」と問いかけ、他の子たちから一斉に「その意見は違うと思うー」といった声が上がる。そんな時、少数意見の子はずっと下を向いていたりします。

 評価のつけ方も問題です。学習指導要領では、道徳の評価は数値ではなく記述式で書く、としています。ですが、一部の教材会社や教育委員会は、多忙な教員のために評価文例を作っており、評価が機械的に行われつつあります。

 「思いやり」「友情」などの項目別に、どんな行動を取るかを子どもたちにマークシート方式で答えてもらい、その結果をもとに「道徳力」を数値化。データに合わせて評価文例を出す会社もあります。全国レベルでこの子はこの辺りの水準、という評価を出すところさえあります。

 実はこうした現状に「おかしい」という声はあまり上がっていません。そのことにも私は強い危機感を感じます。

 (聞き手・稲垣直人)

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 みやざわひろみち 1977年生まれ。「道徳の教科化を考える会」代表。共著書に「『特別の教科 道徳』ってなんだ?」。

 ■問いを立て、答え探す場に 苫野一徳さん(熊本大学教育学部准教授)

 道徳とは、一般的には「良い行い」「良い考え」のこととされています。ただ何を良いとするかは、時代や文化によっても違います。

 人や家族、宗教により異なるのが道徳、すなわち「モラル」です。公教育で、特定の共同体の慣習的な考え方であるモラルを教えるのは、ナンセンスです。絶対に正しい道徳はなく、お互いに自分のモラルを主張すると、ぶつかり合うだけだからです。

 公教育で大切なことは、すべての子どもたちが自由に、生きたいように生きられる力を育むことです。そのためには、互いの自由もまた認め合う必要がある。哲学ではこれを「自由の相互承認」と言います。どのようなモラルを持っていても、それが他人の自由を侵害していない限りは認め合う。この「ルール感覚」こそ学校で育むべきです。

 この原則を踏まえれば、道徳教育をどうすればいいのかが見えるはずです。例えば学校が決めた校則を、皆がより納得し、互いにより自由になるために作り直す、といった経験を積むような教育です。

 ところが道徳の学習指導要領では、ルールは「守ること」になっています。日本では、「ルールは与えられ、無条件に従うもの」と考える人が多いですが、本来は多様なモラルを持っている人たちが、互いに自由に生きられるために作り合うものです。道徳教育も、本来はそのような市民社会や公教育の本質に立ち戻らなければなりません。

 文部科学省が唱える「考え、議論する道徳」というコンセプトには賛成です。でも教えるべき内容や項目が決まっていれば、それは茶番です。意見を言いっ放しで、「答えはない」で終わってしまうことも望ましくありません。争いを避けるために、時には「共通了解」を見いだし合うことが求められます。

 そこで私は、もっと本質的な議論をするためにも、「哲学対話」や子どもたち自らが問いを立てて実行する「プロジェクト型」の道徳教育などを提案しています。

 たとえば、指導要領に「生命の尊さ」とあった場合は、「安楽死」「死刑」といったテーマについて、自ら問いを立てて、答えていくという学びです。道徳は、すべての教科の要とされています。道徳だけではなく、総合的な学習の時間を使って調べたり、哲学者にインタビューしたりするのもいいでしょう。その中で、さしあたりの自分たちの答えを見つけていくのです。

 「特別の教科 道徳」を今すぐ廃止することは難しいでしょう。当面はルールを作り合う経験やプロジェクト型の道徳教育を進め、ゆくゆくは、多様な価値観を認め合い、市民としての資質を育む「市民教育」へと変えていくべきだと思います。

 (聞き手・杉原里美)

     *

 とまのいっとく 1980年生まれ。博士(教育学)。哲学者。著書に「どのような教育が『よい』教育か」「教育の力」など。

 ■子どもと本音で話そう さいきまこさん(漫画家)

 最近、通信高校に通う女子生徒の母親から、気になることを聞きました。女子生徒が、「学校は心を凍らせる場所だ」と言っていたというのです。彼女は中学時代、いじめを受け不登校になっていました。教師は見て見ぬふりだったそうです。

 学校では「いじめをなくそう」と教えますが、大人の世界にもいじめがありますよね。職場のパワハラも、そうでしょう。道徳の項目として教えたからといって、いじめが止まるのでしょうか。

 日本は、子どもが過度な競争にさらされているとして、国連の子どもの権利委員会から勧告を受けています。道徳が教科になり評価の対象となったことで、子どもはますます本音が言えなくなり、ストレスが増えるでしょう。学力的に優秀な子どもほど忖度して、大人が考える「正解」を言いがちです。

 教育の目標は、自分の意見をきちんと言える子どもを育てることだと思うんです。日大のアメフト事件では、ひたすら上の指示に従っていると、誰かを傷つけてしまう可能性もあることが浮き彫りになりました。「これは、おかしい」と感じる心を育てなければなりません。

 私が生活保護をテーマに漫画を描き始めたのは、政治家までもが生活保護の利用をバッシングしたことに衝撃を受けたからです。権力者の言うことに黙って従うだけでは、自分が本当に困った時に抵抗できなくなってしまいます。

 保護者はまず、子どもの道徳の教科書を読んで、何が書かれているのかを知ったほうがいいと思います。教科書を持ち帰らせない学校もあるようですが、先生にお願いして、自分なりの意見を考えてみることが重要です。

 ただ、その意見をすぐに子どもに伝えると、親の意見に左右されて、子どもは本音が言えなくなってしまいます。何より子どもに話す前に、大人自身も本音で話す人にならなければ、子どもが心を開いてくれません。まずは大人同士が、自由に話せる場を作ってはいかがでしょうか。

 たとえば、「道徳カフェ」と称して集まり、お茶を飲みながら、意見交換するのもいいと思います。そこで本音をきちんと言えるか、人の意見を受け止められるかを、まず自分たちに問うてみる。

 保護者の中には時間や家計に余裕がないため、この問題に関心を持てない人もいます。だからこそ私のように、子どもが既に成人した人や、子どもがいない人も積極的に参加して欲しいのです。

 道徳教育は、「子どもたちが幸せに生きられるかどうか」という、国の将来や子どもの未来に関わることです。自分の意見が持ちにくい現状を、見て見ぬふりはできません。大人が試されていると思います。

 (聞き手・杉原里美)

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 1961年生まれ。作品に、生活保護をテーマにした「陽のあたる家」「助け合いたい」など。

コメント
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