防空の盾、イージス艦について解説

2018-12-05 21:26:46 | 軍事ネタ



よくニュースでイージス艦 という言葉を見る。
アメリカ海軍や海上自衛隊が配備している強い軍艦、
という認識はもはや誰にでもあるのかなと思うけど、
「でも結局イージス艦とはなんぞや」 という人向けの簡単な解説。


1, 個艦防空と艦隊防空

まず軍艦の種類として汎用駆逐艦(DD)ミサイル駆逐艦(DDG) がある。
(海自の場合は駆逐艦を護衛艦と呼び替える)

汎用駆逐艦は一般的な戦闘艦で最も数が多く配備されているが、
対空能力としては基本的には自艦に放たれたミサイルに対してのみ、
短距離対空ミサイルで迎撃する、これを個艦防空能力 という。

それに対してミサイル駆逐艦は、強力なレーダーと長距離対空ミサイルを装備し、
自艦だけでなく艦隊全体に対して放たれたミサイルや航空機を迎撃する。
これを艦隊防空能力 という。

つまり艦隊防空を担う対空特化艦のことを従来はミサイル駆逐艦と称したが、(大きいサイズの艦は"ミサイル巡洋艦(CG)"とも)
イージス艦とはこれらミサイル艦にイージスシステムを搭載した艦のことを呼ぶ。


2, イージスシステムとは

イージスシステムとは防空能力をさらに強化したシステムである。
日米のミサイル艦は長距離対空ミサイルとしてスタンダードミサイルSM-1を搭載していたが、
従来のミサイル艦ではイルミネーターという照準器1基につき1発のSM-1しか誘導できなかった。

このイルミネーターは通常だとミサイル艦ごとに2基ずつ搭載していたので、
つまり従来のミサイル艦は同時に2発までの対空目標を同時に処理できるということになる。

しかし1970年に実施されたソヴィエト連海軍最大の演習"オケアン70"において、
ソ連海軍は90秒以内に100発の対艦ミサイルを集中的に着弾させる飽和攻撃を実演してみせた。
これはアメリカ海軍にとって脅威として受け止められた。

つまり当時のミサイル艦の艦隊防空として同時対処能力2発というのは不十分に思われたので、
イージスシステムの開発が進行した。


あたごのVLS、このフタの中にミサイルが格納されており、発射時は垂直に飛び出る

3, イージスシステムの防空能力

イージスシステムは新型多機能レーダーAN/SPY-1を装備し、
フェイズド・アレイ・レーダーにより反応速度は大幅に短縮され、
それを中心に艦内の武器システムは全てコンピューターにより連結管制された為に即応能力も向上し、
新型長距離対空ミサイルSM-2は慣性航法装置を導入したことにより同時対処可能数も増大され、
それに伴いミサイルランチャーも2連装式から垂直発射機構VLSを装備することによりに同時発射可能数も増え・・・。

わかりやすくいうと、それまでのミサイル艦に比べ、
空中目標追跡数は同時に200以上同時対処能力は12~16発
また従来艦だと武器管制は全て人がやっていたが、
コンピューターによる自動管制により最善の攻撃法を選択し実施することで、
それまでの伝達や判断に依るタイムラグを大幅に短縮し即応能力が向上し、
ミサイルは2連装ランチャーだと2発ずつしか撃てなかったものが、(それ以上誘導できないので必要がなかった)
VLSのセル数分だけ同時に発射できるようになったので従来よりも同時発射可能数が大幅に増えたという感じである。

ギリシャ神話のイージスの盾からとられた名称どおり、
従来のミサイル艦に比べ艦隊防空能力が大幅に向上した。


4, 最新型のイージス艦では

イージス艦の同時対処能力は12~16発という記述で、従来よりは多いと言っても、
想像してたよりも少ないという印象を抱く人もいると思う。

ここの仕組みについて解説しておくと、
従来式のSM-1ミサイルだと誘導から命中までイルミネーターがずっと目標を照射し続けなければいけなかったため、
同時対処可能数はイルミネーターの艦搭載数、つまりほぼ2基という形になっていた。

イージス艦に搭載されるSM-2ミサイルは、慣性誘導といってイルミネーターではなくAN/SPY-1レーダーがおおまかに目標の位置を指示する。
それに従いSM-2は飛翔して目標に接近し、命中する直前の数秒間だけイルミネーターが直接誘導を行う。
このおかげでたくさん同時に撃てるようになったわけだが、
命中する瞬間だけは従来と変わらずイルミネーターごとにミサイル1発ずつしか誘導できないため、
イルミネーター搭載数以上の同時弾着は今までと同じく無理ということになる。

しかしイージスシステムは高度のコンピューター処理により脅威度を判断し順位をつけ、慣性誘導中のSM-2に対して、
高脅威のものから優先して命中させ、数秒ずつずらして次の目標へイルミネーターを照射するために、
この仕組みにより結果的に同時対処能力が向上しているのだ。


そして長距離対空ミサイル・スタンダードシリーズの最新版SM-6 では、
今までのSM-2のセミ・アクティブ誘導方式と違い、完全なアクティブ誘導方式となり、
レーダーの慣性誘導により目標に接近した後は、SM-6自身の(シーカーという)により直接目標を捕捉し命中まで追尾する。

つまり艦搭載のイルミネーターによる照射が不要となるので、これにより飛躍的に同時対処可能数は増大すると思われる。
その気になればSM-6搭載数=同時対処可能数となり、100発搭載していれば100発同時に迎撃できるようになるだろう。
日本も2020年に就役予定のまや型ミサイル護衛艦にはSM-6を搭載予定である。




5, ミサイル防衛

日本のイージス艦の任務は艦隊防空だけではない。
弾道弾の迎撃任務、通称ミサイル防衛(MD) も担っている。
核ミサイルなどに対してMD用ミサイルであるSM-3を発射して迎撃を行うが、
命中精度は依然低いとされる。

これに関しては気が向いたら別記事にて。


6, まとめ

従来のミサイル艦は同時対処可能2発、イージス艦は12~16発。
最新型ミサイルSM-6が搭載されればよりたくさん同時対処可能になる。

スタンダードミサイルの種類:
SM-1 従来式ミサイル艦用の長距離対空ミサイル、セミアクティブ誘導方式。
SM-2 イージス艦用の長距離対空ミサイル、慣性誘導方式がついたセミアクティブ誘導方式。
SM-3 弾道弾迎撃用の大型対空ミサイル、宇宙まで飛ぶ。
SM-6 SM-2の発展型、アクティブ誘導方式によりイルミネーター不要となった上に、省略したが多彩な機能がある。


現在のアメリカ海軍の駆逐艦と巡洋艦は全てイージス艦であり、
タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦22隻
アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦65隻 (76番艦まで就役予定)
ズムウォルト級ミサイル駆逐艦1隻 (3番艦まで就役予定、正確に言えばイージスシステムの発展型を搭載)
現在88隻のイージス艦が就役している。

海上自衛隊はイージス艦の保有数はアメリカに次いで2位であり、
こんごう型ミサイル護衛艦4隻 (こんごう、きりしま、みょうこう、ちょうかい)
あたご型ミサイル護衛艦2隻 (あたご、あしがら)
まや型ミサイル護衛艦 (2隻、2020年以降に就役予定)
現在6隻のイージス艦が就役中、将来的には8隻体制となる。


ちなみに気になるお値段は、こんごう型が約1500億円、まや型は約1800億円。
イージス艦ではないあきづき型護衛艦が約750億円なことを考えると、
イージス艦は一般的な護衛艦よりも2倍以上のお値段になる。

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