刑事弁護の論点2 被告人が凶悪犯罪の真犯人である等考えられて、国選弁護人として自己の良心に反する被告人の弁護をする場合について
1、決して行ってはならないこと
被告人の承諾が無いのに、弁護人の正義感やその他の個人的価値観を優先させて、有罪を前提とした弁護活動や、犯罪の成立を求める方向での弁護活動を行うことは許されない。
裁くのは裁判官であって、決して、弁護人ではない。
2、「控訴理由なし」と控訴趣意書に記載した控訴審弁護人Y(以下、「被告Y」という。)の不法行為責任(東京地判昭和38年11月28日)
控訴審からはじめて凶悪犯罪の被告人の国選弁護人として選任された被告Yは、もともと、弁護権の本質は、被告人の権利利益に対する不当な侵害を排除し、守ることにあると考えていた。
原審の訴訟記録9冊を閲覧しても原審の訴訟手続になんら不当な権利侵害が存在しない以上、控訴理由なき旨の控訴趣意書を提出しても、弁護権を行使しているとし、また、控訴理由を発見することができないのによい加減な控訴趣意書を作成することは弁護士としての良心の許すところではないので、結局控訴理由なき旨の控訴趣意書を提出せざるを得なかったと主張している。
裁判所は、事後審の性格を有する控訴審における国選弁護人の義務を①原審の訴訟記録の法定の調査義務(最小限の調査義務)、②例外的事実または刑の量定についての事情に関する訴訟記録外の法定の調査義務(少なくとも被告人の面接をすること)、③適当な控訴理由を発見することができなかった旨の法の定めのない告知義務、④被告人の名においてする控訴趣意書の作成について必要な技術的援助を惜しまないが、それ以上被告人の期待するごとき協力をすることができないことを告げて被告人の善処を求める法の定めのない義務の4つの作為義務があるとした。
その上で、本件では、裁判所は、被告Yがなしたことは①のみであり、②③④の作為義務が不履行であるのであるから過失があり、その過失によって被告人の控訴権が侵害され、結果、被告人は精神上の苦痛を受けた。その苦痛は、加害者に対して慰謝料の支払い義務を認めるに値する程度の損害と認定をした。
3、自己の良心に反する被告人の弁護人として、それでも、なすべきこと
被告人は、裁判が確定するまでは無罪と推定され、防御のために事実を争うための訴訟行為をなす権利が認められている。
弁護人が、被告人の展開する弁解弁明にそって検察官立証の矛盾や不備を指摘したり、法律上有利な主張が可能であればそれを用いて無罪の弁護をすることは、当然の職務であり許容される。
以上