「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室  小児科医 小坂和輝のblog

川﨑の事件、不安な気持ちは、担任や養護、学校カウンセラーの先生、そして私達小児科医にご相談下さい。/病児保育鋭意実施中。

リスクコミュニケーション(新型インフルエンザにおいて)

2008-10-07 23:00:00 | 各論:新型インフルエンザに備える
Ⅰ、リスクコミュニケーションとは、
「リスクに関する正確な情報を、市民、事業者、行政などのすべての者が共有しつつ、相互に意思疎通を図ること」をいいます。

専門家関係者が、住民利害関係者に、「情報提供」をするとともに、
住民利害関係者は、専門家関係者と、「意見交換」する
双方向のコミュニケーションであります。

従来型のリスクコミュニケーションは、“一方向”のコミュニケーションであり、安全を強調することで市民を納得させる手法に陥りがちでした。
      ↓

ゼロリスクはありえないことを前提に、情報を関係者で共有し、リスク管理やリスク評価のあり方について相互の理解を深めていく過程で、市民の「不安感」「不信感」も払拭されていく、“双方向”のリスクコミュニケーションが必要です。

Ⅱ、新型インフルエンザ対策の二つの柱
医学的介入
・抗インフルエンザ薬/ワクチン良質な医療の提供(医療体制整備)

非医学的介入
・ 社会的接触の軽減
* 集会・興行施設の自粛等
* 学校閉鎖
* 行動制限(発症者の自宅待機、不要不急の外出自粛)

この二本の柱をもって、新型インフルエンザの対策は考えられます。
具体的な対策の課題は、Ⅲとなります。


Ⅲ、新型インフルエンザ対策の主な課題
① ワクチン・抗インフルエンザ薬の研究開発、製造、備蓄の強化
② ワクチン接種の対象者・優先順位の明確化
③ 水際対策の現場レベルでの具体化
④ 自治体の取り組み体制の強化、地域医療体制の整備
⑤ 企業や政府における事業継続計画の策定など、社会機能維持のための条件整備
⑥ 国民に対する広報・啓発


ここの⑥での国民に対する広報・啓発こそ、リスクマネージメントが必要です。


Ⅳ、新型インフルエンザ対策の広報・啓発におけるリスクコミュニケーションの目的

新型インフルエンザに関する普及啓発は、単なる広報ではありません。対策全体の有効性を左右するベーシックな対策そのものとなります。

なぜならば、

新型インフルエンザは他の天災と違いヒトーヒト感染で広がるため、対策の要は、人々の行動をどのように管理するかにあります。

リスクコミュニケーションは、情報共有という手段により人々が納得して対策を行うことです。「対策に同意する」環境を形成します。

事前のリスクコミュニケーション次第で、被害規模が変化する。したがって、リスクコミュニケーションの失敗でウイルスという天災が人災になる可能性もあります。

リスクコミュニケーションをすることで、
「対策の有効性を高める」すなわち、「被害最小化」が達成されるのです。


Ⅴ新型インフルエンザのリスクコミュニケーションの難しさ
新型インフルエンザのリスクコミュニケーションは、難しいです。

「リスク評価が難しい」のです。

パンデミックは、いつ・どこで・誰に、どんな病毒性、感染力で、どんな規模で起こるかわからない。

結局、「情報提供が難しい」です。


では、どのように具体的にリスクコミュニケーションをすればよいのでしょうか。


Ⅵ新型インフルエンザのリスクコミュニケーション

発生前:リスクコミュニケーション
* 関心を高めること
* とるべき行動について正しい認識を得てもらう
* 対策実施・協力に対する納得性をたかめること
* 国民・医療従事者・自治体などから意見を聞いて反映すること
「外に出たらこうこうです。」「こうなんじゃない?」

発生後:クライシスコミュニケーション
* 迅速・適確な情報提供(体制構築)
* とるべき行動について正しい認識を得てもらう
* 不安を助長するような情報氾濫(無根拠情報・デマなども含む)の収拾
「外にでるな!」


Ⅶ新型インフルエンザのリスクコミュニケーションをする上での注意点

情報提供での注意点
① 対象が広い(提供先は子どもから高齢者まで全住民)=様々な理解力や感受性を前提=独居高齢者や外国人など情報弱者も存在 
⇒多彩な媒体(広報誌、放送など)で情報伝達、ターゲットを明確にして分かりやすくひきつける表現を。
② 必要な配慮を。感染した人への偏見や差別的な反応、感染者を出した企業等への風評被害の可能性
⇒誰もが感染し、感染させるかもしれないという平等な可能性を強調
③ 状況(フェーズ)における対策に応じて個人の対応も異なってくる
⇒対策の意味・位置づけを明確に表現し、誤解の余地のないコンパクトなメッセージをだす。
④ 規模が大きいとリアルな想像の範囲を超えてしまい、実感がわかない。「自分のこと」として受け止めにくい。
⇒他人事から自分のことになるように。
罹患率25%、最大死亡者64万人⇒4人に一人がかかってしまう、平成19年度の日本人の総死亡者数約111万人の半分強に当たる。
⑤ 自分が感染するか、自分が治るかどうかしか考えない。
⇒公衆衛生的対策への理解、ワクチン・抗ウイルス薬使用法への理解をもってもらうために、家族や仲間のこととして受け止めてもらう

⑥ 感染者の自由な行動が、感染拡大の原因となる
⇒個人の利害を超えて、社会の利害を考える、みんなの共同責任とし、公衆衛生的対策のための基盤をつくる。

これらの注意点から見えてくる課題として、


Ⅷ、情報提供の課題
① 新型インフルエンザ対策は、行政ばかりでなく、国民一人ひとりが取り組むべきものであること
② 限られた医療資源をどう分配するか、その原則を、国民が納得のいくように伝えること
③ 医療だけでは新型インフルエンザのリスクをゼロにはできないこということをつたえること
④ 外出自粛や学校閉鎖、企業活動の縮小など、社会的な対応が不可欠であることの理由を分かりやすく伝えること
⑤ 感染を封じ込める対策から蔓延をしのぐ対策へ切り替えることで、主に医療資源の分配方針が変わる点を、はっきり伝えること

Ⅸ結びに
リスクコミュニケーションは単なる情報提供ではありません。リスクコミュニケーションで、国民・医療従事者・自治体との間の信頼基盤形成をもとに、それぞれが、実際に行動を起こせてはじめてその目的が達成されます。


*これは、10/4開催の新型インフルエンザ リスクコミュニケーションワークショップにおける厚生労働省 結核感染症課 新型インフルエンザ対策推進室 石川晴已氏のご講演を参考にまとめました。
コメント